映画『千と千尋の神隠し』舞台化! 見た人みんなが心をつかまれる理由

国民的アニメを三次元でどう表現するの? 演劇ファンでなくても見ればだれもが納得、感動の舞台がそこにあった!

フリーランス編集・ライター:小出 史歩

50体以上のパペットが登場 さらに32人の俳優の身体表現に注目!

パペットデザイン・ディレクションを担当したのはトビー・オリエ。イギリスを拠点に活動するパペット演出家・デザイナー、パペット使いで、ディズニーミュージカル『リトルマーメイド』も担当した。海の魔女アースラの巨大な脚を、劇場で見たことがある人はいるだろうか?

『千と千尋の神隠し』の舞台には、まさに釜爺がいた。俳優自身の2本の腕と2本の脚のほかに、背中から4本の長い手が伸び、それらを最大6人の俳優が操作している。しかも遠くの引き出しから薬草を取り出すときには1本の手が最長6mまで伸び、引き出しを開けて薬草をつかむ! 長い4本の手はみな、ものをつかむことができるのだが、その仕掛けも劇場でよく見てほしい。

観客の笑いを誘っていたのは、頭(かしら)と呼ばれる緑色の頭部で、3体一組で行動するキャラクターだ。舞台上でもしっかり3体の頭部が登場するのだが、こう来たか! と驚くこと間違いなし。映画同様に跳ねたり転がったりして動き回り、つねに「おいおい」と声を発している。

青蛙や豚たちも映画のタッチそのままに立体的なパペットになっているし、怒った湯婆婆の顔が巨大化する場面もパーツを組み合わせ表現されている。

竜と化したハクが飛ぶシーンはとても優美だ。舞台の手前と奥で大きさの違うパペットを使い、遠くへ飛び去ったり、遠くからやってきたりする様子を現している。

さらに、千尋と交流するシーンでは大きくリアルなパペットが使われる。千尋が竜の雄々しい角(つの)につかまり背中に乗って飛ぶシーンでは、千尋をほかの俳優が肩車するのだが、照明の美しさも相まって、まさに夜空を飛んでみせる。

千尋/上白石萌音、釜爺/橋本(はしもと)さとし。釜爺はWキャストで田口(たぐち)トモロヲも演じている。写真手前の黒い物体はススワタリたち
千尋/橋本環奈。竜と化したハクに乗って、宙を舞う千尋と坊ネズミ、ハエドリ
青蛙/おばたのお兄さん。俳優の台詞回しも、映画を彷彿とさせる

舞台だからこそ楽しめる 新たな『千と千尋の神隠し』

カオナシを演じるのは、世界的にも高い評価を受けているダンサーだ。コンテンポラリーダンス特有のアーティスティックな身体表現をみせてくれる。映画では、だれにも見向きされない寂しい存在として登場したカオナシだが、ダンサーが演じることで、登場するやいなや奇妙な生き物の存在感が際立っていた。

青蛙や油屋の従業員を丸呑みし暴走するカオナシは、最多12人がかりで表現される。俳優たちが黒い衣裳を身にまとい、巨大化したカオナシが不気味に体を動かし移動する姿を俳優の肉体で表現する様子も目が離せない。

また、油屋の兄役(あにやく)の俳優が千尋の父を、リンの俳優が千尋の母を演じている。一人の俳優が複数の役を演じるのはよくあることだが、とくにリンと母親を同じ俳優が演じる設定に感動する観客が多い。

配役の妙も舞台の魅力の一つだ。

千尋/上白石萌音、カオナシ/辻元知彦(つじもとともひこ※ツジのシンニョウは点1つ)。カオナシはWキャストで菅原小春(すがわらこはる)も演じている。銭婆の家へ向かう電車のシーン
リン(いちばん左)/妃海風(ひなみふう)。「湯屋一同、心をそろえて」映画の名台詞が舞台でも聞ける
千尋/橋本環奈、千尋の母/咲妃(さきひ)みゆ、千尋の父/大澄賢也(おおすみけんや)。オープニングとエンディングに登場する千尋の両親にも注目

観劇初心者だって大丈夫! だれもが作品の世界に没頭し夢中になる

翻案・演出を担当したジョン・ケアードは、『レ・ミゼラブル』オリジナル版の潤色・脚色を担い、『ナイツ・テイルー騎士物語ー』や『ダディ・ロング・レッグズ』など、演劇史に名の残る名作を生み出した脚本・演出家だ。『ニコラス・ニクルビー』と『レ・ミゼラブル』でトニー賞を2度受賞している。

そんな彼が、どれだけこの映画に敬意を払い、ていねいに舞台化されたのかがわかるはず。もし映画を見ていない人でも、作品の世界観を十分に感じ取れるだろう。

ミュージカルではないものの、上演中ほとんどの場面でオーケストラが生演奏している。久石譲(ひさいしじょう)が手掛けた映画のオリジナルスコアはもちろん、映画『千と千尋の神隠し』のイメージアルバムに収録の歌も使われており、わずかだが歌と踊りも楽しめる。音楽があることで、お子さんもきっと最後まで集中して楽しめるだろう。

劇場には未就学児は入場できないが、小学生以上は大丈夫。上演時間は約3時間だが、途中で休憩が約25分間あるので、親子での観劇にもぴったりの作品だ。

開幕前からチケット完売と言われるほど大人気だが、チャンスがあれば絶対に見ることをおすすめする。映画の世界を体感できるのはもちろん、あの名作映画を生身の人間がさまざまな身体表現で魅せることにも感動し、『千と千尋の神隠し』がさらに愛おしい作品になるに違いない。

「スタジオジブリ全作品集」(講談社刊)定価:本体2800円(税別)。観劇の予習・復習にぴったり! 『風の谷のナウシカ』から『アーヤと魔女』まで、スタジオジブリのアニメーション全26作品を網羅。映画公開時の監督たちのインタビューなども収録

■舞台『千と千尋の神隠し』公演情報
原作:宮﨑 駿
翻案:ジョン・ケアード
共同翻案 :今井麻緒子
演出:ジョン・ケアード
協力 :スタジオジブリ
製作 :東宝株式会社

〈東京公演〉2022年3月2日(水)~3月29日(火)帝国劇場 〈大阪公演〉2022年4月13日(水)〜4月24日(日)梅田芸術劇場メインホール 〈福岡公演〉2022年5月1日(日)〜28日(土)博多座 〈北海道公演〉2022年6月6日(月)〜12日(日)札幌文化芸術劇場 hitaru 〈名古屋公演〉2022年6月22日(水)〜7月4日(月)御園座 

東宝演劇公式サイト:https://www.tohostage.com/spirited_away/

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こいで しほ

小出 史歩

Shiho Koide
フリーランス編集・ライター

静岡県浜松市出身。女子美術大学短期大学部でグラフィックデザインを、専攻科で環境デザインを学んだ後、ディズニー愛の深さから出版社へ。2000年から月刊ディズニーファン編集部にて、雑誌や東京ディズニーリゾートのガイドブックなどの書籍を担当。 ミュージカルや演劇をこよなく愛し、おもに首都圏の劇場へ足繁く通う。宝塚歌劇は心のオアシス。

静岡県浜松市出身。女子美術大学短期大学部でグラフィックデザインを、専攻科で環境デザインを学んだ後、ディズニー愛の深さから出版社へ。2000年から月刊ディズニーファン編集部にて、雑誌や東京ディズニーリゾートのガイドブックなどの書籍を担当。 ミュージカルや演劇をこよなく愛し、おもに首都圏の劇場へ足繁く通う。宝塚歌劇は心のオアシス。