『霧のむこうのふしぎな町』『竜が呼んだ娘』の作家・柏葉幸子 【米バチェルダー賞大賞】作をインドネシアの中・高校生200名以上が読んで出た「予期せぬ批評」とは?

『帰命寺横丁の夏』ブックレビューコンテストが開催 著者・柏葉幸子によるインドネシアレポート

児童文学作家:柏葉 幸子

異国での授賞式。インドネシアの中高生たちの感想は…

雪が舞う岩手の盛岡から、色とりどりの花が咲き乱れ、明け方から日暮れまで一日に何度か、街のいたるところにあるモスクからアザーンというイスラム教の「お祈り時間を知らせる放送」が流れるインドネシアへ行ってきました。首都ジャカルタと、赤道直下のマカッサルという港のある街です。

女性はヒジャブという髪を隠すスカーフを頭からかぶり、街の中では、てるてる坊主が歩いているようなかわいらしい女の子も見かけます。ムスリムの国。異国! でした。

インドネシア・マカッサルの「99ドームモスク」の前で。
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2024年に『帰命寺横丁の夏』を国際交流基金の支援を受けてインドネシア語に訳して出版していただきました。現地の中高生を対象に、ブックレビューコンテストがインスタグラムでおこなわれ、その授賞式に行ってきたのです。

インドネシア全土の中学・高校から200もの応募があり、最終審査に残ったものはみな、感激するほど『帰命寺横丁の夏』を面白がって読んでくださって、最後はかけあしで進みすぎではないかといった批評までいただきました。「ああ、面白かった!」と言っていただきたいと思って物語を書いている私には、この上ないご褒美をいただいたようでした。日本の文化や歴史にまで興味をもってくださったようです。

日本語からインドネシア語へ訳してくださったアンドリーさんが、
「面白くて夢中になって読みました」
と言ってくださり、アンドリーさんのその思いがインドネシアの読者の方に伝わったのだと感謝です。

 授賞式はお雛様が飾られた国際交流基金のインドネシアの海外拠点、ジャカルタ日本文化センターでおこなわれました。受賞した学校はジャカルタ近郊からだけの参加でしたが、みなさんとてもうれしそうで誇らしげで、これからも本を楽しんで読んでいただけそうだと頼もしかったです。

『帰命寺横丁の夏』ブックレビューコンテストの授賞式のようす。壇上、右から2番目の、着物の女性が柏葉さん。インドネシアの高校生たちと。

日本への関心の高さと、身近ではない「読書」

インドネシアの児童文学作家との対談。

動画サイトや映画で日本のアニメやコミックを観るので、日本への関心は高いようです。でも、インドネシアでは本は高額で、身近に本を手にとることは難しいことなのかもしれないと感じました。

図書館にも連れていってもらったのですが、児童書のコーナーで子どもが絵本をパラパラとめくり、親は携帯を観ていました。本を読み聞かせるという習慣はあまりないようです。子どもがぐずりだすと親は携帯の画面を見せると聞いて驚いたものの、今の日本でもそう変わりないですね。

インドネシアで子どもの本を書いているリザルさんは、子どものころ、読み聞かせはしてもらわなかったようですが、おじいさんに寝物語で怖いお話を聞かせてもらったそうです。幼い子どもと物語をつなげるのは大人の役目だと思っています。

子どもが大人へ、意見を伝えるということ

講演会のあと。インドネシアの大学生たちと。

マカッサルではハルニタさんという3児のお母さんが『帰命寺横丁の夏』を読んだ感想をお話ししてくださいました。

主人公のカズが自分の意見を大人に伝え、行動しているところが印象的で、物語全体で子どもの声を伝えている、と誉めてくださいました。反抗とまで強い調子ではなくとも、子どもが大人に自分の思いを伝え行動することは、日本ではそう難しいことはないと思うのです。

インドネシアは家長制度が強いせいか、主人公のカズの行動に驚いたのかもしれません。インドネシアと日本の違いを感じました。それでも、本を楽しんで読んでいただけたようでうれしい、という思いは同じでした。

ハルニタさんは、『窓ぎわのトットちゃん』を読んで日本に興味をもたれたそうです。たくさんの方に『帰命寺横丁の夏』も読んでいただいて、日本にもっと興味をもっていただけたらと願いました。

サイン会のようす。

写真/児童図書編集チーム

帰命寺横丁の夏

海外で今、話題の『帰命寺横丁の夏』。小学生のお子さんだけでなく、大人が読んでもおもしろい! と評判です。

ぜひ日本のみなさまも、夏がくるまえに、お手に取ってみてください。

『帰命寺横丁の夏』
作:柏葉幸子、絵:佐竹美保/講談社刊

2022年全米図書館協会バチェルダー賞、大賞受賞作。

「帰命寺横丁」には、祈れば死者がよみがえるという、「帰命寺様」がまつられていた。ある夜、カズは、よみがえった少女・あかりの影を見つける。翌日学校へ行くと、あかりが当然のようにクラスメイトの一員として座っている!

あかりはどうしてよみがえったのか?

カズとあかりのふしぎな夏休みを描いた、ドキドキハラハラの名作ファンタジー。

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かしわば さちこ

柏葉 幸子

Sachiko Kashiwaba
児童文学作家

児童文学作家。岩手県生まれ。東北薬科大学卒業。大学在学中に講談社児童文学新人賞を受賞し、『霧のむこうのふしぎな町』でデビュー。ファンタジー作品を多く書き続けている。『牡丹さんの不思議な毎日』で産経児童出版文化賞大賞、『つづきの図書館』で小学館児童出版文化賞、『岬のマヨイガ』で野間児童文芸賞受賞、『帰命寺横丁の夏』英語版でバチェルダー賞受賞など受賞歴多数。

児童文学作家。岩手県生まれ。東北薬科大学卒業。大学在学中に講談社児童文学新人賞を受賞し、『霧のむこうのふしぎな町』でデビュー。ファンタジー作品を多く書き続けている。『牡丹さんの不思議な毎日』で産経児童出版文化賞大賞、『つづきの図書館』で小学館児童出版文化賞、『岬のマヨイガ』で野間児童文芸賞受賞、『帰命寺横丁の夏』英語版でバチェルダー賞受賞など受賞歴多数。