18歳で起業! お魚王子・鈴木香里武が“好き”を仕事にできた2つの理由

岸壁幼魚採集家・鈴木香里武さんインタビュー#3【お仕事編】

岸壁幼魚採集家:鈴木 香里武

「子どもが周りと違うことに夢中になっていたら、それはそのジャンルのスペシャリストになれるチャンスでもあります」と、香里武さん。  撮影:嶋田礼奈(講談社写真部)

幼魚や海の魅力を発信している“令和のお魚王子”こと、鈴木香里武(すずき・かりぶ)さん。

岸壁幼魚採集家、2022年にオープンした「幼魚水族館」館長、コラボレーション企画会社「株式会社カリブ・コラボレーション」代表取締役など、さまざまな肩書を持ち、多方面で活躍中です。

香里武さんが大好きな幼魚を仕事にして、多様な活躍を遂げているのには、どんな理由があるのでしょうか? 第3回は、香里武さんのお仕事観を聞きました。

※全4回の3回目(#1#2を読む)

鈴木香里武(すずき・かりぶ)PROFILE
岸壁幼魚採集家、「株式会社カリブ・コラボレーション」代表取締役社長、「幼魚水族館」館長。子どものころから魚に親しみ、学習院大学大学院で観賞魚の印象や癒やし効果を研究した後、現在は北里大学大学院で稚魚の生活史を研究。メディアやイベントへの出演、執筆をはじめ、海や魚の魅力を伝えるさまざまな活動を行っている。

「将来何になりたいの?」は魔の言葉

──香里武さんは、実にさまざまなお仕事をされています。活動のベースになっているのは何でしょうか?

鈴木香里武さん(以下、香里武さん) 前回、少し触れましたが、さまざまな分野のスペシャリストを集めた組織「カリブ会」です。

魚の魅力を伝えるとき、僕ひとりでは魚のことしか伝えられませんが、例えば音楽やアートなど、違う分野とコラボすることで、魚に興味がなかった人にも魚の世界の扉を開いてもらいたいと。

そうして、スペシャリストにひとりずつお声がけして仲間を増やし、100人を越えたら会社を作ろうと立ち上げのときから決めていました。

その100人を越えたタイミングが、大学1年、18歳のとき。事業計画も何もないまま、当初の予定どおり、「株式会社カリブ・コラボレーション」を作りました。

カリブ会には料理人からミュージシャン、俳優、画家、医師まで本当にいろいろな方がいて、みなさん、僕にとって尊敬する師匠ですね。

会社は会社としてありますが、社員とも友達とも違う、師匠の集いは特別で、彼らがいるから今の自分がある。「カリブ会」は、今後も僕の支えになっていくと思います。

2022年7月、静岡県・清水町にオープンした「幼魚水族館」で館長を務める香里武さん。子どものころからの「水族館を作りたい」という大きな夢を叶えました。  写真提供:鈴木香里武

──起業して、不安を感じることはありましたか?

香里武さん もちろんありました! 特に10代のころはムダに焦っていて、やりたいことがたくさんあるのに、そう簡単には形にならなくて。

そりゃあビジネスですから、どこの馬の骨かもわからない金髪がいきなり来ても、信用できないですよね(笑)。経験値も力量も足りなくて、「このままでいいのかな」と思ったことは何度もあります。

ただ、やりたいことは見えていましたし、師匠たちもいたし、何かしらは動けていて、それが楽しかったのが救いでした。不安はあっても迷いはなかったです。

──やりたいことが明確なのは、強みになりますね。

香里武さん そう思います。子どものころ、よく「将来、何になりたいの?」と聞かれましたよね? あのフレーズ、僕はすごく苦手なんです。

「何になりたいの?」と聞かれたら、子どもは職業名を答えるしかありません。何度もこの質問を浴びせられると、そのうち子どもは〈夢=職業〉だと思い込んでしまいます。

しかも「将来」という言葉までついている。今好きでやっていることと職業は別ものなのだと、大人が知らず知らずのうちに子どもに誤認させているわけです。魔の言葉だと思います。

いつから将来かといえば、明日も将来ですし、僕は今の延長に未来があると考えています。

「将来、何になりたいの?」を、「どんなことがしたいの?」「どんなことに興味があるの?」と言い換えるだけで、お子さんの未来がもっと広がるかもしれません。

「幼魚水族館」では、香里武さん出演のイベントも開催。詳細は、香里武さんのTwitterや「幼魚水族館」のHPをチェック。  写真提供:鈴木香里武

“好き”が生み出すコンテンツは素晴らしい

──今、香里武さんのように“好き”を仕事にしたい人が増えていますが、一方で、「“好き”は仕事にしないほうがいい」との意見も聞きます。香里武さんは、どう考えますか?

香里武さん 半分正解で、半分間違いだと思います。正解だと思うのは、例えば僕が魚を好きという理由だけで魚類学者になっていたら、どこかでひずみが生じていたはずだから。

表面的には“魚”という共通項があるけれど、本当にやりたいことを掘り下げていくと、僕の場合、魚の研究ではなく、魚のおもしろさを伝えることでした。もし魚類学者になっていたら、大好きな魚のことで苦しんでいたかもしれません。

間違いだと思うのは、やりたいことと仕事の内容が100%完全に一致していたら、これほど幸せなことはないから。

“好き”や“楽しい”に勝るエネルギーはないですし、そこから生み出されるコンテンツは絶対に素晴らしいものになるはずです。

僕は今、やりたいことを仕事にできているので、「“好き”は仕事にしないほうがいい、とは限らない」と思っています。

──では、“好き”を仕事にするのに大切なことは何でしょうか?

香里武さん うーん、正直よくわからないのですが、自分を振り返ってみると、ひとつは「異常なほどやり抜くこと」だと思います。

周りにバカにされようが無視されようが、ひたすらやる。異常というのは、本人はそう思っていなくても、周りからすると異常なレベルがひとつのキーかなと。

例えばアスリートもそうで、オリンピックに行く選手は、おそらく異常なほど練習していますよね。

僕は岸壁幼魚採集が好きで、タモ網を持って漁港に這(は)いつくばっているんですが、炎天下に2時間ずっと同じポーズでいられるんです。

漁師さんに「死んでるんじゃないか」って心配されるぐらい、傍(はた)から見るとおかしいんですって(笑)。でも、だからこそ自分の言葉で語れるレベルになったし、仕事にできたと思うんです。

ふたつ目は、「見守ってくれる大人や師匠の存在」。自分ひとりで信じてやり続けるには限界があって、迷うことはなくても「このままでいいんだろうか」と不安になることはあると思います。

そういうとき、親も含めた周りの大人や師匠が活動をおもしろがってくれたり、未来に期待してくれたりすると、自分を強くして、好きな気持ちを貫かせるパワーになります。

このふたつがうまくかみ合うと、好きなことがいつの間にか仕事になるのかなと思います。親御さんにはぜひ、お子さんの好きなことを一緒に楽しんで、見守ってあげてほしいですね。

タモ網を片手に這いつくばって海を覗く香里武さん。1~2時間すれば目が慣れて、小さな幼魚も見つけられるようになると言います。  写真提供:鈴木香里武
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