発達障害・発達特性のある子の【トイレトレーニング】の方法を「療育の専門家」が解説
#7 トイレトレーニングはどうする?〔言語聴覚士/社会福祉士:原哲也先生からの回答〕
2024.06.19
一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表・言語聴覚士・社会福祉士:原 哲也
発達障害の特性のある子どもの場合の工夫
① 感覚過敏がある場合
トイレはいろいろな刺激があるため、感覚過敏がある子どもがトイレを嫌がることは多いです。芳香剤のにおい、トイレを流す音、流したときの水しぶきや跳ね返り、足が着かなくてブラブラする、座ったときのお尻の感覚、狭い空間、暗い照明などが嫌な刺激の主なものです。
まず、トイレでの子どもの様子を観察して何が嫌なのかを見極めます。そのうえで子どもにとって嫌な刺激や感覚を、できるだけ減らす工夫をします。例えば、足がブラブラするのが嫌ならば足底が着くように足台を設置したりおまるを使うなどです。
②こだわりがある場合
排泄に関しては、
① オムツでしか排泄しない
② お風呂やカーテンの陰で排泄する、自宅でしか排泄しない
③ 決まった姿勢でしか排泄しない
などこだわりがある場合があります。強引な方法でやめさせようとしてもまず無理なので、スモールステップで「トイレでの排泄」ができるように工夫します。
たとえば、「オムツでしか排泄しない」なら、オムツの上にパンツを穿かせて少しずつパンツに慣れる、次に曜日や時間帯を決めるなど時間を限ってオムツをやめてパンツで過ごしてみる、など本当に少しずつ進めることを考えます。
③運動機能に課題がある場合
●腹圧が弱い
発達障害の特性のある子どもの場合、筋力が弱く排便時のいきみに必要な腹圧が不十分なことがあります。そのときは排便時に、大人が腹部を少し押してあげます。ジャンプなどの活動を生活や遊びの中でたくさん取り入れて筋力をつけることも考えられます。
●お尻が拭けない
肛門付近は見えないので、排便後、お尻を拭くにはある程度ボディイメージが育っていることが必要です。しかし、発達障害の特性のある子どもの場合、ボディイメージができていないことが多く、お尻を拭くのが苦手な子がいます。
その場合は、トイレットペーパーを持たせた手を大人が誘導して「ここを拭くよ」と肛門の位置を教えます。繰り返し根気よく教えましょう。背中やお尻など自分では見えない所にシールを貼り、それをはがす遊びはボディイメージを高めるよい活動になります。
④その他の課題がある場合
●遊びに熱中して失敗する
普段は尿意を感じ、トイレに行ける子でも、遊びに熱中すると尿意を感じられず失敗する子どもは多いです。このような場合は、周囲の大人が一定の間隔で声をかけ、一定間隔でトイレに行くことを習慣化させましょう。
●トイレットペーパーを扱えない
トイレットペーパーをどこでカットしたらいいかわからない、延々とひっぱり出す、などです。子ども用に適度な長さに切ったペーパーを用意しておくなどの工夫をします。
●拭き残りを気にする
排便後の拭き残りを極度に気にしたり、便が手につくことを必要以上に心配する子どももいます。このような場合は、お尻の清浄剤を使う、「ペーパーを5枚使って5回拭き取る」など子どもが「これで大丈夫」と安心できるルールを決める、使い捨て手袋を使う、大人が仕上げをするなどの工夫が考えられます。
最後に
排泄が自立すると、子どももそれを誇らしく感じるのか、何やら堂々としてきます。保護者もぐっと楽になるので、保護者は一日も早く、トイレトレーニングを完了させたいと思うでしょう。
しかし、トイレトレーニングは子どもの発達が一定の状態に達して初めて可能になります。このことを忘れず、適期を見極めてトレーニングを始めてください。
発達障害の特性がある子どもの場合、トイレトレーニングに際して多くの課題があることがほとんどです。それでも、子どもの状況を知り、子どもが安心できるように工夫して環境を整えることで、ほとんどの場合はできるようになります。突然できるようになることも珍しくありません。
焦らなくてよいのです。怒らない、脅さない、罰しないを意識して、取り組んでみてください。
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今回は、発達障害の特性のある子のトイレトレーニングについて、原哲也先生に教えていただきました。一般的なトイレトレーニングの時期や方法にくわえ、こだわりや運動機能の問題など発達特性のある子特有の課題への対応も教えていただきました。どんな場合も保護者が「焦らない・怒らない・脅さない・罰しない」を守っていくことが大切だということがわかりました。
次回以降も原哲也先生が「発達障害・発達特性のある子」の子育てのお悩みにお答えしていきます。
原哲也
一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表理事・言語聴覚士・社会福祉士。
1966年生まれ、明治学院大学社会学部福祉学科卒業後、国立身体障害者リハビリテーションセンター学院・聴能言語専門職員養成課程修了。カナダ、東京、長野の障害児施設などで勤務。
2015年10月に、「発達障害のある子の家族を幸せにする」ことを志し、長野県諏訪市に、一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN、児童発達支援事業所WAKUWAKUすたじおを設立。幼児期の療育、家族の相談に携わり、これまでに5000件以上の相談に対応。
著書に『発達障害の子の療育が全部わかる本』(講談社)、『発達障害のある子と家族が幸せになる方法~コミュニケーションが変わると子どもが育つ』(学苑社)などがある。
わが子が発達障害かもしれないと知ったとき、多くの方は「何をどうしたらいいのかわからない」と戸惑います。この本は、そうした保護者に向けて、18歳までの療育期を中心に、乳幼児期から生涯にわたって発達障害のある子に必要な情報を掲載しています。必要な支援を受けるためにも参考になる一冊です。
原 哲也
1966年生まれ、明治学院大学社会学部福祉学科卒業後、国立身体障害者リハビリテーションセンター学院・聴能言語専門職員養成課程修了。カナダ、東京、長野の障害児施設などで勤務。 2015年10月に、「発達障害のある子の家族を幸せにする」ことを志し、長野県諏訪市に、一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN、児童発達支援事業所WAKUWAKUすたじおを設立。幼児期の療育、家族の相談に携わり、これまでに5000件以上の相談に対応。 著書に『発達障害の子の療育が全部わかる本』(講談社)、『発達障害のある子と家族が幸せになる方法~コミュニケーションが変わると子どもが育つ』(学苑社)などがある。 ●児童発達支援事業「WAKUWAKUすたじお」
1966年生まれ、明治学院大学社会学部福祉学科卒業後、国立身体障害者リハビリテーションセンター学院・聴能言語専門職員養成課程修了。カナダ、東京、長野の障害児施設などで勤務。 2015年10月に、「発達障害のある子の家族を幸せにする」ことを志し、長野県諏訪市に、一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN、児童発達支援事業所WAKUWAKUすたじおを設立。幼児期の療育、家族の相談に携わり、これまでに5000件以上の相談に対応。 著書に『発達障害の子の療育が全部わかる本』(講談社)、『発達障害のある子と家族が幸せになる方法~コミュニケーションが変わると子どもが育つ』(学苑社)などがある。 ●児童発達支援事業「WAKUWAKUすたじお」