いじめの原因「子どものSOS」に気づく方法と必要な「親の行動」とは 心理学の専門家が解説
子育てがちょっとラクになる「こども心理学」小塩真司先生インタビュー #3
2024.06.13
ライター:中村 美奈子
子どもが「いじめ」に遭わないか、親の心配は尽きません。その悩み、心理学を知ると「悩まずに、やれることをやってみよう」に変換することができます。教えてくれるのは、発達心理学の専門家で書籍『こども心理学』の監修もつとめる小塩真司先生(早稲田大学教授)。
心理学は、目には見えない“こころ”を、科学を使って明らかにする学問。心理学で“こころ”の働きのパターンを知ると、生きるのがちょっぴり楽になります。
目次
【お悩み】「いじめ」はどうしてなくならないのでしょうか。もし我が子が「いじめ」にあったら、どうしたらよいでしょうか?
【ヒント①】閉じられた関係性だと「いじめ」が起きやすい
小塩先生:これはとても難しい問題です。大人でも子どもでも、昔も今も、集団をひとつの場所に閉じこめておくと、いじめが起きやすくなります。
実例をあげると、仲間として戦った軍人同士でも、敵国の捕虜となって閉鎖的な環境で暮らしているうちに、必ず上下関係ができてしまうということがありました。人間にはそういう傾向があるのです。ですからいじめや差別が起きるのは、人間として避けられないことだといえます。
いじめや差別は、人が集団で生活する中で自然に起きてしまうことだと考えられています。人種差別をテーマとした映画を観ると、差別する側は、相手が自分より下の立場であるのが当たり前だと思っていたりしますよね。片方にとっては「当たり前」でも、もう片方にとっては「当たり前にしてほしくない」ことなので、差別という意識が生まれるのです。
【ヒント②】親は子どもになにか起きたらすぐに声をあげ、行動する
小塩先生:子どもになにかあったときは、親がきちんと対処しましょう。たとえばあるご家庭のお子さんが、同級生に強く叩かれたり、蹴られたりしたことがありました。同級生は遊びのつもりだったかもしれませんが、子どもが親にSOSを伝えてきたので、親は「学校ではどうなっているのでしょうか」という手紙を書いて、学校に届けに行ったそうです。このケースのように、「自分が困ったときには、親がすぐに行動してくれるんだ」と思えば、子どもも周囲も変わるかもしれません。
2013年に「いじめ防止対策推進法」が成立・施行されました。その法律では、国、地方公共団体、学校の設置者、学校・教職員、保護者それぞれの立場の人間が、いじめが起きたときにどんな役割を果たさなければいけないか、どんな対策を取るべきかが、明確に定められています。
ですから、子どもに何か起きたらすぐに声をあげて学校に対応を求めるなど、親として行動を起こしましょう。「人間は、いじめをする心の働きがある」ということを知ったうえで、どう対処するのが良いかを考えるのが第一です。
【ヒント③】子どもと話す場所や時間をつくっている?
小塩先生:子どもが、自分からなかなかSOSを出すことができない場合もありますが、それもある意味しかたのないことです。子ども自身が「話したくない・知られたくない」と思うこともあります。ですから、普段から子どもが親に話せる、親が子どもの話を聞ける環境を作っておくことが必要です。
例えば、子どもと話すときは、いつも家のどこで話しますか? そして、子どもと話す時間は、いつが多いですか?
幼児期なら、お風呂でいっしょに湯船に浸かっているときや寝かしつけのときなど、決まったタイミングがあるかもしれません。しかし子どもが成長するとお風呂も寝るのも別々になるので、意識的に子どもとコミュニケーションを取る必要が出てきます。
日常的に話す機会がないのに、親が気になったタイミングで「なにか困ったことはない?」と急に聞いても、子どもは話す心の準備ができていないので、いきなり悩みを打ち明けるなんて無理。また親がいつも忙しそうにしていたら、気を遣って自分から話しかけることができません。
家庭環境や親子関係は、人それぞれ。自分と子どもにとって一番コミュニケーションが取れる環境はなにか、親が作戦を練ることが大事です。
【ヒント④】親の行動で子どもはどう変わったか。行動の結果をきちんと把握する
小塩先生:先ほど親が行動するのが大切だと話しましたが、行動した結果、子どもがどう変わったのか、どんな効果が生まれたのかをきちんと把握するのも大事です。
学習心理学には「報酬」と「罰」という考え方があります。「報酬」は何かをしたことで行動が増えること。逆に「罰」は行動が減ることです。例えば子どもがいたずらをして、親が𠮟ったとします。その結果、同じいたずらをしなくなったら、親が𠮟ったことは「罰」として機能しています。しかし、𠮟ったのにいたずらをやめない場合は、「報酬」として機能していることになります。
自分がいたずらをすると、親が自分だけに話しかけてくれる(=報酬)と子どもが思ったら、子どもはわざと𠮟られるようないたずらをするのです。逆に、親がよかれと思って子どもに話しかけた結果、子どもが部屋に閉じ籠もるようになったら、話しかけることが子どもにとっては「罰」として機能していることになります。
はじめからうまくいくわけはないので、何度か失敗を繰り返しているうちに、なんとなくお互いに言いたいことが伝わってきたなと思う瞬間が出てくるでしょう。それが、コミュニケーションが密になってきたと言えるレベル。
子どもにどうして欲しいかを決めて、そうしてもらうにはどう働きかけたらよいかを考えて実行し、実際に行動がどう変化したかを確認する、この繰り返しが、ヒント③で出た「親が作戦を考える」ということなのです。
【結論】普段から子どもが話しやすい環境を作っておき、子どものSOSをキャッチしたらすぐに対処し、結果を確認する。
学校の教室や会社の部署など、人の出入りや関係性が固定された場所では「いじめ」が起きやすい、という人間のこわい心理を知っておきましょう。そして実際に起きてしまった場合に、ひとりで抱えこまずにすむ環境を作っておくと、安心ですね。
【今回の心理学のヒント】#内集団と外集団
子育てがちょっとラクになる「こども心理学」連載
「イヤイヤ期」をラクに 〔こども心理学・第1回〕
子どもの「やる気」 〔こども心理学・第2回〕
子どもを比較しない思考術 〔こども心理学・第4回〕
子どもの習い事 続ける・続けない 〔こども心理学・第5回〕
子どもの「ひとり言と嘘」 〔こども心理学・第6回〕
こども心理学
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〈小学上級・中学から・すべての漢字にふりがなつき〉
中村 美奈子
漫画、アニメ、映画、ゲーム、アイドルなど幅広いエンターテインメントジャンルで記事を書いているライター。漫画家や声優、役者、監督、クリエイターなど、これまでに200名以上へのインタビューを経験。
漫画、アニメ、映画、ゲーム、アイドルなど幅広いエンターテインメントジャンルで記事を書いているライター。漫画家や声優、役者、監督、クリエイターなど、これまでに200名以上へのインタビューを経験。
小塩 真司
1972年生まれ。名古屋大学教育学部卒業、同大学院教育学研究博士課程前期課程・後期課程修了。博士(教育心理学)。中部大学人文学部講師、助教授、准教授を経て、2012年4月より早稲田大学文学学術院准教授、2014年4月より教授。専門は発達心理学、パーソナリティ心理学。
1972年生まれ。名古屋大学教育学部卒業、同大学院教育学研究博士課程前期課程・後期課程修了。博士(教育心理学)。中部大学人文学部講師、助教授、准教授を経て、2012年4月より早稲田大学文学学術院准教授、2014年4月より教授。専門は発達心理学、パーソナリティ心理学。