「こども選挙」で子どもと大人に芽生えた当事者意識 何も考えず住んでいた町が“大切な町“になった想定外の効果
子どもによる、子どものための「こども選挙」#3~子どもと大人の変化~
2024.12.25
「こども選挙」発起人:池田 一彦
候補者へ投票した理由が届く
「こども選挙」は、茅ヶ崎在住の15名による「こども選挙委員」と、大人10名の「こども選挙実行委員」、そして子ども含む投票所運営ボランティアの計約60名により行われました。
2022年10月30日に行われた茅ヶ崎市長選挙では、「こども選挙」の総投票数はネット投票も含めて566票。実際の市長選挙では現職の市長・佐藤光氏が大差をつけて再選。「こども選挙」では、結果は同じでしたが、18票差の接戦を見せました。
投票の際は「候補者へのメッセージ」を記入することもできます。なぜ選んだのか、期待することや伝えたいこと……子どもたちが自由に書いた359のメッセージは、子どもたちの手によって候補者3人へ届けられました。
「候補者のうち1人は日程の都合がついたので、メッセージを直接渡すことができました。落選してしまった方なのですが、1枚ずつ読み進めていくにつれ涙があふれていき、最後は泣き崩れてしまったんです。
そしてその場で『4年後の市長選に出て、もう一度頑張ります』と宣言された。そのシーンはとても印象的でした」(池田さん)
池田さんは「選ばれた理由を知ることができるのも『こども選挙』ならでは」と続けます。
「本物の選挙では、投票者の具体的な声を届けることができません。どういう思いで選ばれたのか、わかったほうがいいと僕は思うんです」(池田さん)
市議選挙に出馬も! 大人も変えた「こども選挙」
準備当初は政治や選挙を自分事としてとらえていなかった子どもたちですが、「こども選挙」を通して大きな変化が見られたといいます。
「『大人になったら必ず選挙に行きたい』『1票の重みを感じた』など、子どもたちの意識は確実に変わりましたね。
こども選挙委員のメンバーは女子14名、男子1名でしたが、そのなかに『おっちゃん』という小学6年生男子がいて。彼は、最初『親に連れられてきました』と言って参加したんですが、選挙終了後の言葉に僕たち大人は感動しました」(池田さん)
『茅ヶ崎市は、前は自分の住んでいるところとしか思っていなかったけど、こども選挙が終わった後は自分の大切なものみたいな感じで、より良くしたいなと思いました』(おっちゃん)
「実は、あとからNHKのインタビューで知ったんですけどね。『おっちゃん、そんなこと考えてたの!?』って(笑)」(池田さん)
自分たちの暮らす町のことを自分事として考える、主権者としての意識の芽生えを感じさせるおっちゃんのコメント。池田さんは、「僕たちが一番大切にしていたのは、おっちゃんが言っていたこと」と話します。
子どもたちが「子どもが意見を言っていい」「社会に関わっていい」という感覚を得られれば、町や身近なことを主体的に考えられるようになります。それは、未来について一人ひとりが考えを持てるということにもつながるはずです。
「こども選挙」が与えた影響は、子どもだけではありません。なんと大人側のスタッフが市議選挙に出馬したという出来事も。
「会社員と主婦だった2名が『町をよりよくしたい』と出馬し、今も市議として活躍しています。社会の問題を自分の問題として捉え行動する、主権者教育をされたのは、実は子どもたちの活動をそばで見ていた大人たちだったのかもしれません」(池田さん)
最終目標は学校と連携すること
こうした取り組みが評価され、「こども選挙」は、2023年度のキッズデザイン賞で最優秀となる内閣総理大臣賞や、マニフェスト大賞など4つの主要なアワードを受賞しました。
受賞もさることながら、池田さんがうれしかったのは、子どもたちが「自分たちが受賞した!」という気持ちでいてくれていること。授賞式では、子ども代表の2名が登壇しました。
「賞状とトロフィーを受け取り、堂々と受賞コメントもしていて……。『すごい!』と感心しました。子どもは信じてあげればどこまでも伸びていくのだろうと実感した瞬間でもありました」(池田さん)
今や「こども選挙」は、全国12ヵ所で開催されるまで広がりを見せています。運営ノウハウや投票システム、ロゴ、制作物などはオープンソースとして無償提供され、実施を希望する場合は、まずは池田さんがオンラインでヒアリング。交流・相互支援しながら進めていきます。
茅ヶ崎では叶わなかった「学校との連携」にも、光が見え始めています。