【少子化・年収443万】シングル家庭・保育士の苦悩…「平均年収以下」の子育て生活

保育士「正社員」でも平均年収以下

ジャーナリスト:小林 美希

働きやすい「ホワイト」な環境の保育園でも、仕事をしながら家事と育児のワンオペ生活はきつい(写真:アフロ)
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ケース2:子育て時間が欲しい塚野真紀さん(仮名、37歳)

私が働いている保育園では、職員体制が手厚いので、研修に出る機会もあって勉強ができます。また、何かあっても休みやすいので、とても働きやすい職場です。皆が協力し合って、「シフトの時間で上がってね」と、雰囲気も良い。経営者が待遇改善に努めてくれているのが分かるので、恵まれていると思います。

私は正社員で、手取りが月20万円になります。年収では、額面で350万円くらい。ここ数年で、私の給与は月2〜3万円は上がっています。夫は電気関係の仕事をしていて、手取りが月30万円。夫は、朝6時半ごろには家を出て職場に向かい、夜も遅く帰ってきます。

夫は日曜しか休みがなく、家事と育児はワンオペです。悩みは、小学生・中学生の子ども二人と過ごす時間を、どうやって確保するかということです。

保育園を夕方6時に出て、電動自転車を飛ばして家まで30分。疲れ果てていて、家に帰るころには、『もう料理は、いいやー、できない』という毎日です。ついつい外食や弁当・総菜を買うことが、多くなってしまいます。

収入のこともあって、パートから正社員に転換しましたが、もう、本当に疲れています」

仕事と家事・育児の両立で、疲れ切ってしまう(写真:アフロ)

「小学校高学年の娘は、午後3~4時ごろには帰宅していて、自分で宿題を済ませて待っています。中学生の娘は、部活が終わって午後6時に帰宅。

私が遅番のシフトに入ると、家に着くのが夜8時を回ってしまいます。夜9時半には下の子を寝かせたいので、子どもと過ごす時間が、朝の慌ただしい送り出しを含めても、1日3時間しかない。

職場の保育園では、他人の子どもと8~9時間も過ごすのに、自分の子どもと接する時間が少ないのは、悩みどころです。

保育士の仕事は楽しいのです。赤ちゃんがハイハイできるようになって、自分でご飯が食べられるようになっていく。そうした、ひとつひとつに感動するんですよね。だからこそ、自分の子どもとの時間も大切にしたい」

職場の保育園では、他人の子どもと8~9時間も過ごすのに、家で自分の子どもと接する時間が少ないのが悩みだ(写真:アフロ)

「パートで、午前9時〜午後4時くらいまでの「短時間勤務」が理想なのですが、やはり家計を考えると、正社員で働かないと。これから高校受験を控えています。娘は、姉妹で3歳差なので、姉の大学受験・妹の高校受験が重なります。学費を考えたら、お金を貯めないと。ジレンマです。

本当は、下の娘を小学校に送り出して、娘が帰宅するころには家にいてあげたい。

早番の日に仕事が時間どおりに終わって、夕方5時ごろに私が家に着くと、娘が嬉しそうな顔をするんです。そういう日は、一緒にソファに座って「ちょっと、お菓子でも食べちゃう?」と言って二人でおやつの時間。ただ、それだけなのですが、至福の時だと思うのです。

保育士全体として、収入が月にあと3〜5万円上がっても、いいのではないかと思うんです。そうすれば、私も子育て時間に悩まずに済むのに。岸田政権で、1年前から「保育士の賃上げ」といって、月9000円アップされましたが、正直、たった9000円かぁ、とがっかりしました。もっと、根本的なところで、賃金が上がらないと。

でも……。うちの保育園は、経営者がホワイトだからいいけれど、保育士の賃金を底上げしたとしても、勤め先がブラック保育園だと、経営者に吸い取られてしまうだけですから、ダメですね」

少子化対策を考える上で、保育士の待遇改善は急務

【解説】私立の認可保育園には、税金を主な原資とした運営費の「委託費」が支払われている。委託費を算出するための「公定価格」があり、地域区分、園児の年齢、園の定員規模によって決められている。

公定価格が最も高い東京23区では、2021年度の「保育士1人当たり」の基本的な賃金年額だけで約442万円となる。そこに、国と東京都独自の処遇改善費が加わると、保育士1人当たりに、最大で約565万円もの賃金が、公費で出ている計算となる。

多額の公費が出ているはずなのに、「実際に保育士が手にとる賃金」が少ないのはなぜか(写真:アフロ)

しかし、東京23区で「実際に保育士が手にとる賃金」は、約381万円と少ない(内閣府「幼稚園・保育所・認定こども園等の経営実態調査」2018年度実績)。

人件費が大半を占める「委託費」を流用できる、「委託費の弾力運用」が認められているため、人件費が他に使われてしまい、保育士が低賃金に留まる問題が起こっている。

前述した保育園のように、雇われている保育士数が多ければやむを得ない事情もある一方で、配置基準ギリギリの体制にして、低賃金に抑えることで、経営者だけが利を得るケースが目立っている。

少子化対策を考えるうえで、ひとり親はもちろん、親子を支える保育士が「平均年収以下」にならないような手立てを打つことが、急務の課題ではないだろうか。

【日本社会の現実から「少子化の原因と対策」を考える連載は全3回。第1回では夫婦ともに平均年収でも「普通の生活」が厳しい現状を紹介し「沈む中間層」問題を解説。第2回では「子どもか仕事か」の選択を迫られた事例を通して「女性の非正規雇用問題」を解説。第3回では2人の保育士のケースを紹介、「平均年収以下」で働きながら子育てをする現状について考える。】

【参考・引用】
令和3年度 全国ひとり親世帯等調査結果報告(厚生労働省)
幼稚園・保育所・認定こども園等の 経営実態調査集計結果(内閣府)
保育士宿舎借り上げ支援事業(首相官邸)

年収443万円 安すぎる国の絶望的な生活
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こばやし みき

小林 美希

Miki Kobayashi
ジャーナリスト

1975年茨城県生まれ。水戸第一高校、神戸大学法学部卒業後、株式新聞社、毎日新聞社『エコノミスト』編集部記者を経て、2007年よりフリーのジャーナリスト。就職氷河期の雇用、結婚、出産・育児と就業継続などの問題を中心に活躍。2013年、「「子供を産ませない社会」の構造とマタニティハラスメントに関する一連の報道」で貧困ジャーナリズム賞受賞。著書に『ルポ 正社員になりたい』(影書房、2007年、日本労働ペンクラブ賞受賞)、『ルポ 保育崩壊』『ルポ 看護の質』(岩波書店)、『ルポ 産ませない社会』(河出書房新社)、『ルポ 母子家庭』(筑摩書房)、『夫に死んでほしい妻たち』(朝日新聞出版)、『年収443万円 安すぎる国の絶望的な生活』(講談社)など多数。

1975年茨城県生まれ。水戸第一高校、神戸大学法学部卒業後、株式新聞社、毎日新聞社『エコノミスト』編集部記者を経て、2007年よりフリーのジャーナリスト。就職氷河期の雇用、結婚、出産・育児と就業継続などの問題を中心に活躍。2013年、「「子供を産ませない社会」の構造とマタニティハラスメントに関する一連の報道」で貧困ジャーナリズム賞受賞。著書に『ルポ 正社員になりたい』(影書房、2007年、日本労働ペンクラブ賞受賞)、『ルポ 保育崩壊』『ルポ 看護の質』(岩波書店)、『ルポ 産ませない社会』(河出書房新社)、『ルポ 母子家庭』(筑摩書房)、『夫に死んでほしい妻たち』(朝日新聞出版)、『年収443万円 安すぎる国の絶望的な生活』(講談社)など多数。