日本でも体験 北欧式自然教育「森のムッレ教室」で自己肯定感が高まる

北欧の幼児自然教育から学ぼう#3「日本の“森のムッレ教室”」

「キノコ」で知る自然の循環

では、日本の保育園や幼稚園では、実際にどのようなムッレ教室のプログラムを実践しているのでしょうか。新潟県のとある保育園では秋に「キノコ」を使った活動を実施しています。

「まずは近くの山に出かけ、どんぐりや葉っぱを見つけたり、拾ったりして秋の自然を感じます。その後、切り株や地面に生えているキノコの観察を始めます。

毒キノコは触らない、間違って触った場合はしっかり手を洗うなどの注意点を伝えた後、子どもたちはそれぞれキノコを探しにいきます。

大きなキノコや小さなキノコ、色鮮やかなキノコやおもしろい形のキノコを見つけると、『わっ! 』と歓声が上がることも。

自分の手で感触を確かめたり、ルーペを使ってじっくり観察したりしながら、子どもたちは自ら多くのことを発見します」(高見さん)

兵庫県のムッレ教室でキノコを観察している様子。キノコひとつから学べることがたくさんあります。写真提供:森のムッレ篠山・小島啓介リーダー

「暗くてしめった場所にキノコがたくさん生えていること、切り株の側面をキノコが覆っている様子、ナメクジがキノコを食べている姿。リーダーである保育士がフォローすることで、さらに細かいところまで目を凝らします。

そして、キノコがびっしり生えている木を触り、ボロボロに腐っていることを確かめながら、『キノコは木を分解して土に返し、小さな虫や動物の食べ物にもなる』という自然の循環を知るのです。

『キノコってすごいんだね〜』『森をきれいにしてくれるんだね』と、大いに関心する子どもたち。それまで存在にさえ気づいていなかったキノコを見る目が、ガラリと変わります」(高見さん)

子どもの笑顔と「自己肯定感」を育む

ムッレ教室を記録した「ムッレだより」を発行している園もあります。
資料提供:認定こども園いちじまこども園

「ムッレ教室を行う前と後では、子どもたちの『視界に入るもの』は全く異なります。

プログラムに出かける前も、園庭の同じ場所に同じ植物があったのに、帰ってきてからは『素敵なお花が咲いている』と愛おしそうに眺め、昆虫がたくさん集まっていることにも気がつきます。

子どもたちの笑顔が増え、あっという間に自然への関心・好奇心が高まった、という報告をたくさん受けています。
 
自然に囲まれた環境で育っても、真の意味で『自然に触れる経験』をしないと、自然を大切に思う感覚や、『サスティナビリティへの意識』は深まりません。

環境は私たちの生活を支える『基盤』。それを理解するためには、自然のなかで思いきり遊び、自分の目で見て、手でさわって感じる『体験』が不可欠なのです。

さらに、保育園という『生活の場所』でムッレ教室を実践することで、子どもの『自信』が育つことも報告されています。

普段はうまく自分を表現できなかった子どもが、自然のなかで思いきり遊び、自分のペースでいろいろなことに挑戦するようになったといいます。そして、友達からも『すごい』と認められ、自信をつけることができました。

こうした事例から、ムッレ教室には、子どもの自己肯定感を高める側面もあることがわかっています」(高見さん)

自然は、どんな個性の子どもでも受け入れてくれます。そして、自分の興味関心に応じた関わり方をすることができます。

それぞれの子どもがそれぞれの“成功”を体験し、自信をつけるからこそ、新しい挑戦に繋がります。そして、夢中になって遊ぶ楽しい時間こそが、子どもの成長の原動力になるのです。

第4回は、コロナ禍で取り入れたい、親子でできる自然のなかでの遊びについてお聞きします。

取材・文/川崎ちづる

「森のムッレ教室」を取り入れている保育園・幼稚園は、「日本野外生活推進協会」H Pに掲載されています。

17 件
たかみ さちこ

高見 幸子

「日本野外生活推進協会」(森のムッレ協会)事務局長

1974年よりスウェーデン在住。野外生活推進協会の活動である「森のムッレ教室」(5〜6歳児対象の自然教育)にてリーダーとして活動後、日本にも紹介し、普及活動を展開している。 環境視察のコーデイネートや執筆活動等を通じて、スウェーデンの環境保護、幼児教育などを日本に紹介。現在、スウェーデン「ヨスタ・フロム森のムッレ財団」副理事長、「日本野外生活推進協会」(森のムッレ協会)事務局長。 【主な訳著書】 『スウェーデンにおける野外保育のすべて』(訳書/新評論)、『幼児のための環境教育』(共著/新評論)、『エコゴコロ』(共著/共同通信社)、「日本再生のルール・ブック」(海象社)など

1974年よりスウェーデン在住。野外生活推進協会の活動である「森のムッレ教室」(5〜6歳児対象の自然教育)にてリーダーとして活動後、日本にも紹介し、普及活動を展開している。 環境視察のコーデイネートや執筆活動等を通じて、スウェーデンの環境保護、幼児教育などを日本に紹介。現在、スウェーデン「ヨスタ・フロム森のムッレ財団」副理事長、「日本野外生活推進協会」(森のムッレ協会)事務局長。 【主な訳著書】 『スウェーデンにおける野外保育のすべて』(訳書/新評論)、『幼児のための環境教育』(共著/新評論)、『エコゴコロ』(共著/共同通信社)、「日本再生のルール・ブック」(海象社)など