学校の宿題で出る「将来の夢」。就職活動で聞かれる「会社に入ったらやりたいこと」。ソレ、今すぐ答えがないとダメですか? その悩み、心理学を知ると「悩まずに、やれることをやってみよう」へと変換することができます。教えてくれるのは、発達心理学の専門家で書籍『こども心理学』の監修もつとめる小塩真司先生(早稲田大学教授)。
心理学は、目には見えない“こころ”を、科学を使って明らかにする学問。心理学で“こころ”の働きのパターンを知ると、生きるのがちょっぴり楽になります。
【お悩み】子どもが習い事を「辞めたい」と言います。辞め癖がつくと、就職してからもすぐ辞めるのではと不安になります。どうしたらよいでしょうか?
【ヒント①】「辞めたい」気持ちのまま続けるのは逆効果
小塩先生:小さいころから続けてきた習い事なら、どうして辞めたいと思ったのか、子どもなりの理由があると思います。親にとってはいきなりでも、子どもにとってはいろいろ考えた結果かもしれませんよね。そうしたらやっぱり、ちゃんと子どもの話を聞いてあげることが大事です。
親が「続けてほしい」と思う心理は「リアクタンス(反発)」という反応です。自分の選択を制限されたり否定されたりすると、反発する気持ちが生まれます。だから、継続してきたことを途中で辞めたり変更したりすることに、抵抗を感じるのです。
親はどうしても受け止めづらい気持ちになりますが、長い人生、ひとつの選択がその後何にどう繫がるかなんて、誰にもわかりません。
「せっかく長年続けてきたのに、今辞めるのはもったいない」というのは、継続させる理由にはならないでしょう。子ども自身が「辞めたい」という気持ちのまま続けさせてもパフォーマンスはあがらないし、逆に心に悪い影響が出ることもある。だから私は、続けさせる意義はないと思います。
【ヒント②】自分がやりたいこととは違った?
小塩先生:就職でも、新卒で入ったばかりの会社を、4月や5月で辞めてしまう人が増えたという話を聞くことがありますよね。でも、入社早々に新人が辞めてしまうのは、採用する側にも一因があると感じています。
実際に仕事をする前に、採用面接などで「どんな仕事をしたいですか?」と聞くのは、社会や仕事についてよくわかっていない子どもに「将来何になりたい?」と聞くのと同じ。聞かれた側は、自分が接している狭い世界の中で「やりたいこと」を考えなくてはならないので、必死に答えと理由を探します。それで「内定」をもらえたのだから、「自分の希望が受け入れられた」と思うのは、ごく自然な心の動きでしょう。だから、希望する仕事や働き方ができなかったときに、強い不満を感じるのです。
また、小中学生がなりたい職業で「動画配信者」や「アイドル」「スポーツ選手」が人気なのは、子どもたちにとって身近な成功者=お金持ちとして、思い浮かべやすいからです。子どもたちの目には、動画の中で配信者が楽しそうにおしゃべりしたり、ゲームをプレイしたりする姿が印象に残りやすいですよね。だから、「遊んでお金が稼げるなんて神!」と安易に捉えがち。実はその裏で、時間をかけて他のいろんな作業をしていることが、見えていない、なんてこともあります。
ですから、理解や知識が足りない状態の子どもや若者に「やりたいこと」を決めさせるのは、無理があるのです。今の社会は、子どもに「将来の夢」を聞きすぎているように思います。ですから私は、自分の子どもには「将来やりたいことなんて決めるのは無理だから、あまり考えなくてもいいよ」と言っています。
【結論】無理強いするのはNG。子どもが夢中になれることをいっしょに探そう。
基本的には、「辞めたい」という子どもの意思を尊重してあげましょう。親子で「辞める理由」を納得できるまで話し合うことも大事です。
【今回の心理学のヒント】#理想自己と現実自己 #カール・ロジャース
子育てがちょっとラクになる「こども心理学」連載
「イヤイヤ期」をラクに 〔こども心理学・第1回〕
子どもの「やる気」 〔こども心理学・第2回〕
子どもの「いじめ」 〔こども心理学・第3回〕
子どもを比較しない思考術 〔こども心理学・第4回〕
子どもの「ひとり言と嘘」 〔こども心理学・第6回〕
こども心理学
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人に自慢し、明日から使いたくなる学問図鑑。
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〈小学上級・中学から・すべての漢字にふりがなつき〉
中村 美奈子
絵本サイトの運営に関わり、絵本作家への取材も多数。また漫画、アニメ、映画、ゲーム、アイドルなど幅広いエンターテインメントジャンルで記事を執筆。漫画家や声優、役者、監督、クリエイターなど、これまでに200名以上へのインタビューを経験している。
絵本サイトの運営に関わり、絵本作家への取材も多数。また漫画、アニメ、映画、ゲーム、アイドルなど幅広いエンターテインメントジャンルで記事を執筆。漫画家や声優、役者、監督、クリエイターなど、これまでに200名以上へのインタビューを経験している。
小塩 真司
1972年生まれ。名古屋大学教育学部卒業、同大学院教育学研究博士課程前期課程・後期課程修了。博士(教育心理学)。中部大学人文学部講師、助教授、准教授を経て、2012年4月より早稲田大学文学学術院准教授、2014年4月より教授。専門は発達心理学、パーソナリティ心理学。
1972年生まれ。名古屋大学教育学部卒業、同大学院教育学研究博士課程前期課程・後期課程修了。博士(教育心理学)。中部大学人文学部講師、助教授、准教授を経て、2012年4月より早稲田大学文学学術院准教授、2014年4月より教授。専門は発達心理学、パーソナリティ心理学。