134万世帯「ひとり親家庭」の「孤独や情報格差」をアプリで解消したい 開発者が感じた「情報格差」

ひとり親限定トークアプリ「ペアチル」#1~ひとり親が抱える問題~

一般社団法人ペアチル代表理事:南 翔伍

「ひとり親同士、気軽に話せる場が必要」と話す南翔伍さん。「ペアチル」はすべての機能を課金なしで利用できる。  イメージ写真:アフロ
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厚生労働省の令和3年度調査によると、全国に約134.4万世帯(母子世帯数119.5万世帯、父子世帯数14.9万世帯)いる「ひとり親家庭」。

仕事に育児、家事のすべてをひとりでこなすことで余裕が持てなかったり、周りに同じ境遇の人がいないなどから「相談できない」と、ひとり親は悩みを抱えがちな傾向にあるといいます。

そんなひとり親の“孤独”解消を目指して、2023年6月にリリースされたのが、ひとり親限定のトークアプリ「ペアチル」です。生みの親は、一般社団法人ペアチル代表理事の南翔伍(みなみ・しょうご)さん。

ご自身も母子家庭で貧困を経験し育ったという南さんに、今、ペアチルを作ったワケを伺いました。

※1回目/全3回

●南 翔伍(みなみ・しょうご)PROFILE
一般社団法人ペアチル代表理事。山梨大学教育人間科学部生活社会教育コース卒業。小・中学、高校、特別支援学校の教員免許を取得。IT企業、発達障害者の就労支援、養育費未払い問題の解決に取り組む事業に携わったのち、2022年に一般社団法人ペアチル設立。自身の経験とテクノロジーを掛け合わせて、ひとり親が抱える問題の解決に挑む。

一般社団法人ペアチル代表理事の南翔伍さん。  Zoom取材にて

ひとり親が抱えがちな“望まない孤独”

「ペアチル」とは、ひとり親(または過去にひとり親だった方)同士で、雑談や相談を気軽にできる、ひとり親限定のトークアプリです。最大の特徴は、“似た境遇の”ひとり親に出会えること。

親子の年齢や子どもの人数、住まいなどの基本情報と、「#子育ての相談ができる人がいない」「#子どもがADHD」などと利用者が自由に設定できる“境遇タグ”をもとに、相談したい人や共通点の多い人を素早く探すことができます。

「ひとり親とひとくくりにしても、離婚や未婚、死別、子どもの人数や性別、年齢など、その境遇はさまざまです。境遇が違えば困りごとも異なり、理解しあえないことも多い。『同じ悩みを抱える人と話したい!』という、ひとり親の声をこれまで多く聞いてきました」(南さん)

「ペアチル」では、LINEのように個人間でテキストと画像のやり取りが可能。  写真提供:一般社団法人ペアチル

東京都福祉保健局が2019年(平成31年)に実施した調査によると、シングルマザーの約3人に1人、シングルファーザーの2人に1人は、ひとり親の仲間や友人がいないことがわかっています。

その理由は、母親は、「機会がない」がもっとも多く34.3%、「出会い方がわからない」28.3%、「交流する時間がない」24%です。また、7.7%の方は、「ひとり親であることを知られたくない」とも回答しています。父親でもっとも多いのは「交流する時間がない」の37.5%で、「必要ない」も12.5%います。

「僕の母もそうでしたが、ひとり親というだけで、他人からナメられたように感じることもある。そうなると『誰かに頼ってたまるか』という感情になり、他者に助けを求めなくなってしまうケースもあります」(南さん)

不安や悩みを相談できず、共感のない状態での子育ては孤独です。さらには、困りごとを解決するために必要な情報の収集も難しい。インターネットが普及しているのだから利用すれば……と思う人もいるかもしれませんが、「その時間も気力もない」と南さんは話します。

「仕事も家事育児も完全ワンオペとなると、その大変さはとてつもないもの。自分の時間はほとんどないと言っていい。保育園などではママ友・パパ友と立ち話すらできず、情報交換ができない場合も多いです。

こうした状況が続くと、だんだんと『自分だけで解決しなければ』という考えに陥ってしまいます。ひとりで追い込まれた末にネグレクトになるケースもあります」(南さん)

こうした孤独感が、ひとり親のさまざまな問題に起因していると南さんは考えています。

支援を知ることができない「情報格差」

南さんは、ひとり親の問題の一つに「情報の格差」をあげます。

たとえばひとり親に関する公的な手当や支援制度はさまざまありますが、その一方で制度について知る機会はさほど多くなく、役場の窓口で申請した人だけが利用できる「申請主義」というのが現状です。

そもそもどの制度を利用できるのかを知らなければ、平日の役場の開庁時間に出向いて相談することも難しく、身近に聞ける人もいない──。「誰かに相談したい」気持ちを抱えたまま、どうすればいいのかわからないという方も多いのではないでしょうか。

「たとえば、経済的に厳しいひとり親家庭の場合、子どもに望む進学の段階は低くなる傾向にあります。子どもも親の考えを察し、『自分は大学へ行ってはいけない』と思い込んでしまう。

でも実際は、無利子の貸与型奨学金など使える制度はいっぱいあるのだから、経済的な理由で進学をあきらめる必要なんて全くないんです。でも、親が知らなければ利用できない。

僕の母は元レディースの総長だっただけあってか、アグレッシブだったので(笑)、『私が使えるひとり親の制度を全部教えて!』と自ら役所の窓口へ出向いていましたが、それでも情報を収集するのに苦労していました」(南さん)

自治体や民間団体などの支援があっても、貧困や就労、子どもの進学など、さまざまに困っているひとり親がいまだ多いのはなぜなのか。この疑問が、ペアチル構想の原点であると話す南さん。

調べていくうちに、「自治体の窓口に相談できているひとり親は全体の2%。民間団体に関しては0.1%」ということが分かり、この実情を知ったときは「どないなっとんねん!」と社会への強い憤りを覚えたといいます。

「世の中のひとり親支援自体については、就労・居住・食料系のハード面は整ってきていると感じます。ですが、ほとんどのひとり親がアクセスできていないんです。それは人や情報から孤立してしまっているから。さらに、アクションを起こす気力すらないというメンタル面の問題もあると思います。

もし、良い就労支援にたどり着けたとして、『スキルアップのために頑張りましょう!』と言われても、気力がなければ継続できません」(南さん)

ひとり親同士、情報交換や相談はもちろん、ちょっとしたことを気兼ねなく話せる場があれば、人や情報不足からの孤立がふせげて、心のゆとりにもつながるのではないか──。こう考えた南さんは、似た境遇のひとり親同士を繫ぐ場として「ペアチル」を開発します。

ペアチルを開発した理由にはもう一つ、南さん自身の生い立ちと母親の存在が大きく影響しています。

次回は、父からの暴力、両親の離婚、貧困母子家庭、非行、国立大卒業、起業……と、ペアチル開発までの南さんの半生を伺います。

取材・文/稲葉美映子

※ペアチルの記事は全3回(公開日までリンク無効)
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【参考】
ひとり親家庭の相談状況等に関する調査報告書【暫定版】/平成31年3月 東京都福祉保健局少子社会対策部育成支援課

令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果/厚生労働省

●関連サイト
一般社団法人ペアチル
・X(旧Twitter) @parchil_org
LINE ペアチル
・Instagram ペアチル【公式】ひとり親限定トークアプリ
・note ペアチル_ひとり親限定のトークアプリ運営
・Facebook 一般社団法人ペアチル

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みなみ しょうご

南 翔伍

Syogo Minami
一般社団法人ペアチル代表理事

一般社団法人ペアチル代表理事。山梨大学教育人間科学部生活社会教育コース卒業。小・中学、高校、特別支援学校の教員免許を取得。大学在学中から子どもの貧困や障害に関するNPO法人などで精力的に活動。大学3年時には任意団体「心友」を立ち上げ、「人には話しづらい深刻な悩みを抱えた」中高生向けにお寺で語り合う活動を実施。卒業後はIT企業でデジタルマーケティングのアナリストに従事。 発達障害のある大人への就労支援や養育費未払い問題の解決に取り組む事業に携わったのち、2022年に一般社団法人ペアチル設立。貧困・虐待・非行・ひとり親……と自身の経験とテクノロジーを掛け合わせて、ひとり親が抱える問題の解決に挑む。 ・南 翔伍Facebook ・X(旧Twitter) @minami_shiroInc ・note 南翔伍/ひとり親限定のトークアプリ「ペアチル」開発 ・一般社団法人ペアチル公式HP ・Facebook 一般社団法人ペアチル

一般社団法人ペアチル代表理事。山梨大学教育人間科学部生活社会教育コース卒業。小・中学、高校、特別支援学校の教員免許を取得。大学在学中から子どもの貧困や障害に関するNPO法人などで精力的に活動。大学3年時には任意団体「心友」を立ち上げ、「人には話しづらい深刻な悩みを抱えた」中高生向けにお寺で語り合う活動を実施。卒業後はIT企業でデジタルマーケティングのアナリストに従事。 発達障害のある大人への就労支援や養育費未払い問題の解決に取り組む事業に携わったのち、2022年に一般社団法人ペアチル設立。貧困・虐待・非行・ひとり親……と自身の経験とテクノロジーを掛け合わせて、ひとり親が抱える問題の解決に挑む。 ・南 翔伍Facebook ・X(旧Twitter) @minami_shiroInc ・note 南翔伍/ひとり親限定のトークアプリ「ペアチル」開発 ・一般社団法人ペアチル公式HP ・Facebook 一般社団法人ペアチル

いなば みおこ

稲葉 美映子

ライター

フリーランスの編集者・ライターとして旅、働き方、ライフスタイル、育児ものを中心に、書籍、雑誌、WEBで活動中。保育園児の5歳・1歳の息子あり。趣味は、どこでも一人旅。ポルトガルとインドが好き。息子たちとバックパックを背負って旅することが今の夢。

フリーランスの編集者・ライターとして旅、働き方、ライフスタイル、育児ものを中心に、書籍、雑誌、WEBで活動中。保育園児の5歳・1歳の息子あり。趣味は、どこでも一人旅。ポルトガルとインドが好き。息子たちとバックパックを背負って旅することが今の夢。