「こども地政学」で知る戦争と平和 子どもが世界を読み解くための3つの鍵

制作者インタビュー「こども地政学」#4 ~これからの未来編~

ライター:遠藤 るりこ

地政学を学ぶと、今の世界が抱える問題やその原因、これからが少し見えてきます。  写真:アフロ

知れば知るほど、日本や世界の国々がリアルに浮き上がってくる「地政学」という学問。

『こども地政学 なぜ地政学が必要なのかがわかる本』(カンゼン刊/以下、『こども地政学』に略)の監修者である船橋洋一(ふなばし・よういち)さん、同著をはじめ、大人気児童書シリーズを手がける担当編集者・坪井義哉(つぼい・よしや)さんにお話をおうかがいしました。

これからの日本、そして世界を考えるうえでのキーワードは、①「経済=地経学」と②「エネルギー」、そして③「サイバーパワー」。

地政学的な課題を解決するうえで、重要な鍵となるこの3つについて、『こども地政学』の内容を抜粋しながら教わります。

※全4回の4回目(#1#2#3を読む)。

軍事力から経済力の時代へ

「かつての国の争いは軍事力を使った“戦争”が中心でしたが、いまはその様子が変わってきています」と『こども地政学』の担当編集者・坪井義哉(つぼい・よしや)さん。

現代では「経済力(エコノミックパワー)」を武器にして、自国をより有利な立場に置こうとするやり方が増えていると続けます。

「たとえば、トランプ前米大統領は、『アメリカは中国からたくさん輸入している。中国はアメリカから輸入しないのはズルい!』と主張して、中国からの輸入品に関税を課しました。

すると、中国も対抗してアメリカからの輸入品に関税を課し、“米中貿易戦争”と呼ばれるまでに貿易問題がこじれてしまいました」(『こども地政学』より抜粋)

関税とは、海外からの輸入品に税金をかけること。たとえば、日本は国内の米農家を守るために、価格が安い輸入米に1kg当たり341円の関税をかけて、海外から輸入米が入ってきづらくするなどの政策をとっています。

「また、中国は経済力をもって他国を支配するやり方を押し通そうとしています。このようなやり方は、欧米諸国から“新植民地主義(※1)”として非難されています。

これは、経済大国が軍事力を使わずして貧しい国を支配しようとするわかりやすい例です」(『こども地政学』より抜粋)
※1=途上国への経済的支援や軍事同盟などを通じて実質的に支配しようとすること。

軍事による争いが中心だった「地政学」の時代から、経済を武器に争う「地経学(ちけいがく)」の時代になっているのです。

世界のエネルギー問題は地政学がキーワードに

『こども地政学』の監修者である船橋洋一(ふなばし・よういち)さんは、外交・安全保障の専門家で、アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)の創設者です。

「今回のウクライナ戦争で露(あら)わになったのは、“エネルギー”をめぐる、ロシアと日本を含む西側の激しい対立」と語ります。

「ロシアは世界有数の石油・天然ガス・石炭の産出国であり、欧州を中心に西側の国々はこれらの化石燃料の輸入の多くをロシアに依存しているのが現状です。

今回のロシアによるウクライナ侵攻を受け、西側諸国が経済制裁を発動したのに対して、ロシアは石油やガスの輸出を制限、ロシアにおける海外企業のエネルギー権益に圧力をかけ、対抗しています」(船橋さん)

それによって世界的にエネルギー価格が上昇し、インフレが悪化し、消費が落ち込み、経済が減速する恐れが生じています。

「戦前、日米関係が中国をめぐって緊張した際、米国が日本に対する石油禁輸を発動し、日米の外交交渉による解決がとても難しくなりました。結局、日米は太平洋戦争へとなだれ込んで行きました。

日頃からエネルギー安全保障への備えをしないと、エネルギー危機が起こったとき、乗り越えることはできないということがわかります」(船橋さん)

現在、日本のエネルギー自給率は約11パーセント。日本は原油や天然ガスなどのエネルギー資源のほとんどを、海外からの供給に依存しています。

「日本は現在、ウクライナ戦争をめぐってロシアに対する経済制裁を行っていますが、実際のところ、日本には他国を経済制裁することができるほどの経済と資源の力の余裕はないんです。

むしろ他国に経済制裁されたとき、きわめて弱い体質であるということを忘れてはなりません。日本ほどエネルギー安全保障を必要としている国はないのです」(船橋さん)

エネルギーは、地理と場所がモノを言う、「地政学の塊のような資源」だということを忘れてはいけません。

世界は目に見えない戦争をしている?

おもにコンピューターやネットワークによって構築された仮想的な空間を「サイバー空間」といい、その代表的なものはインターネットです。

いま、国同士の主導権争いにおいて、この「サイバーパワー」の重要度が高まっています。

「2015年に米政府機関の約2000万人の機密データが不正流出した事件、2018年に発覚した世界的に有名なアメリカのホテルチェーンのサーバから宿泊客3億8300万人のパスポート番号を含む個人情報が盗まれた事件について、中国人民解放軍による組織犯罪とアメリカは断定しました。

中国は目に見えないサイバー攻撃を行って情報収集したり、攻撃対象国を混乱させることを狙っています」(『こども地政学』より抜粋)

いま世界の国々は「サイバーパワー」をめぐる競争を繰り広げています。目に見えないサイバー空間が、国家間競争の主戦場のひとつになっているのです。

「こうした中国によるサイバー攻撃への警戒を強めるために、米・英にオーストラリア、カナダ、ニュージーランドを加えた英語圏5ヵ国は、政治的、軍事的な情報を共有する“ファイブアイズ”と呼ばれる同盟を結んでいます。

これらの5ヵ国と安全保障で関係が深い日本も、新たにファイブアイズに加盟する動きが出始めています」(『こども地政学』より抜粋)

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