独自の自然教育「森のムッレ教室」が支える環境先進国スウェーデン

北欧の幼児自然教育から学ぼう#2「スウェーデンの森のムッレ教室」

自然の中で生き物たちを探すスウェーデンの子どもたち。
写真提供:高見幸子
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スウェーデンは「環境先進国」であり、SDGs達成率は第2位(※1)。

この成果の一端を担っているのが、「自然のなかでの遊びを通じた学び」を掲げるスウェーデンの“幼児自然教育”です。そして、そのスウェーデンの幼児自然教育に大きな影響を与えているプログラムが、「森のムッレ教室」です。

連載第2回では、スウェーデン在住で、北欧の幼児自然教育の専門家である高見幸子さんに、スウェーデンで創始され、今では世界中に広がっている「森のムッレ教室」をご紹介いただきます。

スウェーデン人の4人に1人が体験したことがあるという、国民的教育プログラムはいったいどのようなものなのでしょうか。(全4回の2回目/#1#3#4を読む)


※1『Sustainable Development Report 2021(持続可能な開発報告書2021)』SDSN(持続可能な開発ソリューション・ネットワーク)、独ベルテルスマン財団

就学前学校で実践される「森のムッレ教室」

「森のムッレ」は、スウェーデン野外生活推進協会の事務局長で、ムッレ教室の創設者であるヨスタ・フロムが生み出した妖精です。
イラスト提供:日本野外生活推進協会

「森のムッレ教室」(以下、「ムッレ教室」)は、5〜6歳児を対象とした自然教育プログラムです。

自然のなかで楽しく過ごす「体験」を通して、生態系や自然の循環になどについて理解し、人間も自然の一部であるという「自然感覚」を育んでいます。

一番の特徴は、何といっても妖精“ムッレ”が登場すること。ムッレの名前の由来は、スウェーデン語で「土壌」を意味する「ムッレン」です。

森に住むムッレが、お話のなかや人形など様々な形で現れて、子どもたちに「自然を大切にしよう」というメッセージを伝えます。

ムッレは人形として登場することもあります。
写真提供:高見幸子

1957年に始まった当初は、主婦のボランティア中心の活動でした。その後、女性の社会進出が進み、1980年代に就学前学校(幼稚園・保育園に相当)に取り入れられ、スウェーデン全土に広がっていきます。

プログラム単体だけでなく、ムッレ教室の理念を保育活動全体で実践する「野外就学前学校」も登場し、さらに拡大していきました。高見さんは語ります。

「ムッレ教室を実践している就学前学校は500校程あります(2021年現在)。最初は『環境教育』の側面が強かったムッレ教室ですが、スウェーデンの幼児教育の変化とともに、子どもたちの自主性・主体性についても重視するなど、現在の形に発展してきました。

ムッレ教室は、スウェーデンの、幼児の自然環境教育のパイオニアであり、模範事例として一般の就学前学校にインスピレーションを与えている存在となっています。

プログラムでは、みんなで大人が準備した活動をするだけでなく、自分自身が遊ぶ内容を決めて過ごす時間があります。

また、プログラムの終わりには『リフレクション』という時間があり、子どもたちが感想を言い合うとともに、『次はもっと〇〇をしたい』など、自分の意見を伝える機会も用意されています。

ムッレ教室は、大人と子どもが一緒に作っていくプログラムなのです」(高見さん)

子どもは小さな科学者!「観察」で深まる理解

ムッレ教室は、春と秋にそれぞれ6回〜8回程度、多くの場合週に1回のペースで行われます。天気のいい日だけでなく、雨の日、時には雪の降る日も森へ出かけ、毎回2〜3時間を自然のなかで過ごすのだと、高見さんは言います。

「森のなかでは、体を使ったゲームをして遊んだり、歌をうたったりする他に、『自然を観察する』時間を設けています。

毎回テーマが決まっていて、ミミズなど土のなかの生物を取り上げる日もあれば、水中の動植物を網で捕まえ観察する日、キノコやコケを観察する日もあります。

ルーペを使うと、普段何気なく見ているときとは違う、“新しい発見”に出合います。子どもの好奇心は科学者にも勝ると言われるほど、熱心に観察して大人を驚かせてくれるんです。

また、一人一人が自由に観察する時間と、みんなで集まって保育士から話を聞く時間の両方があり、子どもたちは自分の『体験』を保育士の話と融合して、好奇心や理解をさらに深めていきます」(高見さん)

さらに、高見さんは続けます。

「プログラムのなかには、『光合成』や『食物連鎖』など、日本では小学校高学年〜中学生で学習する内容も含まれています。

しかし、実際に自然のなかで観察しながら、子どもの発達段階に応じたわかりやすい言葉や道具を使って説明することで、幼児でもしっかり理解することができます。

身近な自然のなかで五感を使いながら学ぶからこそ、上辺だけでない『本当の意味』を理解し、自分の知識とすることができるのです」(高見さん)

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