苦手と感じた「ならいごと」は伸びない そのワケと「やめどき」

どんなならいごとを選ぶべき? 見極め方と継続のコツ 〔細田千尋先生インタビュー 第3回〕

医学博士・認知科学者・脳科学者:細田 千尋

続けないことが正解なのか、子どもの変化を見極めよう

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普段から子どもの成長に向き合ってあげることが、ならいごとの継続にもつながるとのこと。  写真:アフロ

はじめるときもそうですが、ならいごとはどこまでやさせたらいいのか、やめどきの見極めも難しいですよね。日本だととくに“何事も長く続けることがいい”とされていますが、実験上では必ずしもそうではないんですよ。やめた方が利益が多く出るような実験条件というのを作り、どの時点でやめるかを選択させると、早くやめる人の方が『メタ認知』が高く、利益をたくさん得ることができる場合もあります。

例えば、50歳や60歳になっても“世界に名を馳せる音楽家を目指してます”などと言って定職につかない人がいるとします。それ自体は悪いことではないし、本人が幸せならいいと思いますが、目標についての明確な戦略や今の自分の位置がわかっていないから、現実と目標のギャップが埋まらないまま日々が過ぎていきますよね。“限りある人生”の中で考えた場合では問題です。もしかしたら、もっと本人の能力が活かせて満足できるものがあるかもしれないし、音楽以外にないのであれば、戦略を変える必要がありますから。

子どもの場合には、現実と(親が願う)理想のギャップが大きいとメンタリティに影響が出てきます。無理やりやらせている時間が強く長くなるほど、負の経験をどんどん積んで、嫌になっていってしまいます。なぜなら、子どもは自己効力感が1つ低下すると、生活全般に影響することも分かっているからです。例えば、6歳前後の子でも逆上がりができないとか、学校で何かひとつでも嫌なことがあると、学校も生活もすべてが嫌になってしうように。

ですから幼児期のならいごとについて、このぐらいの期間で見極めてやめさせるべき、といいうことをハッキリとは言えないのですが、嫌がる時間が長くて、生活にまで影響が出てきた場合には、やめさせるべきなのかもしれません。

がんばれば乗り越えられるくらいの苦しみと、これ以上やらせていても苦しいだけ、というのは親が自分の理想に固執し過ぎずに、『メタ認知』(子どもの適正や能力とお稽古内容の客観的な理解)を働かせて判断しなくてはいけません。1日や2日行きたくないと言ったぐらいで容易にやめさせていいわけでもなく、親が日々のちょっとした変化でジャッジするのが大切だと思います。

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普段から子どもの様子をよく観察して、成長の過程を見ておくことが、お稽古やならいごとの継続にもつながるんですね。第4回は、親の関わり方や働きかけが、子どもの成長にどのような効果をもたらすのかをお聞きします。

取材・文 山田祥子

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ほそだ ちひろ

細田 千尋

医学博士・認知科学者・脳科学者

東北大学加齢医学研究所及び、東北大学大学院情報科学研究科准教授。 内閣府 moonshot研究目標9プロジェクトマネージャー(わたしたちの子育て―child care commons―を実現するための情報基盤技術構築)。 内閣府・文部科学省が決定した“破壊的イノベーション”創出につながる若手研究者育成支援事業(JST創発的研究支援)によって、日本全国の大学や研究機関などから選ばれた252名の研究代表者のうちの1人。 脳科学から子どもの非認知能力を育てる研究の親子モニター募集 https://gritbrain.wixsite.com/experiment2022-04 東北大学加齢医学研究所 https://www.idac.tohoku.ac.jp/site_ja/ 細田千尋研究室㏋​ https://neurocog.is.tohoku.ac.jp/

東北大学加齢医学研究所及び、東北大学大学院情報科学研究科准教授。 内閣府 moonshot研究目標9プロジェクトマネージャー(わたしたちの子育て―child care commons―を実現するための情報基盤技術構築)。 内閣府・文部科学省が決定した“破壊的イノベーション”創出につながる若手研究者育成支援事業(JST創発的研究支援)によって、日本全国の大学や研究機関などから選ばれた252名の研究代表者のうちの1人。 脳科学から子どもの非認知能力を育てる研究の親子モニター募集 https://gritbrain.wixsite.com/experiment2022-04 東北大学加齢医学研究所 https://www.idac.tohoku.ac.jp/site_ja/ 細田千尋研究室㏋​ https://neurocog.is.tohoku.ac.jp/