
小学校の抜き打ち避難訓練(無予告)
「事前に子どもたちに知らせない無予告の地震避難訓練を行いました。すると、校庭にいた100人弱の児童の約9割が、緊急地震速報のアラーム音を聞いて、一斉に校舎の中に向かった。そして、教室の自分の机の下にもぐったんです」(秦教授)
実際の映像を見てみると、子どもたちが最初は戸惑っている様子がよくわかります。そして次にゾロゾロと、多くの子どもたちが校舎へと戻っていくのです。
「普段から『地震のときは机の下にもぐりなさい』と訓練しているから、校庭にいるにもかかわらず、机の下に向かったのです。しかも、近くの教室の机ではなく、みんな自分の教室の自分の机でした。
建物被害のない校庭という比較的安全な場所にいたのだから、本来はそこにとどまるのが良いわけです。にもかかわらず、わざわざ教室へ戻ってしまいました。子どもたちは教わったとおりに実践しただけであり、指導の仕方に問題があるんです。これが実際の地震の映像だとしたら、本当に恐ろしいことですよね」(秦教授)
この避難訓練を経験した小学校5年生の女子児童が、訓練について振り返ったエピソードがあります。
「その女子児童は、抜き打ちでの初めての訓練だったので、何をしたらいいかがわからなくて頭が真っ白になった、と言っています。友達にどうするかを聞いたら、『校庭にいよう』と言われたからそうしたけれど、そのときは考えることもできなかったし、言葉でも説明できなかった。
あとからじっくり考えたら、確かにわざわざ物が落ちてくる可能性がある校舎に戻る必要はなかったけれど、あのとき、瞬時には判断ができなかった、と」(秦教授)
地震や火災は予告があって起こるものではないので、秦教授は抜き打ちでの避難訓練を推奨しています。
江夏さんも、「何から逃げるのかを理解させず、ただ指示どおりに早く動くこれまでの避難訓練では、意味がないどころか、間違った行動を誘発し、かえって被害を増やす恐れがある。これまでの防災教育や避難訓練を変えなければ、子どもは被害者に、先生は加害者になってしまう。今すぐにアップデートが必要」と話します。
では、どのような避難訓練を行っていけばよいのでしょうか。命を守るための避難訓練とは。次回は、避難訓練のアップデート内容を掘り下げます。
※=保育園などの児童福祉施設は、児童福祉法に基づいて義務付け。東京都の公立幼稚園・小・中学校・特別支援学校では、東京都教育委員会によって年11回以上の避難訓練が推奨。
取材・文/遠藤るりこ
●秦康範(はだ・やすのり)PROFILE
日本大学危機管理学部危機管理学科教授。専門は、地域防災、災害情報、防災教育。
●江夏猛史(えなつ・たけし)PROFILE
NPO法人減災教育普及協会理事長。減災人づくりアドバイザー、幼保防災アドバイザー、学校防災アドバイザー、避難訓練アドバイザー。
●取材協力
日本大学危機管理学部
NPO法人減災教育普及協会
●関連リンク
・日本大学危機管理学部
・NPO法人減災教育普及協会

江夏 猛史
NPO法人減災教育普及協会理事長。減災人づくりアドバイザー、幼保防災アドバイザー、学校防災アドバイザー、避難訓練アドバイザー。 阪神・淡路大震災の経験から、地震被害軽減を目的として2007年緊急地震速報事業に着手。2014年に、被害を減らせる人づくりを目的としたNPO法人減災教育普及協会を設立。 ●NPO法人減災教育普及協会
NPO法人減災教育普及協会理事長。減災人づくりアドバイザー、幼保防災アドバイザー、学校防災アドバイザー、避難訓練アドバイザー。 阪神・淡路大震災の経験から、地震被害軽減を目的として2007年緊急地震速報事業に着手。2014年に、被害を減らせる人づくりを目的としたNPO法人減災教育普及協会を設立。 ●NPO法人減災教育普及協会

遠藤 るりこ
ライター/編集者。東京都世田谷区在住、三兄弟の母。子育てメディアにて、妊娠・出産・子育て・子どもを取り巻く社会問題についての取材・執筆を行っている。歌人・河野裕子さんの「しつかりと 飯を食はせて 陽にあてし ふとんにくるみて寝かす仕合せ」という一首が、子育てのモットー。 https://lit.link/ruricoe
ライター/編集者。東京都世田谷区在住、三兄弟の母。子育てメディアにて、妊娠・出産・子育て・子どもを取り巻く社会問題についての取材・執筆を行っている。歌人・河野裕子さんの「しつかりと 飯を食はせて 陽にあてし ふとんにくるみて寝かす仕合せ」という一首が、子育てのモットー。 https://lit.link/ruricoe
秦 康範
日本大学危機管理学部危機管理学科教授。博士(工学)。専門は、地域防災、災害情報、防災教育。 阪神・淡路大震災を自宅で経験し防災専門家を志す。人と防災未来センター、防災科学技術研究所、山梨大学等を経て2024年4月から現職。 ●日本大学危機管理学部
日本大学危機管理学部危機管理学科教授。博士(工学)。専門は、地域防災、災害情報、防災教育。 阪神・淡路大震災を自宅で経験し防災専門家を志す。人と防災未来センター、防災科学技術研究所、山梨大学等を経て2024年4月から現職。 ●日本大学危機管理学部