「ソラタとヒナタ」絵本化の裏側〈後編〉紙版画だからこその絶妙な「質感と色味」で描く、優しくて、美しい世界観

絵本『ソラタとヒナタ はじめてのたんじょうび』 (3/4) 1ページ目に戻る

イラストレーター・版画家:くま あやこ

なぜ紙版画で制作するの?

版画は1本の線を描くのにいくつかの工程を経て、できあがります。時間はかかりますが、私がいつも制作している銅版画や紙版画は刷り上がったときの線のきれいさや、いくつかのインクの色が混ざり合った線や粒子のようなタッチに、版画ならではの魅力があふれています。

紙版画は銅版画のように腐食がいらないのでより短期間で手軽に版を作ることができて、インクの色が変色することなくそのままの色で刷り上がるのがいいところです。

*銅版画
銅板を版にして、インクをのせた版を紙に写す版画の方法。銅を腐食させて版を彫る。

実際に使ったニードルと紙版画。写真提供:くまあやこ

今回の制作で一番悩んだのが、ソラタやヒナタ、動物たちの表情やお祭りの屋台の場面など、細かい部分はペンなどで直接描いたほうが描きやすいので、その部分はペンで描いて、紙版画の部分と混ぜてみるのはどうかなど試行錯誤しました。

やはり、線と絵のように拭き取るインクの揺らぎみたいなものの一体感を出したくて、最終的にカバーと本文のすべてを紙版画で制作することにしました。

刷り終えたあとの版。すでに拭き取ってなくなってしまいましたが、インクがうっすら残った版もきれいだったりします。写真提供:くまあやこ

紙版画の制作を終えてみて

版画の制作は刷ってみないとわからないこともあって、今回も失敗もありましたが、失敗のあと、どう成功へ変えていくか、次回はどうしたらいいかを考えるのも楽しいです。思いどおりにならないこともあるけれど、想像以上にいい刷りができたときは言葉にならないくらい嬉しいです。

今回、物語の連続した版を刷るので、はじめて版画用の色見本を作ってみました。紙版画はインク詰めと拭き取りの作業が時間との勝負なので、のんびり迷っているとインクが乾いてしまうので、色見本が指揮者のように行く先へと導いてくれました。

絵本1冊の絵を短い期間で紙版画で制作するのが初めてだったのと、途中4分の1まで制作したところで刷る紙を変えて最初からやり直したりと、かなり綱渡り状態だったので、無我夢中でしたが無事に刷り終えることができたとき、本当にほっとしました。

最初に刷っていた紙の版画。丈夫な紙なので線が出やすく安心感はあるのですが、変更した紙のほうが細かいタッチがきれいに刷れました。写真提供:くまあやこ

最後の仕上げ

刷ったあと、自然乾燥させた紙版画に、版画の良さを残しつつ、アクリルや水彩絵の具などで部分的に色をのせたら、原画の完成です!

刷った版画を乾燥させて、アクリルや水彩絵の具で色をのせたもの。写真提供:くまあやこ

上写真の版画が、本になったもの。

一番最後に制作した見返しだけは、本文との違いや軽さを出したかったので、ペン画で描きました。

*見返し(みかえし)
本の表紙・裏表紙をめくった裏側の部分。

ペンを使って手書きで見返しに使うイラストを描いていく。写真提供:くまあやこ

実際に完成した見返し。写真提供:くまあやこ

完成したすべての原画を編集者のFさんとデザイナーの脇田さんにお渡ししたときには、本当に心からほっとしました。

原画を絵本にしていく
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