産後の食事の注意点 積極的に摂りたい栄養素とは

産婦人科医・笠井靖代さん「産後の体と心のケア」#3

一汁二菜を意識すれば、自然と栄養バランスのとれた食事に。
写真:アフロ
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産後の体の回復や、母乳のためには、どのような食事を摂るがよいのでしょうか。

産後の食事で気をつけるポイントや積極的にとりたい成分や栄養素とは?

自らの高齢出産や母乳育児の経験を踏まえ、多くの妊産婦の妊娠・出産への悩みや不安に応えている、産婦人科医の笠井靖代先生に伺いました。​(全3回の3回目/#1#2を読む)

中性脂肪・コレステロール、炭水化物は控えめに

妊娠中はカロリー制限があったり、NG食材を避けたりと、食事面でがまんすることが多いですよね。

産後は出産の開放感から、つい「妊娠前のようにいろいろいっぱい食べたい!」と気持ちが緩みがちに。そこで、ママ自身の体の回復や母乳のためにも、注意したほうがいいポイントを押さえておきましょう。

まず、摂りすぎに注意したいのは、中性脂肪やコレステロール、炭水化物です。

産後は女性ホルモン「エストロゲン」減少の影響で、コレステロール値が上がりやすい状態に。妊娠前と同じ食事をしていると数値が上がってしまうので気をつけてください。

牛肉、豚肉など脂質の多いもの、バターやクリームなど乳脂肪分の多いもの、果物、ケーキやジュースなど糖質の多いものはで適度な量をバランスよくきるだけ控えましょう。

脂の多い肉を食べるときは、茹でる、蒸すなど、油を使わない調理法にするといいですね。

塩分も摂りすぎNG

また、妊娠中も塩分のとりすぎはNGですが、産後もむくみや高血圧などの原因になるので、産後も塩分控えめ生活を続けましょう。

醤油、ソース、ドレッシング、ケチャップなどの塩分が多い調味料はできるだけ避けて、味付けには、出汁、酢、レモン、オリーブオイル、ごま油、ごま、ナッツ類を使ったり、ネギや青じそなどの香味野菜を活用すると、薄味でもおいしくできるでしょう。

パパやママが薄味の食卓に慣れておくことは、健康的な離乳食や幼児食にもつながります。

とくに意識したい「ビタミンD」

ビタミンDは食事からの摂取とともに主に日光の紫外線を浴びることで、皮膚で産生される栄養素。

しかし、最近は日光に当たらないようにしている人が多く、ビタミンD不足の人が増えています。

ビタミンDの主な働きは、カルシウムの体内への吸収量を増やすこと。ビタミンDが不足すると、カルシウムを摂ってもうまく吸収されず、骨がもろくなってしまいます。

さらに、近年の研究では、ビタミンD不足は感染症や花粉症などのアレルギー疾患など、さまざまな疾病に関連していることがわかっています。

ビタミンDの摂取が不足したり日光をあまり浴びない生活を続けたりすると、母乳中のビタミンDが不足がちになります。人工乳にはビタミンDが添加されていますが、母乳で育てているママは注意が必要です。

さらに完全母乳で、赤ちゃんに日光浴をさせずにいると、赤ちゃんがビタミンD不足になります。すると、正常に骨が形成できない「ビタミンD欠乏性くる病」になるリスクが高まります。

近年では、離乳食以後も食事の偏りや日光浴不足によって、くる病になる子どもが増加していて、小児医学界でも問題視されています。

ですから、ママも赤ちゃんも、毎日の散歩などで適度に日光を浴びてビタミンDを産生しましょう。

両手の甲くらいの面積が15分間日光にあたる程度、または日陰で30分間くらい過ごす程度で、食品から平均的に摂取されるビタミンDとあわせて、十分なビタミンDが供給されるものとされています。

参考:紫外線環境保健マニュアル2008 環境省

また、ママはできるだけビタミンDが豊富な鮭、きのこ類(とくに干し椎茸)、卵黄などをとって、少しでも母乳から赤ちゃんに栄養を移行できるように心がけるといいでしょう。

日光浴をして、ビタミンDを産生しよう。
写真:ohayou/イメージマート

便秘に効く食事とは

とくに母乳栄養をしているの人は水分を奪われて便秘になりやすいので、食物繊維と、乳酸菌やビフィズス菌を意識して摂取しましょう。

食物繊維には水溶性と不溶性の2種類があり、不溶性ばかりに偏ると便秘が悪化することも。水溶性食物繊維は、わかめや昆布などの海藻類、大麦、芋類、熟した果物などに多く含まれるので、これらを積極的に取り入れてください。

乳酸菌やビフィズス菌は、ヨーグルトや乳酸飲料などに含まれますが、単品で摂取しても効果は少なめ。腸内で菌の餌になる米や小麦、大豆製品、野菜や海藻などと一緒にとることがポイントです。

さらに、産後は「エストロゲン」の減少により一時的に骨密度が低下して骨が弱くなりがちなので、牛乳や乳製品で毎日カルシウムを補給しましょう。

産後は血栓症も起こしやすい時期ですので、水分をしっかりとることも大切です。

「一汁二菜の和食メニュー」がおすすめ

産後の食事について、産院で「栄養バランスを整えることが大切」と指導された人も多いのではないでしょうか。

でも、「育児に時間も体力も奪われて、食事の栄養バランスまで気が回らない……」ということもありますよね。

そんなときはまず、主食・主菜・副菜を揃えることを意識してみてください。さらに、副菜を汁物と小鉢1〜2品にすれば「一汁二菜(または三菜)」に。

そうすると自然と栄養バランスが整い、産後に理想的なメニューになります。よりヘルシーにしたいなら、洋食より和食の方がおすすめです。

副菜を何品も作るのが大変なときは、缶詰やお惣菜を上手に利用してもいいでしょう。先にお話したビタミンDや食物繊維などを多く含む食材を使えるといいですね。

産後の食事に「こうでなければいけない」という決まりはありません。神経質になりすぎず、ときには好きなものも食べてリフレッシュしましょう。

私自身の経験として、産後におすすめしたいメニューは「けんちん汁」。

根菜類やきのこ類をたっぷり入れれば食物繊維やビタミンDもとれますし、大鍋で作って冷蔵保存すれば数日食べられます。

育児で慌ただしかったり、食事を作る気力がなかったりするときでも、おにぎりとけんちん汁で手軽に栄養チャージができますよ。

産後は体も回復途中ですし、慣れない育児で疲れが溜まりやすい時期。できるだけ食事を作る負担は少なく、自分が好きなメニューで栄養バランスが整うように工夫してみてくださいね。

取材・文/片桐はな

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かさい やすよ

笠井 靖代

日本赤十字社医療センター第二産婦人科部長・医学博士

日本赤十字社医療センター第二産婦人科部長。医学博士、産婦人科専門医、臨床遺伝専門医。日本周産期メンタルヘルス学会理事。専門は周産期学、出生前相談。自らの高齢出産や母乳育児の経験を踏まえ、多くの妊産婦の悩みや不安に応えている。NHK Eテレ『すくすく子育て』で、専門家として助言を行っている。 【主な著書】 『35歳からのはじめての妊娠・出産・育児』(家の光協会)

日本赤十字社医療センター第二産婦人科部長。医学博士、産婦人科専門医、臨床遺伝専門医。日本周産期メンタルヘルス学会理事。専門は周産期学、出生前相談。自らの高齢出産や母乳育児の経験を踏まえ、多くの妊産婦の悩みや不安に応えている。NHK Eテレ『すくすく子育て』で、専門家として助言を行っている。 【主な著書】 『35歳からのはじめての妊娠・出産・育児』(家の光協会)