習い事「辞めたい」子どもに無理強いは逆効果 発達心理学の専門家が解説

子育てがちょっとラクになる「こども心理学」小塩真司先生インタビュー #5

ライター:中村 美奈子

▲習い事「辞めたい」と言われたら…無理強いするのはNG?(写真:アフロ)
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学校の宿題で出る「将来の夢」。就職活動で聞かれる「会社に入ったらやりたいこと」。ソレ、今すぐ答えがないとダメですか? その悩み、心理学を知ると「悩まずに、やれることをやってみよう」へと変換することができます。教えてくれるのは、発達心理学の専門家で書籍『こども心理学』の監修もつとめる小塩真司先生(早稲田大学教授)。

心理学は、目には見えない“こころ”を、科学を使って明らかにする学問。心理学で“こころ”の働きのパターンを知ると、生きるのがちょっぴり楽になります。

小塩真司(おしお・あつし)早稲田大学文学学術院教授。専門は発達心理学、パーソナリティ心理学。

【お悩み】子どもが習い事を「辞めたい」と言います。辞め癖がつくと、就職してからもすぐ辞めるのではと不安になります。どうしたらよいでしょうか?

【ヒント①】「辞めたい」気持ちのまま続けるのは逆効果

やりたくないことをやらされるなんて「ムリ!」。なんで親は「続けなさい」って言うの?(画像:書籍『こども心理学』より)

小塩先生:小さいころから続けてきた習い事なら、どうして辞めたいと思ったのか、子どもなりの理由があると思います。親にとってはいきなりでも、子どもにとってはいろいろ考えた結果かもしれませんよね。そうしたらやっぱり、ちゃんと子どもの話を聞いてあげることが大事です。

親が「続けてほしい」と思う心理は「リアクタンス(反発)」という反応です。自分の選択を制限されたり否定されたりすると、反発する気持ちが生まれます。だから、継続してきたことを途中で辞めたり変更したりすることに、抵抗を感じるのです。

親はどうしても受け止めづらい気持ちになりますが、長い人生、ひとつの選択がその後何にどう繫がるかなんて、誰にもわかりません。

「せっかく長年続けてきたのに、今辞めるのはもったいない」というのは、継続させる理由にはならないでしょう。子ども自身が「辞めたい」という気持ちのまま続けさせてもパフォーマンスはあがらないし、逆に心に悪い影響が出ることもある。だから私は、続けさせる意義はないと思います。

【ヒント②】自分がやりたいこととは違った?

小塩先生:就職でも、新卒で入ったばかりの会社を、4月や5月で辞めてしまう人が増えたという話を聞くことがありますよね。でも、入社早々に新人が辞めてしまうのは、採用する側にも一因があると感じています。

実際に仕事をする前に、採用面接などで「どんな仕事をしたいですか?」と聞くのは、社会や仕事についてよくわかっていない子どもに「将来何になりたい?」と聞くのと同じ。聞かれた側は、自分が接している狭い世界の中で「やりたいこと」を考えなくてはならないので、必死に答えと理由を探します。それで「内定」をもらえたのだから、「自分の希望が受け入れられた」と思うのは、ごく自然な心の動きでしょう。だから、希望する仕事や働き方ができなかったときに、強い不満を感じるのです。

また、小中学生がなりたい職業で「動画配信者」や「アイドル」「スポーツ選手」が人気なのは、子どもたちにとって身近な成功者=お金持ちとして、思い浮かべやすいからです。子どもたちの目には、動画の中で配信者が楽しそうにおしゃべりしたり、ゲームをプレイしたりする姿が印象に残りやすいですよね。だから、「遊んでお金が稼げるなんて神!」と安易に捉えがち。実はその裏で、時間をかけて他のいろんな作業をしていることが、見えていない、なんてこともあります。

ですから、理解や知識が足りない状態の子どもや若者に「やりたいこと」を決めさせるのは、無理があるのです。今の社会は、子どもに「将来の夢」を聞きすぎているように思います。ですから私は、自分の子どもには「将来やりたいことなんて決めるのは無理だから、あまり考えなくてもいいよ」と言っています。

【結論】無理強いするのはNG。子どもが夢中になれることをいっしょに探そう。

基本的には、「辞めたい」という子どもの意思を尊重してあげましょう。親子で「辞める理由」を納得できるまで話し合うことも大事です。

【今回の心理学のヒント】#理想自己と現実自己 #カール・ロジャース

「自分のがんばりが、良い結果に繫がっている」と思えれば達成感を得られますが、逆に「努力が実らない状態が続くと、何をしても無意味だと感じる」と、無力感に襲われます。「もう無理だ」と思ったら、思い切って辞めることも必要です。(画像:書籍『こども心理学』より)

子育てがちょっとラクになる「こども心理学」連載

「イヤイヤ期」をラクに 〔こども心理学・第1回〕

子どもの「やる気」 〔こども心理学・第2回〕

子どもの「いじめ」 〔こども心理学・第3回〕

子どもを比較しない思考術 〔こども心理学・第4回〕

子どもの「ひとり言と嘘」 〔こども心理学・第6回〕

こども心理学

イラスト学問図鑑 こども心理学(監修:小塩真司)

\一生モノの教養が身につく!/
人に自慢し、明日から使いたくなる学問図鑑。

これ1冊にこどもから大人まで、正解のない時代に役に立つ心理学の知識が盛りだくさん。心理学の有名な実験やテーマが短い文章とくすりと笑えるイラストで楽しく学べる。暗記ってどうすればできる? やる気の出し方って? 理想の自分になるには? 心が分かれば生き方もコミュニケーションもうまくなる!

〈小学上級・中学から・すべての漢字にふりがなつき〉

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おしお あつし

小塩 真司

Atsushi Oshio
心理学者

1972年生まれ。名古屋大学教育学部卒業、同大学院教育学研究博士課程前期課程・後期課程修了。博士(教育心理学)。中部大学人文学部講師、助教授、准教授を経て、2012年4月より早稲田大学文学学術院准教授、2014年4月より教授。専門は発達心理学、パーソナリティ心理学。

1972年生まれ。名古屋大学教育学部卒業、同大学院教育学研究博士課程前期課程・後期課程修了。博士(教育心理学)。中部大学人文学部講師、助教授、准教授を経て、2012年4月より早稲田大学文学学術院准教授、2014年4月より教授。専門は発達心理学、パーソナリティ心理学。

なかむら みなこ

中村 美奈子

Minako Nakamura
ライター

漫画、アニメ、映画、ゲーム、アイドルなど幅広いエンターテインメントジャンルで記事を書いているライター。漫画家や声優、役者、監督、クリエイターなど、これまでに200名以上へのインタビューを経験。

漫画、アニメ、映画、ゲーム、アイドルなど幅広いエンターテインメントジャンルで記事を書いているライター。漫画家や声優、役者、監督、クリエイターなど、これまでに200名以上へのインタビューを経験。