山は夏もキケン「遭難を防ぐ5か条」生死を分ける行動を専門家監修により解説
長野県山岳遭難防止アドバイザー・羽根田修さん監修「山で遭難しないために」──『6days 遭難者たち』(安田夏菜:著)より
2024.07.18
夏のレジャーといえば「登山」や「ハイキング」が人気です。友人同士や家族で夏山キャンプを計画している読者も多いことでしょう。しかし山では、毎年のように遭難事故が起こっています。
「そんな高い山には登らないからだいじょうぶ」と思いがちですが、油断は禁物。なぜなら、ロープウェイなどの公共交通手段があり、登山道が整備されている「標高が低い山」でも遭難事故は起きるからです。
なぜ、低山遭難が起きるのでしょうか。遭難しないためには、どんな準備・行動が必要なのでしょうか。
目次
女子高校生3人組の遭難と生還を克明に書いた『6days 遭難者たち』(著:安田夏菜)から、長野県の山岳遭難防止アドバイザーを務める羽根田治さん監修の「遭難を防ぐための5か条」を紹介します。山へ出かける前に知っておきたい知識を5つの項目で解説。生死を分ける準備・行動を身につけましょう。
(以下、『6days 遭難者たち』(著:安田夏菜)「山で遭難しないために」より引用)
【1】自分の力量に合ったコース選び
山をなめてはいけません。登山は実はとても体に負荷がかかるスポーツ。サッカーやテニス、水泳やエアロビクスなどの運動強度に匹敵します。自分の体力を過信すると、なんとか登れたとしても下りで力尽きることも。疲労で足を踏み外ずし、登山道から転落すれば命にもかかわります。
【2】情報をできるだけ集め、頭の中でシミュレーション
これから登る山の全体図をしっかり把握し、頭の中で登山のシミュレーションをしておきましょう。急な登り坂や下り坂、危険な岩場、休憩できる場所やトイレ、山小屋の位置などがわかっていれば、ペース配分に役立ちます。
また情報収集にインターネットは欠かせませんが、個人が投稿した山行レポートや登山動画には要注意。山の魅力や楽しさばかりが強調された投稿が多く、険しい山も軽く登れるかのように錯覚することがあります。
【3】山にひそむリスクを知る
山の中は町とはちがいます。お店もトイレもなく、スマホの電波も圏外だったりします。ケガや急病のとき、町ならすぐに救急車が来てくれますが、山ではそうはいきません。山岳救助隊などが捜してくれますが、救助には時間がかかります。
そんな高い山には登らないからだいじょうぶ、と安心しないでください。低い山は作業道や獣道などが錯綜していて、かえって迷いやすい場合があります。登山届は必ず提出し、たとえ日帰りでもヘッドランプとエマージェンシーシートは、必ず持っていきましょう。
【4】悪天候のときは計画を中止、または変更する
ずっと前から計画し、楽しみにしていた登山。少々天気が悪くても、行けばそれなりに楽しいはず、と強行するのは禁物です。
冬の雪山はもちろんのこと、夏山でも悪天候による遭難が後を絶ちません。落雷、大雨による川の増水。突風に吹き飛ばされて斜面を滑落したり、濃霧で道を見失ったり。
標高が高くなると気温が低くなり、夏でも低体温症になることがあります。登山の数日前から天気予報に注意し、天候によっては計画を中止・変更する勇気が必要です。
【5】地図で現在地を確認しながら行動する
スマホに地図アプリを入れたから、もう安心と思ってはいませんか?
地図のダウンロードを忘れていては便利なアプリも役立ちません。また、スマホのバッテリー切れの心配もあります。予備のバッテリーは必ず持っていきましょう。
地図アプリはたしかに便利ですが、画面が小さいため、山域全体を確認するには不向きです。紙の地図も併用し、分岐点などをこまめに確認して、自分の現在地を見失わないように。もし「あれ?」と思ったら、確認が取れていた場所まで引き返すのが基本です。
「ここまで歩いた労力が無駄になる」
「下りていけば、なんとかなるんじゃないの?」
という思考に陥りがちですが、それが遭難の入り口です。戻る道がどんなに登り坂でも、必ず引き返してください。
『6days 遭難者たち』
ドラマ化もされた『むこう岸』、第68回青少年読書感想文全国コンクール課題図書『セカイを科学せよ!』の安田夏菜、書き下ろし最新作!
亡くなった山好きの祖父との後悔を胸に抱く美玖。大好きな母の乳がん再発におびえる亜里沙。再婚し、幸せな家族の中で孤独を感じる由真。
三人の女子高生はおのおのの理由から、ともに山に登り始める。日帰りできる「ゆる登山」のつもりだった三人だが、下山の計画を変更したことで、道を見失う──。
途絶える電波、底をつく食糧、野宿、低体温症、幻覚……絶望。日常生活では感じえない生と死の狭間で、それぞれの悩みも輪郭を変えていく。絶望にあらがう中で、三人がつかんだものとは。
羽根田 治
1961年、さいたま市出身、那須塩原市在住。フリーライター。山岳遭難や登山技術に関する記事を山岳雑誌や書籍などで発表する一方、沖縄、自然、人物などをテーマに執筆活動を続ける。主な著書にドキュメント遭難シリーズ、『ロープワーク・ハンドブック』『野外毒本』『パイヌカジ』『トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか』(共著)『生死を分ける、山の遭難回避術』『人を襲うクマ』『十大事故から読み解く山岳遭難の傷痕』などがある。近著は『山はおそろしい』(幻冬舎新書)、『山のリスクとどう向き合うか』(平凡社新書)『これで死ぬ』(山と溪谷社)など。2013年より長野県山岳遭難防止アドバイザーを務め、講演活動も行なう。日本山岳会会員。
1961年、さいたま市出身、那須塩原市在住。フリーライター。山岳遭難や登山技術に関する記事を山岳雑誌や書籍などで発表する一方、沖縄、自然、人物などをテーマに執筆活動を続ける。主な著書にドキュメント遭難シリーズ、『ロープワーク・ハンドブック』『野外毒本』『パイヌカジ』『トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか』(共著)『生死を分ける、山の遭難回避術』『人を襲うクマ』『十大事故から読み解く山岳遭難の傷痕』などがある。近著は『山はおそろしい』(幻冬舎新書)、『山のリスクとどう向き合うか』(平凡社新書)『これで死ぬ』(山と溪谷社)など。2013年より長野県山岳遭難防止アドバイザーを務め、講演活動も行なう。日本山岳会会員。
安田 夏菜
兵庫県西宮市生まれ。大阪教育大学卒業。『あしたも、さんかく』で第54回講談社児童文学新人賞に佳作入選(出版にあたり『あしたも、さんかく 毎日が落語日和』と改題)。第5回上方落語台本募集で入賞した創作落語が、天満天神繁昌亭にて口演される。『むこう岸』で第59回日本児童文学者協会賞、貧困ジャーナリズム大賞2019特別賞を受賞。国際推薦児童図書目録「ホワイト・レイブンズ」選定。ほかの著書に、『ケロニャンヌ』『レイさんといた夏』『おしごとのおはなし お笑い芸人 なんでやねーん!』(以上、講談社)、『あの日とおなじ空』(文研出版)などがある。日本児童文学者協会会員。
兵庫県西宮市生まれ。大阪教育大学卒業。『あしたも、さんかく』で第54回講談社児童文学新人賞に佳作入選(出版にあたり『あしたも、さんかく 毎日が落語日和』と改題)。第5回上方落語台本募集で入賞した創作落語が、天満天神繁昌亭にて口演される。『むこう岸』で第59回日本児童文学者協会賞、貧困ジャーナリズム大賞2019特別賞を受賞。国際推薦児童図書目録「ホワイト・レイブンズ」選定。ほかの著書に、『ケロニャンヌ』『レイさんといた夏』『おしごとのおはなし お笑い芸人 なんでやねーん!』(以上、講談社)、『あの日とおなじ空』(文研出版)などがある。日本児童文学者協会会員。