【子どもの発達を知ろう】 「食事・睡眠・運動」子育ての悩みに「発達の専門医」榊原洋一先生が驚きの回答
【セミナーレポート】「うちの子、遅れてる?」を専門家が解説! 「0・1・2・3歳児の発達を知ろう」#2
2023.11.14
小児科医/お茶の水女子大学名誉教授:榊原 洋一
睡眠が細切れなのは、卒乳していないことが原因?〔質問6〕
2歳ですが、いまだに夜中に数回起きます。卒乳していないことが原因でしょうか? 授乳を続けていても、一晩中寝ていてくれるようになるのでしょうか?
卒乳の問題ではありません〔回答6〕
浅いレム睡眠、深いノンレム睡眠
卒乳の問題ではありません。そもそも2歳で夜中に数回起きるのは普通のことです。
夜中に数回起きるのは、睡眠が細切れであるということ。ご存知のように生まれたばかりの赤ちゃんは昼夜構わず少し眠っては起きて泣いてというのを繰り返しますよね。
2歳、3歳になると、メインの睡眠は夜の時間帯にシフトしていますが、昼寝もしますし、夜も一つのまとまった眠りではなく、短い睡眠の連続なんです。
睡眠は、浅い眠りのレム睡眠と深い眠りのノンレム睡眠に大きく分けられます。
レム睡眠では夢を見て、夢の内容に反応して身体を動かすこともあります。目を開けて眠っていることもあります。夢に驚いたり、物音に反応して起きたりしてしまうのも、このレム睡眠のときです。
生後間もないときに1日15時間ほどあった睡眠時間は、2〜3歳では11時間ほどになっていて、そのうち40〜50%がレム睡眠だと言われています。
これが6〜7歳になると、睡眠時間は10時間、そのうちレム睡眠は30〜40%ほど。大人になると、レム睡眠は10%ほど。
さらに私のように老人になると、レム睡眠はわずか5%ほどしかありません。同じように寝ているように見えても、睡眠の中身は年齢によってこれくらい違うものなんです。
2歳くらいだと、レム睡眠のときに目を開けてしまって、そのまま起きてしまう頻度はまだ高いです。
個人差はありますが、年齢と共に必ずまとめて眠ってくれるようになるので、それを待つしかありません。夜中に起きる原因は卒乳していないことにあるのではなく、眠りそのものの特性にあります。
夜中に起きるのは卒乳のせいではない
夜中に目が覚めてしまったときにミルクや母乳をあげると落ち着いて、また眠りについてくれることが多いのは事実で、そのために、夜中に起きることと卒乳していないことを結びつけて考えたくなるのでしょう。
でも、原因は眠りそのものにあるので気になさらないでください。大変だとは思いますが、ミルクをあげてまた眠りについてくれるなら、卒乳を急ぐ必要はないと思います。
他に親ができるのは、眠れる環境を整えてあげることです。暗くて静かな環境が基本です。
夕方になると、眠るためのホルモンであるメラトニンが分泌され始めます。このメラトニンは明るいと分泌されませんので、夜はできるだけ暗くしてあげたほうがいいです。
中には明るいほうが眠れるという人がいます。暗い部屋を怖がる子もいるかもしれません。
しかし、実験では豆電球が点いているだけでメラトニンの分泌が減ることがわかっていますから、できるだけ暗い環境をつくってあげてください。
鉄棒のぶら下がりができない〔質問7〕
3歳の子どもが鉄棒や登り棒につかまってコアラのようにぶら下がることができないのですが、ぶら下がれるようになるにはどうしたらいいですか?
ぶら下がれるようになる必要はありません〔回答7〕
お気持ちはわかりますが、私の意見としては、ぶら下がれるようになる必要はまったくないと、まず申し上げておきます。
鉄棒や登り棒などは小学校に入るとできたほうがいいと言われますが、そのような運動は人間の本来の活動の中では不必要なもの。できなくてもいいことなんです。
学校の先生はびっくりすると思いますが、縄跳びなんてできなくても構いませんし、鉄棒ができなくても問題ありません。
逆上がりなどはもってのほかで、あんな運動はできなくても人間の活動には何の影響もありません。
運動にはできてもいいけど、できなくてもいいものがたくさんあります。
運動発達の話にも挙げましたが、立って歩き、階段を登り、手で物を扱うなどの運動は大事です。でも、ぶら下がるという運動はできなくてもいいんです。
必要のない運動をできるようにするための知識を私は持っていないので、お答えには正直困ってしまいます。
逆に、どうしてお子さんにコアラのようにぶら下がれるようになってほしいのですか? と質問の真意を聞きたいくらいです。
公園の遊具の中に、ターザンロープと呼ばれたりするようですが、滑車につながったロープにつかまってワイヤーを滑走するものがありますよね。
ああいった遊具で遊ぶにときには、ぶら下がる能力はより楽しむために有効かもしれません。でも、3歳の子がひとりで遊ぶにはまだ早い遊具だと思います。
適した年齢になるころには、ひとりでつかまって楽しめるくらいの握力や身体の使い方などは備わっているはずです。だんだんできるようになるので、急ぐ必要はありません。
本来必要のない運動をできるようにすることは、お子さん本人もそれを望むなら悪いことではないでしょう。スポーツがいい例ですよね。
安全に、そして効果的に何かの運動を練習するなら、まずは体操教室などで運動を始めるのはいいかもしれません。
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榊原先生の、専門家ならではのはっきりとした回答に、ほっと胸をなでおろした方もいるのではないでしょうか。
次回のセミナーレポート第3回では、脳の発達、子どもとの接し方、発達障害に関するお悩みが登場します。
(#3に続く)
榊原 洋一
小児科医。1951年東京生まれ。小児科医。東京大学医学部卒、お茶の水女子大学子ども発達教育研究センター教授を経て、同名誉教授。チャイルドリサーチネット所長。小児科学、発達神経学、国際医療協力、育児学。発達障害研究の第一人者。著書多数。 監修を手がけた年齢別知育絵本「えほん百科」シリーズは大ベストセラーに。現在でも、子どもの発達に関する診察、診断、診療を行っている。
小児科医。1951年東京生まれ。小児科医。東京大学医学部卒、お茶の水女子大学子ども発達教育研究センター教授を経て、同名誉教授。チャイルドリサーチネット所長。小児科学、発達神経学、国際医療協力、育児学。発達障害研究の第一人者。著書多数。 監修を手がけた年齢別知育絵本「えほん百科」シリーズは大ベストセラーに。現在でも、子どもの発達に関する診察、診断、診療を行っている。