金田一先生の子育てと国語力相談「読み聞かせ・読書・親の言葉遣い」
国語の神様・金田一秀穂先生に聞く「国語力を養う親子の時間」#4〜子育てと日本語のQ&A編
2021.12.28
日本語学者:金田一 秀穂
「語彙が豊富だと、自分の気持ちや物事を正しく理解し、考え、より適切に伝えることができます」と話すのは、日本語学者の金田一秀穂先生。
子どもの語彙力を増やすには、まずは親自身が誠実に言葉を使い、豊かな語彙で子どもと会話すること(#2)、さらに、子どもと一緒になって本を楽しむことで、子どもの言葉の世界は広がる(#3)、と教わりました。
ただ、だからといってすべての日本語を正確に使うべき、と杓子定規(しゃくじじょうぎ)に考える必要はないと言います。親が使う言葉のOK・NGの線引きは? そして本との関わりは、どこまで親がやるべき?
親が悩みがちな問題に、金田一先生がド〜ンと答えてくれました。(全4回。#1、#2、#3を読む)
≪お悩み相談:親の言葉遣い編≫
■「てにをは」を意識した方がいい?
Q:「子どもが助詞の“てにをは”を間違って覚えないよう、親も普段から『お醤油“を”取ってください』などと、“てにをは”を省略せずに話した方がいいのでしょうか?」
A:「大丈夫。私たち日本人は、“てにをは”を間違えることはできません」
ネイティブ、つまり母語話者は自分の国の言葉をそう簡単に間違えることはできません。つまり、日本人は基本的に“てにをは”を間違って使うことはありません。それは外国人が使う日本語を聞けば明らかです。彼らは日本人にはできない助詞の使い方をします。
例えば、「昔々、おじいちゃんとおばあちゃん【?】いました」という問いがあるとします。日本人であれば【が】しか出てこないところ、外国人は【は】を選んでしまう。そういう間違い、ありえないでしょう?
■子どもの前で“ら抜き言葉”を使ってもいい?
Q:「『見られる』を『見れる』というように、日常的につい“ら抜き言葉”を使ってしまいます。このままだと子どもも間違った日本語を覚えてしまいそうです」
A:家庭内で使う分には問題ありません。
「ら抜き言葉」は、例えばテレビのアナウンサーなど公の場でプロが使うのは不適切だと思いますが、日常的に家庭内で親が使う分には大きな問題ではないでしょう。
往々にして日本語は変化していきます。過去にも、「しだらない」は「だらしない」に、「あらたし」は「あたらしい」と変化してきました。
これだけ「ら抜き言葉」が話し言葉として一般化してきて、それが自然な言い方になっているなら、わざわざ使わないようにするのも一苦労ではないでしょうか。
助詞やら抜き言葉の改善なんて、いってみれば枝葉末節(しようまっせつ※1)。
※1=まったく重要でないどうでもいいこと
そこにパワーを注ぐなら、以前お伝えした親が語彙を増やす、事実と違う言葉を安易に使わないように意識するなど(#2)、もっと他の大事なことへ意識を向けた方がいいと思います。
≪お悩み相談:絵本の読み聞かせ&読書編≫
■漫画ばかり読んでいるけど、大丈夫?
Q:「子どもには、真面目な本を読んでほしいのに、ギャグ漫画ばかり読んでいます」
A:「大丈夫。漫画だって立派な本です」
大いに結構だと思います。漫画だってかなり立派ですよ。絵と言葉の連携がうまくいかないなどで、漫画が読めない大人もいるくらいですから。漫画だと長文の読解力が身につかない?
それはいずれ、ですよ。普通、小学生でドストエフスキーなんか読まないですから。まあ、僕は『罪と罰』とか読んでいましたけどね(笑)。
■読み聞かせは必須? 黙読じゃダメ?
Q:「小さい子には読み聞かせや音読が大事っていうけど、忙しくてなかなか時間が取れません。子どもに1人で本を読ませるのはダメなのでしょうか?」
A:「黙読で結構。ただし、できれば親が一緒になって楽しむといい」
僕の場合、親はそんなに暇ではなかったから、自分で黙読をしたり、ラジオの落語を聞いたりして楽しんでいました。その結果、語彙も習得し、大人になってからは諸外国で日本語を教えたり、日本語学を専門とした仕事をしています。
ただ、幼少期の頃は、両親と一緒に百科事典を広げて会話も楽しんでいましたね(#3)。まずは本を読む楽しさを知ってもらい、一人でも好んで本を読むようになったら黙読をさせる分にはいいのではないでしょうか。