
「誰も書かなさそうなこと」の本質を描きたかった
──最新刊『ご自愛さん』は月刊誌『PHP』の連載「僕の楽がき帖」がベースになっています。この連載では、どのようなことを描きたいと思っていたのでしょうか?
矢部太郎さん(以下矢部さん):最初はお悩み相談というお話をいただいたのですが、「誰かの悩みに答えるというのは難しいな」と思いまして……。以前にお悩み相談をやってみたこともあるのですが、僕が答えられなくなって連載が終了したという経験もあり(笑)。
長く続けられるよう、自分の気になることを改めて考えてみて、そこで気づいたことや、改めて考えてみることで少し前に進めたなと感じられるエピソードを漫画と文章で書いていくという形にしました。読んでくれた人が何か自分のためになること、少し元気が出るようなことを見つけてもらえたらと。
──毎月の連載というのは、矢部さんにとってどんなリズムですか?
矢部さん:レギュラーのお仕事があるというのは、フリーランスで働いている身としては、とても精神の安定につながるなと感じています。ただ1ヵ月というのはあっという間に過ぎてしまうので、「あぁ、また締め切りが来る……」とあせったりすることもあります。
書いていくうちにだんだんペースがつかめてきて、1ヵ月の間に「連載で書こう」と思うことができていく感じになっていました。
──本著には、「ブレる」「心配」「プレッシャー」など、矢部さんが日常からピックアップした55のエピソードが掲載されています。エピソードはどのように探していたのでしょう?
矢部さん:「誰も書かなさそうなこと」を描いているかもしれません。すごく個人的だけど、本質的なことが描けたらいいなと思っています。描くネタは、いつも描くときになって一生懸命に思い出しています。
メモもしていて一応見るのですが、「動物のつむじ」とか、自分でも「なんでこれ、メモしたんだろう?」と思うような走り書きが多くて、あまり役には立たなくて(笑)。

変わらない悩みは持病みたいに抱えて生きていく
──2021~2025年と約4年にわたり連載をして、矢部さんの中で得られたものは?
矢部さん:描いていくなかで「自分はこういうことが気になるんだな」と気づいたり、描き出すことでスッキリしたりすることはありました。
僕が描いたものを読み、感想をくださる方がいて、その感想を読むことで僕もまた考えて……と、手紙の往復のような経験ができています。そういったやりとりができるのは毎月続けているからこそだなと思いますし、いただく感想は描くときの力になっています。
──読者の方からの感想で、嬉しかった言葉というと?
矢部さん:すごく個人的なことを描いているので、それに対して「わかります」「そういうこと、ありますよね」という言葉をもらえたときは、「こういう方向でいいのかな」と思うことができました。