学校がつらい子も「生きる力」を取り戻す 不登校児2000人を見守った識者が親に伝えたいこと
シリーズ「不登校のキミとその親へ」#7‐3 認定NPO法人「フリースペースたまりば」理事長・西野博之さん~多様性と子どもの伸ばし方~
2024.10.16
認定NPO法人「フリースペースたまりば」理事長:西野 博之
1980年代から約40年、学校に行かない子どもを見守り続けている西野博之さん。彼が理事長を務める認定NPO法人「フリースペースたまりば」は、川崎市が制定した「子どもの権利条例」に基づいて開設した、遊びと学びの施設「川崎市子ども夢パーク」(以下:夢パーク)の運営をまかされています。
そして夢パークの施設内には、学校に行かない子どもたちの居場所である「フリースペースえん」もあり、日々40人前後の子どもたちが集い、自分らしく過ごしています。
「えん」での子どもたちの様子や、巣立っていった子どもたちの「その後」について、西野さんに尋ねました。
※3回目/全4回(#1、#2、#4を読む)公開日までリンク無効
西野博之(にしの・ひろゆき)PROFILE
認定NPO法人フリースペースたまりば理事長。川崎市子ども夢パーク、フリースペースえんなど、各事業の総合アドバイザー。1986年より学校に行かない子どもや若者の居場所づくりを行う。文部科学省「フリースクール等に関する検討会議」委員などの公職も歴任。
いじめをふせぐ“違い”への寛容さ
「フリースペースえん」にやってくる子どもたちは、小学生も高校生も、それ以上の人もいます。障害のある子もない子もいて、メンタルな不調がある子も、感覚過敏がある子もいます。
いろんな個性の子が混ざり合う場なので、人間ってこんなに多様なんだねということを、「えん」で過ごすうちに知り、その子自身が他者を見るときの寛容さが増していきます。
「発達障害の子の中には奇声を出す子がいるんだね」とか、「こだわりの強い子がいるね」とか、「じっとしてられなくて動き回る子もいるね」とか、子どもらしい柔軟な感性で、自分との違いを受け入れていきます。
違いに寛容であることって、人としてとても大切な力だと僕は思っています。なぜなら不寛容な社会では、違いに厳しく、いじめや対立が起きがちになりますから。
学校では先生の言うことを守れなくちゃいけないし、静かにしなさいと言われたら静かにできなくてはならないし、授業中に教室を歩いていてはいけない。でも、そういったこと自体がストレスになったり、うまくできない子は厳然といるわけです。
「えん」ではまずその一人一人のありようを受け入れ、認めるところからコミュニケーションを始めるので、多様性が寛容さを生み出して、いじめが起きにくい環境を用意しようと努めています。
「知りたい。分かりたい。やってみたい」
どんな子どももそう思えるものを持っているので、「えん」では一人一人が自分の興味の対象にのめりこめる時間と場所を確保しようとしています。すると本当に夢中になって興味の対象にのめりこみますね。
大人は横で「それおもしろいね。じゃこれも一緒に調べてみようか」といった具合に、一緒に楽しみながら学びをサポートする。大人が一方的に教えたり押し付けるのではなく、子どもが自分の力を伸ばしていくのです。
今「えん」に来ている子で、じっと座ってはいられないけれど、手先が本当に器用でクリエイティブなので、粘土や木工で恐竜や動物の作品を作る子がいます。彼は夢パークを歩き回りながら、お気に入りの粘土を探し出し、それで作品を作ります。彼の作品を見た子どもたちは大喜びです。
じっと座って教科書を読むことは難しいけれど、夢パーク中を走り回って拾った粘土でモノを作る力がある。ならばその力をどんどん伸ばせばいい。そう思っています。