朗読の名手・堀井美香(TBSアナ)がおすすめ!「幼児向け読み聞かせ絵本」とは

TBSアナウンサー・堀井美香さんインタビュー第4回

選んだ絵本にはその人柄が出るという堀井美香さん。さてその堀井さんが選ぶものとは?
写真:アフロ

〝読みのプロ〟であり、二児の母親でもあるTBSアナウンサーの堀井美香さんは、公私にわたって、たくさんの本を読み聞かせてきました。
その人がおすすめする絵本とは? 世の中に無数に存在する絵本の中から「この一冊!」を選ぶ方法についてもうかがってみました。

家にあった絵本はほんの十数冊

ふたりのお子さんが幼い頃は、毎日のように絵本の読み聞かせをしていたという堀井美香さん。家にはさぞかしたくさんの絵本があったのだろうと思いきや、意外や意外、「持っていたのはほんの十数冊」。

「絵本は図書館で借りてくることが多かったんですけど、毎週、図書館に行ける環境でもなかったため、読み聞かせる本のバラエティは、決して豊かなほうではなかったと思います」

それだけに、同じ絵本を繰り返し読むことが多かったといいますが、そのたび、堀井さんには感心させられることがありました。

「子どもって、同じ絵本を何回読んでも、同じところで泣いたり、笑ったりする。〝この話、聞いたことがある〟などとは思わないようで、読むたび、素直に物語に入っていける純粋無垢なところがあるんです。
これは、子どもならではの強み。

大人になると、本にしろ、映画にしろ、演劇にしろ、同じ作品を何度か読んだり、観たりすると、2回目、3回目には、いろいろ考えて、違う見方をしようとしたり、何かを探したりしますよね。
でも、子どもは違います。
何回読んでも、そのたび、新鮮な気持ちで、そのまま物語を吸収しようとする。いつも、〝すごいなぁ〟と思いながら接していました」

必ずしもたくさんの種類の本を用意する必要はないのかもしれない。堀井さんのお話を聞いていると、そんな気もしてきます。

「蔵書(?)は十数冊しかありませんでしたが、その日に何を読むかは、子どもたちに決めさせていました。〝今日は何を読む?〟と聞いて、読んで欲しい本を本人に持って来させるようにしていたんです。
あと、〝紐くじ〟みたいなことをやってもいましたね。本にそれぞれ長い紐をつけてぐちゃっとしておいて、そのうちの一本を子どもに引かせる。そして、〝来た来た来た来た〜。はい、今日はこの本ね〟って感じで。これもまた、子どもたちを楽しませる母のアイデアです(笑)」

数冊の絵本にそれぞれ紐をつけて一本だけ子どもに引かせ、〝紐くじ〟のようにして、その日に読む本を決めたこともあるという。堀井さんの読み聞かせには「母のアイデア」がぎっしり!
ZOOM取材にて

読み聞かせ用の本は自分のお気に入り+大切な人からの贈り物

堀井さんの家にあった十数冊の絵本。それは、いったいどんなものだったのでしょうか。

「自分で買ったものと、母やお義母さん、友だちから贈られたものでした。夫ですか? 夫は絵本など買ってきた試しがありません(笑)。
自分で買ったのは、例えば、『ぐりとぐら』シリーズ、『ばばばあちゃんのおはなし』シリーズなど。いずれも、私自身が小さい頃に読んでいて、好きだなぁと思っていた作品です」

ちなみに、『ぐりとぐら』シリーズは、仲良し野ネズミの〝ぐり〟と〝ぐら〟が野山を駆け回る楽しい物語。『ばばばあちゃん〜』のほうは、元気で愉快な〝ばばばあちゃん〟が活躍するシリーズです。

「母から贈られたのは『やさしいライオン』。孤児のライオンと、そのライオンに無償の愛を注ぐ一匹の犬の物語で、アンパンマンの作者でもあるやなせたかしさんの作品です。
私自身も小さいときに母から読んでもらっていたものですが、自分の子どもたちにも、数え切れないくらい読み聞かせました。長女は、そのたびに泣いていましたねぇ……」

一方、ご主人のお母さん、つまりお姑さんから贈られたのは、『どうぞのいす』という絵本。〝ウサギさん〟のつくった「どうぞのいす」が、優しい心の連鎖を生むという心温まる物語で、こちらも「もう何百回読んだかわからない」とか。

「友だちからは『さむがりやのサンタ』をいただきました。
寒さにグチをこぼしつつ、煙突に文句を言いながら、サンタさんが子どもたちにプレゼントを運ぶ1日の様子が描かれた絵本で、絵のディテールがいちいち凝っているんです。
娘は社会人になって独立していますが、ひとり暮らしの部屋にその本を持って行ってベッドサイドに置いているほど。それくらいお気に入りみたいですよ」

堀井さんが実母にも読んでもらった『やさしいライオン』(作・絵:やなせたかし/フレーベル館)、お姑さんからもらった『どうぞのいす』(作:香山美子、 絵:柿本幸造/ひさかたチャイルド)。どちらも幼い子どもでも楽しめる内容だ。

本のチョイスにはその人自身があらわれる!

「チョイスした本には、その人自身があらわれる」と堀井さんは考えています。そしてまた、贈られた本には、「物語のテーマを通して、贈った側の〝こんなことを大事にしてね〟というメッセージが込められている」とも。

「例えば、うちの母は、小さいときに母親、つまり私にとってのおばあちゃんと死に別れているんですね。その母が贈ってくれたのが、お母さんと離れ離れになってしまったライオンの物語『やさしいライオン』。母がこの作品を好きな理由もよくわかるし、この作品を通して、私や私の子どもたちに、子どもに対する親の気持ち、親に対する子どもの気持ちを伝えたかったことも理解できるんです」

一方、ご主人のお母さんは、堀井さん曰く「物静かで謙虚で、庭に咲いた一輪の花を花びんに挿して、それで1日幸せを感じるような人」。

「その義母にとって初めての孫がうちの長女でしたが、その誕生のときに贈ってくれたのが『どうぞのいす』。優しい言い回しやほのぼのとしたイラストが、義母そのもののような気がします。

母が贈ってくれた『やさしいライオン』にしてもそうですし、友だちがくれた『さむがりやのサンタ』にしてもそうですが、贈ってくれた人そのものがあらわれた絵本を自分の子どもたちに読んで聞かせることができる。すごく幸せなことだと思いながら、読んでいましたね」

こんなふうに、堀井さんは厳選した作品をとても大事にしてきたように思えますが、そんな中で、未就学児にオススメの絵本はどんなものなのでしょうか。

「まず一冊目は『どうぞのいす』でしょうか。リズミカルなテンポで読み聞かせることができて、大人が読んでもほっこり癒されるような作品です。
そしてもう一冊は『さむがりやのサンタ』。ページをめくるとコミックのようにサンタさんのいろいろな絵が出てきて、吹き出しのセリフがついているんですけど、〝さあ行こうか〟とか〝寒い〟〝暑い〟など、セリフは最小限に抑えられている。
だから、うちの子どもたちは、勝手にセリフをつけて喋っていました。
いずれの作品も、就学前の小さな子どもにはオススメではないかと思います」

サンタの忙しいクリスマスの1日を、コミックのようなコマ割りで表現した『さむがりやのサンタ』(作・絵:レイモンド・ブリッグズ  訳:すがはら ひろくに/福音館書店)

好きな人や尊敬する人に「この一冊」を聞いてみるのも手

我が子にどんな作品を読み聞かせるか。親としては責任重大。絵本のチョイスに迷ってしまいそうですが……。

「私には、とても尊敬している同期入社の男性がいます。正義感にあふれていて、凛としていて、素晴らしい人ですが、その彼に〝子どもの頃に好きだった本は?〟とたずねたら、『やっぱりおおかみ』という回答が。
主人公のオオカミは、〝ふん、どうせ俺なんかに仲間はいないしさ。でもいいんだ、ひとりで生きていこう〟と進んでいく力強さがある。なんだか彼らしいなぁと思いました」

堀井さんが尊敬している、その男性は、「海外支局で、弱者を助けるための報道をコツコツと続けている人」。堀井さんは、「彼と絵本の中に登場するオオカミには重なるところがあるように思える」と言います。

「小さい頃に読んでいた作品に込められたメッセージが、大人になったその人の信条のようなものになっていることも、あるのかなぁと。
だから、子どもに読み聞かせる絵本のチョイスに迷ったら、〝この人、素敵だな〟とか、〝自分の子どもにもああなってほしい〟と思うような人に、子どもの頃に好きだった作品をたずねてみるといいかもしれませんよ」

子どもの頃、母に読んでもらっていた作品や、自分自身が好きな作品は、やっぱり自分の子どもにも読み聞かせたいと思いますね」と堀井さんは言う。

取材・文/佐藤美由紀

【第1回】堀井美香さんインタビュー「母に鍛えられた〝声に出して読む〟」絶大効果とは
【第2回】堀井美香さんインタビュー「堀井美香流・読み聞かせ術」とは
【第3回】堀井美香さんインタビュー「親子で盛り上がる読み聞かせアイデア」とは
【第4回】堀井美香さんインタビュー「おすすめの幼児向け読み聞かせ絵本」とは

ほりい みか

堀井 美香

フリーアナウンサー

フリーアナウンサー。1972年3月22日生まれ、秋田県出身。法政大学法学部を卒業後、1995年にTBSに入社して以来、局アナとして第一線で活躍。 これまでには多くのナレーションを担当し、ナレーションの名手としての存在感を放つ。TBSアナウンサーによる朗読会『A’LOUNG(エーラウンジ)』のプロデュースを担当するなど、朗読にも注力している。2022年3月TBS退社。同年4月よりフリーアナウンサーとして活躍中。 私生活では一男一女の母。子どもたちが幼い頃には、自分なりに工夫した絵本の読み聞かせを実践していた。TBSラジオ『ジェーン・スー生活は踊る』にレギュラー出演するほか、週1回のPodcast番組『Over the sun』を配信中。 近著『音読教室 現役アナウンサーが教える教科書を読んで言葉を楽しむテクニック』(カンゼン)が好評発売中。

フリーアナウンサー。1972年3月22日生まれ、秋田県出身。法政大学法学部を卒業後、1995年にTBSに入社して以来、局アナとして第一線で活躍。 これまでには多くのナレーションを担当し、ナレーションの名手としての存在感を放つ。TBSアナウンサーによる朗読会『A’LOUNG(エーラウンジ)』のプロデュースを担当するなど、朗読にも注力している。2022年3月TBS退社。同年4月よりフリーアナウンサーとして活躍中。 私生活では一男一女の母。子どもたちが幼い頃には、自分なりに工夫した絵本の読み聞かせを実践していた。TBSラジオ『ジェーン・スー生活は踊る』にレギュラー出演するほか、週1回のPodcast番組『Over the sun』を配信中。 近著『音読教室 現役アナウンサーが教える教科書を読んで言葉を楽しむテクニック』(カンゼン)が好評発売中。