シリーズ累計10万部“季節の絵本”を生み出した作家・えがしらみちこの、これまでとこれから

えがしらみちこさん『あめふりさんぽ』10周年記念インタビュー

ライター:加治佐 志津

絵本作家えがしらみちこさんの代表作『あめふりさんぽ』が、2024年に出版10周年を迎えました。雨の音に誘われて、お気に入りのかさを持って「いってきまーす!」と散歩に出かけた小さな女の子。かえるやあじさい、おたまじゃくしとのかわいらしい出会いを、リズミカルな言葉と透明感あふれる水彩で表現した、雨の日にぴったりの絵本です。

10周年を記念して、『あめふりさんぽ』がどのようにして生まれたのか、続く「おさんぽ」シリーズの制作エピソードも含め、作者のえがしらみちこさんにたっぷりとお話を伺いました。

個展のために描いた一枚の絵がきっかけに

──『あめふりさんぽ』はえがしらさんにとって、初めて文章と絵の両方を一人で手がけた絵本です。どのようにして生まれたのでしょうか。

『あめふりさんぽ』のお話を作るきっかけとなった、一枚の絵があるんです。雨の日、あじさいの葉っぱの上のかたつむりに傘を差してあげている女の子の絵です。

2007年に個展のために描いた絵で、自分のWEBサイトにも載せていたんですが、それを見た『はこちゃん』(文・かんのゆうこ、講談社)の編集者さんが、「この絵から絵本のお話ができそうですね」と言ってくださって。ただ当時の私は、絵本の絵の仕事はしていても、どうやって絵本のお話を作ったらいいのかがわからなかったんですね。それであいまいに返事をして、そのままになっていたんです。

その後、娘が生まれて、赤ちゃんとのコミュニケーションツールのひとつとして絵本を読むようになりました。娘をだっこしてお散歩に出かけるようになって、お散歩の絵本があったらいいなと思ったんです。それで、いい絵本がないかなと探してみたんですけど、自分が求めるような絵本はなかなか見つからなくて。それなら自分で作ってみようかなと思うようになりました。

そのとき、頭の片隅に雨の日の女の子の絵があったんでしょうね。そこまで意識していたわけではないんですが、自然と雨の日のお散歩のお話を作っていました。

──初めてお話から作ってみて、いかがでしたか。

お話から作るのは、やっぱり難しかったですね。編集者さんとは何度もラフのやりとりをしました。かたつむりに傘を差してあげるシーンで「ひとりぼっちでさみしいね」と、わざわざ理由を説明するような一文を入れていたり、逆に後半は盛り上がりなく、あっさり終わってしまっていたり……。削ぎ落としたり、付け加えたりを繰り返して、形にしていきました。
ラフもカラーで描かれていて、絵本の雰囲気がとてもよく伝わってきます。

コール&レスポンスを楽しんで

──女の子は、娘さんをモデルに描いたそうですね。

そうですね。『あめふりさんぽ』のころはまだ赤ちゃんだったので、娘がもう少し大きくなったらこんな感じかな、こんなふうに二つ結びしてあげたいな、などと想像しながら描いていました。

──雨の日の景色と、えがしらさんの水彩画がとても合っています。

水彩は水の表現と相性がいいですよね。ただこのころは、まだ自分の絵のタッチが定まっていなくて。人物と背景を同じようなテンションで塗ってしまいがちだったので、背景に手を入れすぎないように気をつけていたんですが、どのぐらいがいい塩梅なのかわからなくて苦労した記憶があります。

水彩ならではのにじみも、やりすぎるとよくないと思いつつ、どの程度がちょうどいいのか自分でもよくわからなくなってしまって。毎ページ、試行錯誤しながら描いていましたね。

──「あめふりさんぽ ちゃぷ ちゃぷ ちゃぷ」は、実際の雨の日のお散歩で真似したくなるフレーズです。

お散歩しながら口ずさめる、楽しいフレーズを盛り込んだ絵本にしたかったんです。最初は「ちゃぷちゃぷ あるくよ あめふりさんぽ」とするつもりだったんですけど、親子でコール&レスポンスみたいに口ずさめたらもっと楽しいんじゃないかなと思って、途中で変えました。

お母さんが「あめふりさんぽ」と呼びかけると、子どもが「ちゃぷちゃぷちゃぷ」と返す……お散歩中にそんなやりとりができたら、すごく楽しいですよね。

──えがしらさんご自身は、雨の日のお散歩が好きですか。

雨の日は憂鬱になってしまう人、多いと思うんです。私もそうだったんですけど、あるとき、雨の日の何が不快かって、足が濡れて気持ち悪いのが嫌だったんだなって気づいて。お気に入りの長靴を買ったら、雨の日のお出かけも楽しめるようになりました。絵本の中の女の子も、お気に入りの傘を持って出かけますけど、そうやってうまく気分を上げていけるといいですよね。
独特のにじみ感は、水彩によるもの。さまざまな筆を使い分けている。
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