「男性更年期」市販薬で症状が改善? 40歳を過ぎたら知っておきたい「治療法」 

パパママの更年期#4 ~パパの更年期・解決、治療編~

泌尿器科医:今井 伸

男性更年期障害についての企業向け講演も、年々増え続けているという永田京子さん。子育てに仕事とまだまだ多忙な世代を襲う男性更年期を改善する治療法とは。   写真提供:永田京子さん
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「40歳を過ぎて、疑われる症状が出ており、テストステロン値が低下していれば男性更年期障害の可能性がある」と話すのは、聖隷浜松病院のリプロダクションセンター長兼総合性治療科部長で、泌尿器科医の今井伸先生。

前回(#3)では、まだまだ社会的認知度が低い男性更年期障害についての基礎知識を教えていただきましたが、今回はその治療法について。

聖隷浜松病院のリプロダクションセンター長兼総合性治療科部長で、泌尿器科医の今井伸先生と、更年期トータルケアインストラクターの永田京子さんにお話を伺いました。

※3回目/全4回(#1#2#3を読む)

●PROFILE 今井伸(いまい・しん)
1971年島根県生まれ。泌尿器科医、聖隷浜松病院リプロダクションセンター長。専門は性機能障害、男性不妊、男性更年期障害。講演会や各メディアを通じ正しい性知識の普及に努める。近著に「射精道」(光文社新書)など。

●PROFILE 永田京子(ながた・きょうこ)
更年期トータルケアインストラクター。更年期を迎える女性の健康サポートを目的とした団体「ちぇぶら」を設立。1000名を超える女性たちの調査協力を経て“更年期対策メソッド”を研究・開発・普及に務める。国内外で講演を行い、述べ5万人が受講している。

褒められるだけで元気になる?

男性更年期障害であるかどうかは、問診でのリストチェックと、男性ホルモンであるテストステロン値の計測により診断します。

「テストステロン値が低くない男性においては、出ている症状それぞれへの対症療法で治療を進めていきます。勃起不全などの性機能症状にはPDE5阻害薬(排尿障害治療薬)を処方したり、精神・心理症状には、精神神経科医や心療内科医と相談しつつ、抗うつ薬や抗不安薬を処方したりします」(今井先生)

筋力低下などの症状を訴える男性には、生活習慣の改善などを指導することもあります。

「男性、女性ともに、この時期に身体の基礎を見直してしっかり作っておくのは、老年期の体力や健康に大きな影響がある」と話すのは、更年期トータルケアインストラクターの永田京子さん。

「令和4年度のスポーツ庁の調査によると、40代、50代の運動の実施率は他の世代と比べても著しく低いんです。筋肉を動かすことで、男性ホルモンを作りだすこともできるので、スクワットなどがおすすめですよ。

ホルモンは気合だけで生成されるものではないので、しっかりと食べ、睡眠をとること。基本的な生活習慣を見直すことで、改善される症状もあります」(永田さん)

また、男性ホルモンであるテストステロンは「褒められるだけでも増えると言われている」と永田さん。

「家庭や職場で、お互いに尊敬し合い、尊重できる相手が多いと良いですね。真面目で責任感が強く、誠実で頑張り続けている人こそ、ストレスを受けやすいという傾向はある。趣味を持ったり、家庭や職場以外で過ごす時間を作ったりして、息抜きができる居場所を複数持っておくのも大事です」(永田さん)

男性ホルモンは元気のガソリン

テストステロン値の大幅な低下が認められ、症状が重い男性には、ホルモン投与治療という選択肢があります。

「重篤な症状がある患者さんには、男性ホルモン注射を行います。3週から4週に一度、3ヵ月から半年続けてみて、効果を見ることが多いです。

症状が改善してこない場合には、内科疾患やうつなどの違う疾患を疑います。しかし、大半の症状は時間の経過とともに改善していきます」(今井先生)

というのも、更年期障害の原因はホルモン低下自体にあるのではなく、「急激に下がることに身体が対応しきれないから症状が出る。低い状態に慣れたら治まってくることが多い」と今井先生。

「投与間隔を伸ばしていったり、止めてみたりしながら、変化をソフトランディングさせる治療が一般的です。しかし中には、ずっと元気でいたいからとホルモン注射を打ち続ける人もいますよ。自分に合った治療法で、身体がしんどくなければそれでいいんです」(今井先生)

注射よりも軽いホルモン投与治療としては、テストステロン軟膏(グローミン)があります。陰囊皮膚などに連日塗布することで、テストステロンを補充することができます。薬局で市販されているものなので、医師の処方箋がなくても購入可能です。

男性ホルモンだけでなく、女性ホルモンの軟膏も市販薬でありますが、「どちらも購入できる薬局は比較的限られているので、製薬会社のホームページなどを確認してみてください」と今井先生。

「僕の父親も更年期障害に悩んでいた時期があって、グローミンをプレゼントしたら劇的に症状が改善されました。また最近、知り合いからも性機能症状がメインの更年期障害について相談されたので、グローミンを教えてあげました。うまくいっているようです」(今井先生)

軟膏を塗るだけで、日々の不調が改善するなんて!

「最近なんだか元気がないなと思ったら試しに市販薬で補充してみるのもいいと思います。自分でできるホルモン補充療法の方法を知っていることで、病院に行かなくても乗り越えられるかもしれません」(今井先生)

性機能低下と性生活の変化

男性更年期でもっとも気になる症状としては、やはり性機能の低下。閉経によって生殖機能がなくなる女性に対し、男性にははっきりとした卒業イベントがありません。

「男性の場合、精巣が働いていて、精子が出れば、歳をとっても生殖機能はある。精子は、老化していく卵子と異なり、細胞分裂によって日々新しい精子が出てくるので、精子自体は若いときも歳をとっても基本的には変わらないとされています」(今井先生)

そのため、男性自身が身体の変化を受け入れがたい状況にあると今井先生は続けます。

「男性たちの中には、自分の勃起力やたくさん射精できること(絶倫であること)が精神的な支柱になっている方も少なくない。

僕は常々言っているのですが、ずっと現役で豪速球を投げ続けられるピッチャーはいないじゃないですか。年齢を重ねたら、変化球で三振を取れるようにテクニックでカバーすることが大事。どの世界も一緒です」(今井先生)

70歳でも元気で性欲に満ちあふれた男性もいれば、40代以前から射精回数が少なく性に淡白な男性もいます。

「人によって、生き甲斐やアクティビティはさまざま。ただ、『若いころとは同じようにはいかない』ということは知っておいてほしいですね」(今井先生)

また、男性には加齢による「前立腺肥大症」という病気があります。55歳以上の男性の5人に1人が罹患しているというポピュラーな疾患で、男性ホルモンの変化が原因と考えられています。

「前立腺肥大症は、頻尿や排尿障害だけでなく、精液も出にくくなることがあります。投薬で症状を軽減させたり、手術をしたりするなどの選択肢があります。でも、精液が出る・出ないとオーガズムは別物。いずれにせよ、加齢による男性ホルモンの変化で、これまでの性生活は変わってくることでしょう」(今井先生)

パートナーや社会ができること

更年期について正しい知識を持っておくこと、そして、身体と心の変化を認めて受け入れ、お互いに配慮することがパートナーには求められます。もし「パパ、最近元気ないんじゃない?」と感じたら、男性更年期の可能性を提案してみて。

「更年期障害って、一昔前は女性たちだけの言葉だと思っていた男性もいるはず。確かに女性たちの多くが通る道ですが、男性は『もしかしたら』と思いながら何もせず乗り切っている人も多いでしょう。

大規模調査ができていないので、どれだけの男性が更年期障害に直面しているのか、明確な数字はわからない。でも、治療があるのだから、きちんと知っておいたらより良い人生を送れます」(今井先生)

職場での理解や社会的認知を広めていくことが、更年期をより良く過ごす手段だと永田さんは言います。

「職場、特に管理者には、男性更年期のことを知っておいてほしいです。というのも、更年期による症状で、いつもだったらしないようなミスを起こしてしまう場合がある。

運転などをする方、危険な機材を扱う現場の方などは特に、管理者が『自らの体調変化を把握していなかったり、不調を言い出せない人がいるかもしれない』ということを頭に入れておいてほしいです」(永田さん)

「多くの人が対策やケアを知っていくことで、少しずつ企業や行政も動き始めたのではと感じる」と永田さん。

「企業の講演で男性更年期に関するグループセッションの時間を作ると、男性たちは活発に、自らの体調の変化や不調を話し合い、認め合っている。安心して話せる場ときっかけさえあれば、オープンに状況を共有し、理解したり助け合うことができると実感しています」(永田さん)

鳥取県では、更年期症状による不調を抱える職員への仕事との両立支援のため、2023年10月1日から、特別休暇を新設。職員からの相談にも積極的に応じています。野村不動産株式会社は2023年4月から、女性向けに更年期の体調不良で休みをとれる新制度を導入。今後は、男女ともにより政策的な支援も求められていくことでしょう。

40~50代というと、まだまだ働けて、社会において要となる世代。更年期を迎える男性・女性のために、社会や企業ができることはまだまだありそうです。


取材・文/遠藤るりこ

●関連サイト
ちぇぶらホームページ
・YouTube「ちぇぶらチャンネル」
・Instagram nagatakyoko_jp
・X(旧Twitter) @nagatakyoko
・LINE ちぇぶら

※「パパママの更年期」は全4回(公開日までリンク無効)
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いまい しん

今井 伸

Shin Imai
泌尿器科医

1971年島根県生まれ。泌尿器科医、聖隷浜松病院リプロダクションセンター長。日本泌尿器科学会専門医・指導医。日本性機能学会専門医・代議員。日本生殖医学会生殖医療専門医。日本性科学会幹事、同会認定セックス・セラピスト。日本思春期学会理事。島根大学医学部臨床教授。 ’97年島根医科大学(現・島根大学)医学部卒業後、同大学附属病院を経て聖隷浜松病院に勤務。専門は性機能障害、男性不妊、男性更年期障害。講演会や各メディアを通じ正しい性知識の普及に努める。 共著に『中高生からのライフ&セックス サバイバルガイド』(日本評論社)、『セックス・セラピー入門』(金原出版)。近著に『射精道』(光文社新書)がある。

1971年島根県生まれ。泌尿器科医、聖隷浜松病院リプロダクションセンター長。日本泌尿器科学会専門医・指導医。日本性機能学会専門医・代議員。日本生殖医学会生殖医療専門医。日本性科学会幹事、同会認定セックス・セラピスト。日本思春期学会理事。島根大学医学部臨床教授。 ’97年島根医科大学(現・島根大学)医学部卒業後、同大学附属病院を経て聖隷浜松病院に勤務。専門は性機能障害、男性不妊、男性更年期障害。講演会や各メディアを通じ正しい性知識の普及に努める。 共著に『中高生からのライフ&セックス サバイバルガイド』(日本評論社)、『セックス・セラピー入門』(金原出版)。近著に『射精道』(光文社新書)がある。

ながた きょうこ

永田 京子

Kyoko Nagata
更年期トータルケアインストラクター

更年期トータルケアインストラクター。株式会社ウェルネスシアター代表取締役。演劇活動後、ピラティスや整体・経絡、リフレクソロジーなどを学び、出産後の母子のサポートを8年行う。その活動の中で、40代の女性たちの声や、自身の母が更年期障害でうつになった経験から、更年期を迎える女性の健康サポートを目的とした「ちぇぶら」を設立。 医師のもと女性の健康や更年期を学び、1000名を超える女性たちの調査協力を経て“更年期対策メソッド”を研究・開発・普及。全国の企業や医療機関、自治体、海外などで講演を行い、国内外で述べ5万人が受講している。 2018年はカナダ・バンクーバーで開催された国際更年期学会で日本での取り組みを発表。現在は「生きがい」研究にも力を入れている。「ちぇぶら」は更年期を英語でいう“the change of life”の意。

更年期トータルケアインストラクター。株式会社ウェルネスシアター代表取締役。演劇活動後、ピラティスや整体・経絡、リフレクソロジーなどを学び、出産後の母子のサポートを8年行う。その活動の中で、40代の女性たちの声や、自身の母が更年期障害でうつになった経験から、更年期を迎える女性の健康サポートを目的とした「ちぇぶら」を設立。 医師のもと女性の健康や更年期を学び、1000名を超える女性たちの調査協力を経て“更年期対策メソッド”を研究・開発・普及。全国の企業や医療機関、自治体、海外などで講演を行い、国内外で述べ5万人が受講している。 2018年はカナダ・バンクーバーで開催された国際更年期学会で日本での取り組みを発表。現在は「生きがい」研究にも力を入れている。「ちぇぶら」は更年期を英語でいう“the change of life”の意。

えんどう るりこ

遠藤 るりこ

ライター

ライター/編集者。東京都世田谷区在住、三兄弟の母。子育てメディアにて、妊娠・出産・子育て・子どもを取り巻く社会問題についての取材・執筆を行っている。歌人・河野裕子さんの「しつかりと 飯を食はせて 陽にあてし ふとんにくるみて寝かす仕合せ」という一首が、子育てのモットー。 https://lit.link/ruricoe

ライター/編集者。東京都世田谷区在住、三兄弟の母。子育てメディアにて、妊娠・出産・子育て・子どもを取り巻く社会問題についての取材・執筆を行っている。歌人・河野裕子さんの「しつかりと 飯を食はせて 陽にあてし ふとんにくるみて寝かす仕合せ」という一首が、子育てのモットー。 https://lit.link/ruricoe