『ふぶきのあした』全ページ無料公開! 380万部の国民的ベストセラー「あらしのよるに」20年ぶり新シリーズがスタート!

「あらしのよるに」シリーズより『ふぶきのあした』を全ページ無料公開!

児童図書編集チーム

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「ここに……かわいい はなが さいているぞ。」
「ほんとだ。ふまないように きを つけろよ。」
「ああ、わかってるさ。」
オオカミたちが しげみを でて いって、二ひきは ほう〜っと ためいきを ついた。

「はなが すきな オオカミも いるんですね。」
メイが こごえで いうと、
「あたりまえでやんす。」
ガブが すこし おこって こたえる。
「あの……さっきは ごめん。」
メイの ことばに ガブが ふりむいて、にっと わらった。
オオカミたちが さり、おだやかな ゆうやみが 二ひきを つつんで いった。

やっと、やまの ふもとに たどりついて みあげると、
ひがしの やまは おもって いたよりも たかく そびえたっていた。
てっぺんには くもが かかって いる。
あの くもの なかは ふぶきなのだろうか。

二ひきは ふあんな きもちで よるを むかえた。
ところが よなかに めを さますと、ガブの ようすが おかしい。
メイを まっすぐに みようとは せず、こんな ことを いいだした。
「じつは おいら、へんな ゆめを みちまって……。」
「へえ〜、どんな ゆめ?」
「それが、たまんねえ ゆめなんす。
こう、あぶらの のった ヤギの にくを おもいっきり たべてり ゆめで……。
ああ、そのうまいことと いったら……。」
「え……?」
「だから おもったでやんす。これいじょう、いっしょに いたら、
おいら なにを するか わからねえ……。」

ガブの めが ぎらぎらと ひかり、メイの からだを なめまわすように みて いる。
「ううっ、は、はやく どっかに いって くれ。おいらが がまん している あいだに……。」
ジュルッと、ガブは よだれを ぬぐう。

「わ、わかった。わたしだって、ごちそうに されるのは いやですから。」
メイは そう いうと、さっさと どうくつを とびだした。

ふりむきもせず はしっていく メイを みおくると、ガブは おおきく ためいきを ついた。
「あ〜あ、いっちまった。でもこれで よかったでやんす。
うしろは オオカミ、まえは ふぶき。
こんなの、おいらだけで たくさん。
あいつは じぶんの むれに……。」

「もどりませんよ〜だ。」
いきなり うしろで メイの こえが した。
「こんな ことだろうと おもって、でて いく ふりを しただけです。まったく!」
メイが おこって いる。
「わたしだって かくごを きめて いっしょに きてるんです!
なんでも はなせるのが ほんとうの ともだちじゃ なかったんですか。」
「だから、あの、おいらは、その……。」
「うるさい! わたしの きもちを しんじてないから、あんな へたな しばいを したんでしょ?」
「へえ、す、すいやせん。」

メイの すごい けんまくに、ガブに こえが なさけなく なる。
「でも、きもちは すごく うれしかったです。ありがとう、ガブ。」
「いや……おいらが わるかったす。
でも おいら、ごちそうに しかられるなんて、おもっても みなかったす。あっ、ごめん。」
「ハハハ、ほんと、わたしたち へんですよね。」
二ひきは たのしそうに わらいあった。

やまを のぼりはじめた 二ひきの こころは、もう、ひとつに なって いた。
「ここから うえは くさも あんまり はえてねえっすから、
いまのうち、たくさん たべて おかねえと……。」
ガブが そう いって、さっと どこかに すがたを けした。
「はああ、じぶんも えさを つかまえに いったんだな。」
メイは そう おもったが、もう、きに ならなく なって いた。

たしかに、のぼって いくと いわばかりで、くさは どんどん すくなくなった。
その かわり、ほかの どうぶつに であう しんぱいも ない。
どれくらい やまを のぼっただろうか。
いわだらけの みちの むこうに ちいさな とうげが みえる。

とうげの いわに こしを おろすと、めの まえに ゆうぐれどきの けしきが ひろがった。
「ずいぶん のぼりやしたね。
あ、あそこに みえる やま、サワサワやまじゃ ないっすか。」
「ほんとだ。バクバク だにも みえますよ。」
「ハハハ、ここから みると、あんなに ちっちゃいっすね。」
「あんな ところで まいにち たべたり たべられたり してたんですね。」
「おいかけたり おいかけられたり、ほんと、みんな たいへんっすよね。」
「あっ、やっぱり あなたって へんですよ。オオカミのくせに、
ヤギの わたしとこんな はなし……。」
「ま。あんたが きに いったからかな。」
「へえ〜、わたしの おいしそうな ところが?」
「こらっ、そんなこと いうと、 かじっちゃいますよ。
「かじったら、もう、おはなしも できなく なっちゃいますよ〜。」
「そいつは こまるっす。そりゃあ、たべたら おいしいけど……あっ、ごめん。
でも おいら、ずっと おはなしできた ほうが うれしいっす。」
「わたしも あなたの そういう とこが きに いってるんです。」
「ハハハ、おいらたち よく にてやすなあ。」
やまの ふもとに オオカミの むれが みえて いたが、二ひきとも くちには ださなかった。

やがて、ひは とっぷりと くれ、二ひきは いつの まにか ねむりに ついて いた。
ふと、めを さました ガブが おどろいたように さけんだ。
「メイ、おきて! ほら、そこに……。」
「あ〜っ、すごい まんげつだあ。」
「きれいでやんすねえ。こいつじゃ ポロポロがおかで みる つきより すげえっす。」
「あの ときは きりが ふかくて みえなかったけど……。
いま、みられて ほんとに よかった。」

「つきの ひかりって あったかいっすよね。」
「ええ、みてると やな ことなんて、みんな わすれちゃいます。」
「こんやは あんたと こんな きれいな つきが みられて、さいこうの よるでやんす。」
「これからも いっぱい みに いきましょうよ。」
「いいっすねえ。がんばって やまを こえるぞう。
ねえ、メイ、きっと ありやすよね、みどりの もり。」
「ええ、ありますとも。」
「そこに いけたら、たのしいだろうなあ。」
「ええ、ガブと いっしょなら。」
二ひきは まだ みた ことの ない ばしょを こころに えがいて、
しずかに ねむりに ついた。

二ひきが やまが のぼるに つれ、どんどん くもが ひくく なって きた。
ひらひらと しろい ものが まいはじめる。
この さきに ふぶきが まって いようとも、もう、ひきかえす わけには いかない。
オオカミたちも この やまを のぼって きて いるかも しれないのだ。
いつの まにか まわりの けしきが まっしろに かわって いる。
二ひきは いっぽいっぽ ゆきを ふみしめて のぼりつづけた。
「あしたは はれるでやんすよね。」
「ええ、きっと、いいてんきに なりますよ。」

そんな 二ひきの ことばとは はんたいに、つぎの ひは ふぶきだった。
ふきあれる かぜに、しろい ゆきが おどりくるって いる。
でも、二ひきは はげましあって すすんだ。
「あと すこしかも しれないね ガブ。」
「おう、みどりの もりまで がんばるっす。」
そう やって ひっしに のぼりつづける 二ひきに、
ゆきの あらしは さらに はげしく あれくるった。
ビュービューと、ゆきの つぶを 二ひきの からだに ぶつけて くる。
めも くちも あけられないくらいの すさまじさに、
二ひきは もう、たちすくむしか ない。
みぎも ひだりも うえも したも まっしろだ。

さむさが メイの からだを こおらせて きた。
「はあ……はあ……わたし……もう、だめだ……。」
とうとう、メイが くずれおちた。
ヤギは オオカミに くらべ、さむさに よわいのだ。
「メイ、こんな とこで しぬな〜!!」
ガブは けんめいに ゆきを ほり、その あなの なかに メイを ひきずりこんだ。
「メイ……メイ、いきて くれ。おねがいだ、おいらを ひとりに しないで くれっす。」
ガブは おおいかぶさるように して メイを あっためた。

ガブの いのりが つうじたのか、メイが やっと めを あけた・
「ああ、ありがとう……ガブ……。」
「おっ、よかったっす。おいら、しんぱいで、しんぱいで……。あっ。」
その とき、ガブが ちいさく さけんだ。
やまの ふもとで つくって きた べんとうが なくなって いるのに きづいたからだ。
こしに しっかりと まいて きたのに、このふぶきの なかで おとして しまったらしい。
「どうしたんです?」
「い、いや、べつに……なあに、あとは、この ふぶきさえ やめば いいんです。」

しかし、ふぶきは やまなかった。
なんにちも なんにちも、うなりごえを あげて ふきあれている。
いつしか、ガブの はたがぐう〜ぐう〜っと なりだした。
もう どれくらい、たべものを くちに して いないだろう。
ふぶきは いつまでも やみそうに ない。
この まま、二ひきとも ここで うえじにして しまうのだろうか。
この よわりきった からだでは、あすの あささえ、いきて むかえられるか どうかも
わからない。
メイを みつめて いた ガブが、はっと われに かえり、プルプルと くびを ふり、
あたまを ポコポコと たたいている。
それに きづ入れ、メイが ぽつりと いった、
「いま、わたしが ごちそうに みえたんでしょう。」
「え? いや、そ、そんな こと ありやせんよ。まさか ともだちをごちそうだなんて。ハハハ。

ずぽしだった。

でも、メイは やさしく わらって こういった。
「いいんですよ、ガブ。どうせ そとは この さむさだ。
きっと、わたしには もう、たえられない。だからガブ……わたしの ぶんまで いきて。」
「な、なに いってるんでやんすか。」
「わたし、ガブと であって しあわせだと おもってるんです。
いのちを かけても いいと おもえる ともだちに であえて。」
「そ、そんな ふうに おもって くれる ともだちが いるなんて。
おいらの ほうこそ しわあせでやんす。」
「だから ガブは たくさん えさを たべて、げんきに この やまを こえて……。」
「なに いってるんすか、えさなんて どこに……。」
「あるじゃ、ないですか、ここに。」
「…………」

「ねえ、ガブ。はじめて あった とき、わたしが ヤギだと しっていたら?」
「……くってやした。」
「それで いい……その ときの つもりに なれば……。
あれ? どうして なみだなんか。」
「べ、べつに おいら、もう、どっちが いきのころうと、いっしょに うえじにしようと、
そんなこと どうでも いいんでやんす。」
どっちに なっても、おいらたち、もう 二どと おしゃべりも できなくなってしまう。
その ことが つらいんす……ううう。」
「……ほんと、そう おもうと……わたしだって……。
だけど わたし、この ふぶきぼ なかで ずっと かんがえてたんです。
いのちだって いつかは おわりが くる。
でも わたしたちが であえて、ともだちだった ことが きえる わけじゃ ないって……。」
「そうっすよね。ながいか みじかいかの ちがいだけっすよね。
わかりやした。
そこまで いうのなら、やって みやす。
そうだ、はじめて ヤギと であったように、あっちから やって きて、がぶっと いくのは?」
「きまり。じゃ……げんきで……さよなら、ガブ。」
「ああ、さよなら、メイ。」

ガブが よろよろと ゆきの あなを でた。
ふぶきは すこし おさまってきて いる。
よるの やみの なかに、やまのてっぺんが ぼんやりと みえる。
「へっ、いまさら メイを くえる わけ ないっすよ。
あ〜あ。どっかに くさの いっぽんでも はえて ねえかなあ。」
そんな ことを いいながら、ガブは メイの ために、ある はずの ない くさを さがして あるいた。
うろうろと あるいて いる うち、ガブは しらずに やまの はんたいがわに でて いた。

ふと、したを みた ガブは、ぎょっと した。
こぶりに なった ふぶきの なかを、ちいさな ひかりが いちれるに なって のぼって くる。
やみに ひかる その ひかりは、まぎれも なく オオカミたちの めだったのだ。
「ちっ、あいつら、こんな ところまで……。」
オオカミのむれは ずんずんと せまって くる。
「いのちを かけてでも いい ともだちか。」
ガブは かすかに わらうと、おおきく いきを すいこんだ。

さけびごえを あげながら、さいごの ちからを ふりしぼって ガブが はしりだした。
せんとうのオオカミたちが きが ついて ガブに おそいかかる。
しかし、ガブの からだは しろい かたまりと なり、ころがって、ちいさな なだれを ひきおこした。
やがて それは……

もうもうと ゆきけむりを あげながら、おおきな やまの あらしと なって、
なにもかも すべてを あらいながしていった。

その おとに きが ついて、メイが あなから かおを 出した。
ふぶきが やんで いった。
きらきらと さしこんで きた あさひに、はじめて みる けしきが うつしだされた。
「ガブ〜っ、もりが みえるよ〜。
やっぱり みどりの もりは あったんだよう。
ガブ〜、はやく おいでよう〜。
わたしたち、もう、やまを こえてたんだ。ガブー、ガーブー!」

一ぴきの しろい ヤギは、いつまでも いつまでも さけび つづけて いた。

……『大型版 あらしのよるにシリーズ(7) まんげつのよるに』へと続きます!

『大型版 あらしのよるにシリーズ(7) まんげつのよるに』

予約受け付け中! 20年ぶりの新刊『新あらしのよるにシリーズ(1) あいことばはあらしのよるに』

「あらしのよるに」シリーズから、20年ぶりの新刊となる『新あらしのよるにシリーズ(1) あいことばはあらしのよるに』が発売されます!

新刊『新あらしのよるにシリーズ(1) あいことばはあらしのよるに』では、オオカミとヤギという種族の壁を超えて友情を育んだガブとメイの物語が「家族」へと発展する新たな展開を描きます。

現在、Amazon等主要ネット書店、全国の書店で予約受け付け中!
この春、「あらしのよるに」シリーズで、心温まる感動を体験してみませんか?

【書名】『新あらしのよるにシリーズ(1) あいことばはあらしのよるに』
【著者名】作:きむらゆういち 絵:あべ弘士
【発売日】2025年3月12日
【定価】1760円(税込)
【ISBN】978-4-06-538386-5
【内容】食うもの(オオカミ)、食われるもの(ヤギ)の壁を超えておだやかに暮らしているオオカミのガブとヤギのメイ。仲良しなのに、実はおたがい隠している秘密があるようで、疑りあってしまいます……。友情をつづけるのはむずかしい? そんなことはありません。自分を信じて、大切な人を信じるすばらしさを感じさせてくれる絵本です。新しい友だちを得て、より新しい関係をつくる2匹にぜひ出会ってください!

◆作者・きむらゆういちさんからのメッセージ◆
今の世界情勢を見ると、まさに今のほうがこの物語が必要になっていると思います。人種が違っていても、肌の色が違っていても、偉い人とそうでない人でも、金持ちでも貧乏でも、友情が生まれるかもしれません。その友情を信じていれば、あらゆる困難にも打ち勝ち、新天地に向かうことができる、と思っています。

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児童図書編集チーム

講談社 児童図書編集チームです。 子ども向けの絵本、童話から書籍まで、幅広い年齢層、多岐にわたる内容で、「おもしろくてタメになる」書籍を刊行中! Twitter :@Kodansha_jidou YA! EntertainmentのTwitter :@KODANSHA_YA_PR

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