知らないではすまされない!日本で【体罰が法律で禁止】された深刻なワケ
子育てアドバイザー・高祖常子氏「叩かない&どならない子育て2022」#1~スウェーデンに見る体罰禁止の法制化~
2022.08.08
子育てアドバイザー・キャリアコンサルタント:高祖 常子
国や行政の子育てに関連した多数のプロジェクトで委員を務め、全国で講演なども行っている、子育てアドバイザーの高祖常子(こうそ・ときこ)さん。
3児の母でもある高祖さんが、10年以上、強く言い続けていることは、「叩かない、どならない」子育て。しつけとして軽く手をあげることも、暴言もNGです。
世界で初めて子どもの体罰を法制化した国、スウェーデンへ取材した経験もある高祖さんに、体罰における日本の現状とこれからを教わります。
2020年より日本で体罰は法律で禁止に
皆さんは2020年4月から日本で「体罰禁止」が法律になったのを知っていますか?
「え! 知らないよ」と言う人も多いのではないでしょうか。実際2021年の国の調査(厚生労働省)では法律になったことを「知っている」と答えたのは2割にとどまっています。
そもそもの経緯をざっと説明します。2018年3月、東京都目黒区の5歳の女の子、結愛(ゆあ)ちゃんの虐待死が起こりました。
私は10年以上にわたって虐待防止の活動をしてきましたが、虐待の一番初めに体罰があると思っていたので、仲間と共に「体罰禁止の法制化」を訴える活動をしてきました。
NPOとして提言書を出したり、関係省庁や議員の方にお願いするなどの活動です。お話しすると共感はしてくれるのですが、国はなかなか実効力ある仕組みづくりには動かなかったのです。
そして、結愛ちゃんの虐待死の事件が起こりました。5歳の結愛ちゃんが書いたひらがなの反省文と共に連日報道されましたから、まだ記憶に残っている方も多いのではないでしょうか。
このときにも、虐待防止を強化していこうと国では審議会も開かれ、その会議にも提言書を提出したのですが、そこでも「体罰の法的禁止」とはなりませんでした。
なぜ通らなかったかというと、「叩いたり怒鳴ったりできないと、子どもをしつけることができない」と思っている方が少なくなかったからのようです。
そんな中、翌年の2019年1月に千葉県野田市の10歳の心愛(みあ)さんの虐待死が起こりました。結愛ちゃんと同様に親は「しつけのためだった」と言っていました。
この事件を聞き、「この国は何人の子どもたちが虐待で亡くなれば動くのか」と、あまりにひどく改善が進まない現実に、さすがに頭にきて、仲間に「署名活動をさせてもらいます」と宣言し、2019年2月に署名サイトを立ち上げました。
約10日間で2万人の署名が集まり、虐待防止の議連や省庁などに署名を提出しにいきました。
署名の力に加えて、さまざまな方が動いてくださり、その年の6月に国会にかけられ、親から子どもへの体罰禁止は児童虐待防止法と児童福祉法の改正法として、法律になったのです。
その後、ガイドラインを設定する委員会が立ち上がり、私も委員に入れていただきました。
法律では(ほかの法律との整合性などを取る必要が生じて)「親からの体罰禁止」という表記にとどまりましたが、1回目の会議で、親はもちろん「すべての人」、体罰はもちろん「暴言も含む」、「どんなに軽いものであっても」というところを押さえたいと提案させていただき、会議メンバーが合意してくださいました。
この体罰の法的禁止とガイドラインの考え方を含めて、日本は世界で59ヵ国目の体罰禁止国となりました。
この法律がスタートしたのが冒頭に紹介した2020年4月です。
これは日本の国として、子どもへの向き合い方を大きく変えるチャンスでしたが、世の中はコロナで大騒動のころ。園や学校も休みになり、卒業式や入学式もできないという状況で、報道もコロナ一色となりました。
法律改正は、体罰の実態と禁止の意義を国民に広く知ってもらうチャンスなのですが、ほとんど報道されないという事態に陥ったわけです。
ということもあり、法律改正を知らない方が多いというのが現状で、体罰禁止の考え方を広げていきたいと思い、活動をしています。
「子どもへの体罰禁止」はスウェーデンが世界1ヵ国目
世界で最初に、子どもへの体罰を全面禁止した国がスウェーデンです。
人権の国というイメージもあると思いますが、実はスウェーデンは1960年代には、子どものしつけに体罰をしている親が9割以上いたのです。
ただ、1970年代半ばに義理の父の虐待で子どもが殺されるという事件が起こり、多くの国民に衝撃を与えました。
この事件をきっかけに、メディアなどでも討論の機会が多く設けられるようになり、世論の後押しもあって、1979年スウェーデンで世界に先駆けて体罰禁止の法律が生まれました。
スウェーデンでは法改正後、全世帯に「あなたは子どもを叩かずに育てられますか」という16ページの冊子を配布。牛乳パックには小さな女の子が「私は決して自分の子どもをたたかない」と言っているイラストと法改正についての簡単な情報を載せたそうです。
そのような取り組みもあって、法改正の2年後、1981年には全スウェーデン家庭の90%以上が体罰禁止について認識していたというデータ(※1)があります。
※1=体罰禁止法定化後のスウェーデンの取組(公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン国内事業部)
さらに「過去1年間に子どもを叩いた親の割合」は、27.5%(1980年)から2.8%(2011年)に減少、子どもの虐待死は15人(1970年)から4人(2010年)に減少しています。
体罰の法的禁止と共に啓発活動を行った結果、体罰を使う親や虐待が減り、虐待で命を落とす子が減ったと言えるでしょう(※2)。
※2=シンポジウム「体罰のない、ポジティブな子育てを~『長くつ下のピッピ』の作者とスウェーデンの子ども観に学ぶ~」(セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン)