コロナ禍で子どもの認知能力が低下? 脳科学的な家庭環境づくりとは?

脳科学者・細田千尋先生に聞く「子どもの脳」が伸びる家庭環境の整え方 #3 子どもの脳を伸ばすウィズコロナの親子の過ごし方

医学博士・認知科学者・脳科学者:細田 千尋

東北大学加齢医学研究所及び、東北大学大学院情報科学研究科准教授の細田千尋先生。医学博士、認知科学者の顔もお持ちです。撮影:森﨑一寿美

「ウィズコロナの状況で子育てするにあたって、どんなことに注意すべきかと問われたら、一番に挙げられるのは『分断』です」と話すのは、脳科学者であり、東北大学加齢医学研究所及び、東北大大学院院情報科学研究科准教授の細田千尋先生。

脳科学的に考える子育てに適した環境作りについて。最終回となる第3回は、ウィズコロナ時代を親子で生き抜くための親子の過ごし方です。新型コロナウイルスと共に生活することが、もはや当たり前である子どもたちの未来について、細田先生にお話しいただきました。

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※前回の細田先生の「脳科学的にみるならいごと」記事はこちら。

コロナ禍に生まれた子どもは認知能力の発達が遅れている!?

2021年8月、「コロナ禍で子どもの認知能力の発達が低下している」という内容の記事が、イギリスの大手新聞『ガーディアン』に掲載されました。

この記事は、アメリカのブラウン大学が、ロードアイランド州の幼児を対象に行った研究論文を引用しているのですが、パンデミック前に生まれた子どもたちに比べて、パンデミック後の子どもたちのIQの平均値が下がっている、という内容でした。

ただ、実際の論文を読んでみると、必ずしもIQが下がったということは書いていないし、そもそもブラウン大学の研究ではIQの測定は行っていません。

その代わり、子どもたちに、認知の発達度合いを測るテストをして、発達基準に対する点数を付けてみたところ、コロナ禍で生まれた子どもたちのほうが、発達の度合いにばらつきが出たことが分かりました。

つまり、コロナ後の子どもたちの中には、コロナ前と同じように発達している子がいる一方で、発達の遅れが見られる子が増えている可能性を示しています。

コロナ禍で経済状況や教育環境の差が子どもの発達に表れる

現段階で考えられる原因ですが、経済的な要因ではないかと思います。コロナによる影響は、低所得者層のほうがより強く表れる、というのがグローバルな見解になっています。生活が回らなくなったり、さまざまな問題が家庭内で生じ、その影響が子どもたちにも出ていると考えられます。

それは、コロナによって経済的な打撃を受けた家庭の子どもが、教育的・文化的なものに触れる機会を失ったりして、発達に影響を受けているのではないか、ということです。

例えば、タブレットなどのデジタルツールが与えられているかどうか、それらのアクセス環境が整っているか、といった問題などもあるでしょう。日本でも、オンラインで授業を行う学校が増えたとはいえ、すべての公立学校で全員がオンライン授業に対応できているとは限りません。

私は今、東京都や宮城県のとある教育委員会と一緒にタブレット学習についてのデータ解析をしています。デジタルツールは最近出てきたものですし、データも集まってきたばかりで、今は科学的に妥当か妥当じゃないかの判断をしている段階なのですが、ただ、公立小学校や中学校では、いまだに紙ベースで授業もテストも行うわけで、現場を見ていると先生たちのほうもデジタル教材をそこまで使いこなせていないという印象が強いです。

一方、有効に使いこなせている学校や家庭もあるでしょうし、モチベーションをアップさせるツールとして、子どもたちがやりたくないと思うようなことでもタブレットを使えばできる、といったメリットはあるでしょう。家庭環境の差はもちろん、教育現場ひとつとってもこのような差が生じていますから、それが子どもたちの発達の差として表れてもおかしくはない状況です。

人と会わない自粛生活やマスクが与える脳への影響

私たちの研究で、大学生を調査したデータから、自粛生活が続いたときに、ある特定の脳の機能が落ちて、気分が落ちてしまった学生を確認しました。脳の中でも、うつ病の患者さんが機能低下してしまう部位が、本当に落ちていたのです。

元々その機能が低い人のほうがより影響を受けやすい、といったことも私たちの研究データで示されつつあります。特に2020年の春、大学1年生になったばかりの18~19歳の子たちは、入学してすぐに誰ともコミュニケーションが取れない状態になってしまい、一時問題になりましたよね。人と会う機会がない、ということがそれだけ脳に影響を与えるものなのだ、と改めて実感しました。

マスク生活で、人の表情や感情を読み取ったりする能力の発達にも影響する可能性が否定できないといいます。撮影:森﨑一寿美

また、今の子どもたちは常にマスクをしていて表情が読み取りにくい状態で生活しています。保育者や幼稚園の先生も、ずっとマスクをして接していますから、子どもたちが人の表情から感情を読み取ったりする能力が発達しにくくなっている可能性はあると思います。口元が見えない分、違うところからさまざまな情報を得るよう、子どもたちの脳は適応していくのかもしれません。

ただ今後、マスクを外して生活する世界に戻ったときに、今まで積み重ねたものとのギャップが出てきますよね。小さいお子さんだと、強い違和感があることでしょう。今のところ、データとしては出ていませんが、この生活がずっと続くのであれば、何か子どもたちに問題が生じてくる可能性はあると思います。

コロナによって生まれる「分断」の中で多様性をどう取り入れるか

ウィズコロナの状況で子育てするにあたって、どんなことに注意すべきかと問われたら、一番に挙げられるのは「分断」です。

これは、「コミュニケーションを取る集団が限られてしまう」ということで、SNSなどもそうですが、個人にとって心地よいものばかりを追求した先に、似たような人たちだけが集まってしまい、他の集団との分断が起きるのです。

コロナで、コミュニケーションが限定的になると、特定の繫がりたい人とだけコミュニケーションを取り、その中だけで完結してしまうので、多様性が失われて、さまざまな情報や価値観が分断されるようになってきます。そこが一番の懸念ですね。限られた中でどうやって多様なものに関わっていくかが、子育てにおいても重要になってくるからです。

たくさんの人との関わりがあることを、社会関係資本が豊富である、といういいかたをすることがありますが、私たちの研究では、親子共に、この社会関係資本が充実していることが、親子それぞれの心のゆとりや幸せにつながり得ることを考えています。

例えば、子供の環境としての縦割り教育を例に考えてみましょう。

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