居眠り運転、ながら運転、あおり運転…夏休み「危険運転」から家族を守る方法

「被害者にも加害者にもならない」ための注意ポイント

ジャーナリスト・ノンフィクション作家:柳原 三佳

いよいよ夏休み。長距離ドライブ旅行にありがちな「危険」とは?(写真:アフロ)
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今年2022年6月6日に、「東名高速あおり運転事故」(2017年)をめぐるやり直し裁判で、横浜地方裁判所は被告に懲役18年の実刑判決を言い渡しました。危険な「あおり運転」は、2020年に「妨害運転罪」が創設され、罰則や反則金が大幅に引き上げられています。

交通事故をめぐっては「ながら運転」も危険です。警察庁によると、携帯電話使用などにかかわる交通事故は、2021年中で1394件。携帯電話の使用などが起因するケースは、死亡事故率が約1.9倍となっています。

夏のドライブシーズンに向けて、私たちはどんなことに注意すべきでしょうか。交通事故に詳しいジャーナリストでノンフィクション作家の柳原三佳さんが、「被害者にも加害者にもならない」ために心がけるべきポイントを解説します。

長距離ドライブ旅行にありがちな「危険」とは

いよいよ夏休みがやってきます。家族そろってマイカーでの旅を計画している方も多いのではないでしょうか。でも、悲惨な交通事故やあおり運転などの報道を目にすると、どうしても不安がよぎりますね。

そこで、長距離ドライブ旅行にありがちな、いくつかの「危険」をピックアップし、被害者にも加害者にもならないための注意点と心がけをまとめてみました。

1)子どもがぐずっても、チャイルドシートははずさない

『6歳未満の幼児には道路交通法でチャイルドシートの使用が義務付けられている』これは、お子さんをお持ちのドライバーなら誰でも知っているルールでしょう。

しかし、運転中に子どもが突然ぐずり出し、つい根負けして膝の上で抱っこしてしまった……、そんな経験をしたことはありませんか? 特に夏はシートに熱がこもるため、子どもの機嫌が悪くなりがちですよね。

でも、たとえどんなことがあっても、走行中は絶対にチャイルドシートを外さないでください。「ちょっとだけなら……」というその瞬間に、事故が起こらないとは限らないのです。

警察庁によると、チャイルドシートをしていなかった子どもの致死率は、適正に使用していた子どもの約5.3倍に上ります。また、チャイルドシートを着用していても、取り付けや固定の仕方が不十分なケースも多く、残念ながら死亡や大ケガにつながることもあります。

たとえば、追突事故を起こされた場合、こちらには事故の過失はありませんが、チャイルドシートを正しくつけていなかったために起こる子どもの被害は、ドライバーである親の責任です。

最近は、チャイルドシート用の冷感シートなどもいろいろ販売されていますので、夏の長時間ドライブでも子どもが快適に過ごせるよう工夫してあげましょう。そして、子連れドライブの前に、ぜひ以下の動画を見ておくことをお勧めします。

DVD「チャイルドシートで守ってね!」を制作 - 一般財団法人 全日本交通安全協会 (jtsa.or.jp)

2)米・高速道路で発生する死亡事故の約半数は「居眠り運転」

長距離ドライブで気をつけたいのは、なんといっても「過労(居眠り)運転」です。夏休みの行楽地は渋滞が多く、休憩がとれないまま走り続けなければならない場面がよくあります。

また、旅先でのレジャーで遊び疲れたり、宿で夜更かしをしたり、ご来光を拝むためにいつもより早く起きたり……などなど、自分でも気づかぬうちに疲れをためてしまうので、十分に気をつける必要があるでしょう。

ちなみに、アメリカでは、高速道路で発生する死亡事故の約半数は「居眠り運転」が原因だというデータがあります。

「居眠り」は一時的に意識を失っているのと同じで極めて危険です。取材の中でも、追突やセンターラインオーバーなどは、かなりの率で「居眠り」が影響しているのではないかと実感しています。一日に走行する距離に無理のないよう計画を立てましょう。

3)時速100キロ たった2秒で約56メートル進む

令和元年12月から、罰則や反則金が大幅に引き上げられた「ながら運転」。警察庁によると、携帯電話などを使用中に起こった死亡事故は、使用なしのケースと比較して約1.9倍となっています。運転中のスマホ使用は絶対にやめましょう。

(参考:やめよう! 運転中のスマートフォン・携帯電話等使用|警察庁Webサイト

過去に取材した事故の中に、高速道路を運転中、スマホでマンガを読みながら前のバイクに気づかず追突し、バイクの女性を死亡させた事故がありました。このような悪質な「ながら運転」は論外ですが、運転中に飲み物を飲んだり、おにぎりやおやつを食べたりすることも「ながら運転」にあたりますので要注意です。

また、旅行で車を運転する場合は、土地勘がないためカーナビに頼ることも多いと思いますが、カーナビの操作をしたり、画面に見入ったりすることも「ながら運転」です。十分に注意してください。

ちなみに、時速60キロで走行しているときに、2秒間よそ見をすると、その間に車は約33メートル進みます。高速道路を時速100キロで走っている場合は、わずか2秒で約56メートルです。その間に、突如危険が迫ってきたら、どうなるでしょう。

一瞬だから大丈夫と思っていたら大間違いです。なぜ「ながら運転」が厳罰化されたのか? それには理由があることを認識して運転しましょう。

4)もし「あおり運転」に遭遇したら?

2022年6月6日、横浜地方裁判所は東名高速で4年前に起こったあおり運転事件をめぐるやり直し裁判で、被告に懲役18年の実刑判決を言い渡しました(被告は控訴中)。この事件は、繰り返し報道されてきたので覚えている方も多いでしょう。

家族4人でレジャーに行った帰り、楽しいはずのドライブが一転、些細なトラブルからあおり運転の被害に遭い、2人の娘さんの目前で両親が亡くなるという最悪の結果となったのです。

万一、あおり運転をされ、相手が車から降りてきてからんできた場合は、絶対にドアや窓を開けたり、車外に出たりしないでください。高速道路の場合はUターンができないので、とにかく相手の車を先に行かせることです。

また、相手の車に執拗に追跡された場合は、コンビニの駐車場やガソリンスタンドなど、人目のある場所に入りましょう。車を安全な場所に停止させたら警察に通報してください。

一方、自分自身が「あおり」と思われるような運転をしないことも大切です。たとえば、旅先では道に迷うこともありますが、そんなときはつい、急ハンドルや急ブレーキなど、自分でも気づかぬうちに迷惑運転をしているかもしれません。そのようなことがないよう、ドライブルートや休憩スポットはあらかじめ把握しておくことが大切です。

夏休みの楽しいドライブ。ちょっとした心がけが、取り返しのつかない事故やトラブルからあなたと家族を守ってくれます。どうか安全運転を心がけてください。(了)

交通事故がテーマの本

柴犬マイちゃんへの手紙
無謀運転でふたりの男の子を失った家族と愛犬の物語

2010年12月26日、交差点の歩道の内側で信号を待っていた祖父母と2人の孫、そして1匹の柴犬に、大音量の音楽に合わせて車線変更を繰り返す蛇行運転をしながらクラクションを鳴らす乗用車が突っ込んできた――。

理不尽に奪われた幼い少年二人の命。そして、半年にわたる入院を余儀なくされた祖父母。もし、自分たちのところに孫たちが帰省していなかったら……。自死まで考えた祖父母を癒やし続けたのは、彼らが保健所から引き取って育てた柴犬のマイちゃんだった。

9歳と6歳の少年に与えられた、あまりにも不条理で理不尽な死に、残された遺族は戦い、苦しみ、自分自身を責める。それでも彼らの思い出とともに生きていかなければならない。三回忌を前に、ようやく封を解くことができた彼らの遺品の中から出てきたのは、書きかけのマイちゃんへの手紙だった。

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やなぎはら みか

柳原 三佳

Mika Yanagihara
ノンフィクション作家・ジャーナリスト

京都市生まれ。ノンフィクション作家、ジャーナリスト。 雑誌編集記者を経てフリーになり、主婦業・子育てをしながら、交通事故、司法問題等をテーマに取材・執筆、書籍出版を重ね、講演、テレビ、ラジオへの出演もおこなう。「週刊朝日」等に連載した告発ルポは自賠責や自動車保険査定制度の大改定のきっかけとなる。 主な著書に、『開成をつくった男、佐野鼎』『私は虐待していない――検証 揺さぶられっ子症候群』『コレラを防いだ男 関寛斎』(講談社)、『自動車保険の落とし穴』(朝日新書)、『家族のもとへ、あなたを帰す 東日本大震災犠牲者約1万9000名、歯科医師たちの身元究明』(WAVE出版)、『遺品 あなたを失った代わりに』(晶文社)などがある。 児童向けノンフィクションとして、『柴犬マイちゃんへの手紙――無謀運転でふたりの男の子を失った家族と愛犬の物語』『泥だらけのカルテ――家族のもとに遺体を帰しつづける歯科医が見たものは?』(講談社)がある。 『示談交渉人 裏ファイル』(共著、角川文庫)はTBS系でドラマシリーズ化、『巻子の言霊――愛と命を紡いだ、ある夫婦の物語』(講談社)はNHKでドラマ化された。「交通事故で息子が寝たきりに――介護を続ける親の苦悩と、「親なき後」への不安」で第2回「PEPジャーナリズム大賞」2022 特別賞受賞。

京都市生まれ。ノンフィクション作家、ジャーナリスト。 雑誌編集記者を経てフリーになり、主婦業・子育てをしながら、交通事故、司法問題等をテーマに取材・執筆、書籍出版を重ね、講演、テレビ、ラジオへの出演もおこなう。「週刊朝日」等に連載した告発ルポは自賠責や自動車保険査定制度の大改定のきっかけとなる。 主な著書に、『開成をつくった男、佐野鼎』『私は虐待していない――検証 揺さぶられっ子症候群』『コレラを防いだ男 関寛斎』(講談社)、『自動車保険の落とし穴』(朝日新書)、『家族のもとへ、あなたを帰す 東日本大震災犠牲者約1万9000名、歯科医師たちの身元究明』(WAVE出版)、『遺品 あなたを失った代わりに』(晶文社)などがある。 児童向けノンフィクションとして、『柴犬マイちゃんへの手紙――無謀運転でふたりの男の子を失った家族と愛犬の物語』『泥だらけのカルテ――家族のもとに遺体を帰しつづける歯科医が見たものは?』(講談社)がある。 『示談交渉人 裏ファイル』(共著、角川文庫)はTBS系でドラマシリーズ化、『巻子の言霊――愛と命を紡いだ、ある夫婦の物語』(講談社)はNHKでドラマ化された。「交通事故で息子が寝たきりに――介護を続ける親の苦悩と、「親なき後」への不安」で第2回「PEPジャーナリズム大賞」2022 特別賞受賞。