絵本ナビ編集長がおすすめする 5歳の子どもが読むのにぴったりな絵本

絵本の情報サイト「絵本ナビ」編集長の磯崎園子さんが『絵本と年齢をあれこれ考える』エッセイ第9回

磯崎 園子

自ら空想の世界をつくりだし、現実をも巻き込んでいってしまうのは『ぼくのかえりみち』(ひがし ちから・作 BL出版)だ。「この白い線から落ちたら、大変なことになる」そう言って、道路の白い線だけを通って家に帰る少年。こういう遊びは、子どもなら一度は経験したことがあるだろう。
「ぼくのかえりみち」
ただ、見ている世界がそのまま絵本になってみると、それがいかに切実な試みであるかが伝わってくる。彼らにとっての空想の世界は、それなりの決意も必要であるらしい。真剣勝負なのだ。『うえきばちです』(川端 誠・作 BL出版)で、植木鉢から出てくるものは普通ではない。「め」が出て、「は」が出て、「はな」が咲く。驚きと恐怖が待っていることを予測しながらも、待ちかまえ、存分にその笑いを味わっている。
「うえきばちです」

物語の世界にも深く入りこむ

こんな風に空想をしたり、考えたりする力がついてくると、今度は『王さまと九人のきょうだい 中国の民話』(君島 久子・訳 赤羽 末吉・絵 岩波書店)のような、少し長い物語の世界にも入っていくことができるようになる。

おじいさんとおばあさんのところに生まれたのは、九人の赤んぼう。「ちからもち」「くいしんぼう」「はらいっぱい」「ぶってくれ」「ながすね」「さむがりや」「あつがりや」「切ってくれ」「みずくぐり」。名前はそれぞれ九人にそなわった能力をあらわしており、その能力を生かし、ひどい仕打ちをする王さまをやっつけていくという痛快な物語絵本。目の前で起きているのはおかしなことだと思いながらも、その展開を楽しむことができている。
「王さまと九人のきょうだい 中国の民話」
『おおかみのおなかのなかで』(マック・バーネット・文 ジョン・クラッセン・絵 なかがわ ちひろ・訳 徳間書店)では、もっと奇天烈な設定だ。なにしろ主人公のねずみが物語の大半を過ごすのがおおかみのお腹の中なのである。しかも、そこにはなんと先客のあひるまでいて、優雅に暮らしている。5歳なりに必死でその状況を想像し、そして全力で笑ってくれる。もしかしたら、絵本の世界へ入り込む深さは、この時期が一番なのかもしれない。
「おおかみのおなかのなかで」
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