脳科学的に考える「ならいごと」 習得チャンスは幼児期しかないの?

ならいごとの早期教育は必要なのか? 〔細田千尋先生インタビュー 第2回〕 

医学博士・認知科学者・脳科学者:細田 千尋

医学博士・認知科学者・脳科学者の細田千尋先生。  撮影 森﨑一寿美
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脳科学的にみる幼児期のならいごと。第1回では、前頭葉の発達ピークまで学習を継続させることが重要というお話でした。第2回ではならいごとをはじめる時期について、今回も脳科学の分野で教育や学習法についての研究を行う細田千尋先生に解説していただきました。

赤ちゃんへの語りかけが言語の発達につながる

ならいごとのはじめる時期についてですが、まず0~1歳児の発達について先に解説します。この時期は発達がいろいろと目まぐるしいとき。なかでも最も発達するひとつが“言葉”です。この時期の子どもが発する言葉を気にしながら育児していたというお父さん、お母さんも多いのではないでしょうか。

0~1歳の赤ちゃんにとって、実は“毎日の話しかけ”が言葉の発達に一番効果があるといいます。2020年2月に米国科学アカデミー紀要(PNAS)という権威ある雑誌で発表された論文でも、生後半年の赤ちゃんへ親が話しかける度合いや言葉の量、話しかけ方の違いによって、1歳半へ成長したときの言葉の発達程度が大きく違ってくるということが証明されています。

特にこの時期の子どもは、教室へ通ったり、特別な教材を揃える必要はなく、日常生活の中で親が積極的に語り掛けることがなにより必要、というわけなのです。しかし私自身もベビーシッターや祖父母の手伝いなしの3人の子育てをしていて痛感するのですが、赤ちゃんや小さな子どもと向きあって過ごす時間というのは、簡単なようでとても難しいもの。お稽古やならいごとに通わせるほうが簡単だとさえ思うほどです……。

言語やプログラミングは幼児期を逃しても習得できるチャンスはいくらでもある

毎日たくさん語り掛けて言葉と触れ合うことで発達が促されるからこそ、赤ちゃんのうちに外国語を始めた方がいいのでは? と思うお父さん、お母さんも多いと思います。言葉の発達という観点から言えば、早期から外国語への取り組みが重要だと私も考えています。特に日本人にとっては英語ですね。

例えば、生後半年ぐらいの日本人の赤ちゃんと、英語圏の赤ちゃんに”R”と”L”の音の聞きわけをさせてみると、日本人の赤ちゃんでも英語圏の赤ちゃんでも、6割くらいは判別できています。それが、10~12ヵ月になってくると、英語圏の赤ちゃんは8~9割と上がっていくのに対して、日本人の赤ちゃんは聞き分ける能力がどんどん下がっていきます。これはなぜかというと、“脳は覚えることよりも忘れることの方が得意”という特徴があるからなんです。

脳は必要な情報だけを取り込んで、不要な情報を落としていく性質があるので、普段から英語を聞いていないと、英語を必要ではないものと判断し、聞く能力がどんどんそぎ落とされていくのです。そういう意味では、言葉を覚える段階から英語に触れ続けることは習得への近道になると言えます。

ただ、この時期にやらないといけない、ということではありません。幼児期を逃したら”R”と”L”の判別ができなくなってしまうのかというと、必ずしもそうではなく、中高生になってからでも十分習得できるからです。

最近注目されているプログラミングも同じことが言えます。幼児用のプログラミング学習は、順序を立てて、命令系統を作ることを学ぶわけですが、大人になってからやるプログラミングとは種類も目的も違うんですね。これをやっていないと将来できるようにならない、というわけではありません。“論理的思考力をつけるためにプログラミングを学びましょう”と推奨されているようですが、やったからと言って論理的思考が育つのかどうかも、まだ脳科学的には誰も明らかにしていないのですから。

言葉の発達という点からだと早期からの外国語の取り組みは重要。ただ、中高生からでも十分発達できる。  写真:maroke/イメージマート
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