“排便外来”で、これまでに2000人以上の子どもを診察してきた“腸のエキスパート”、小児外科医の中野美和子先生。
第3回では、便秘にならないための予防法や、小さいころから“腸活”をするメリットについて聞きました。
(全3回の最終回。1回目は「子どもの便秘と便秘のしくみについて」、2回目は「子どもの便秘の治し方について」)。
腸活”とは、腸本来の力をキープすること
便秘を予防するためには、食生活が大切だと思うお母さん、お父さんは多いのではないでしょうか。中野先生によれば、確かに食生活は便秘に深く関わっていると言います。
「子どもの便秘を予防するという観点から、もちろん食事に気をつけることは大事です。日本人はもともと草食民族だったので、歯や顎も、“噛む”というよりも、すりつぶすような構造です。そのため腸も、食物繊維をたくさん摂るのに合わせて少し長めになっています。
最も便秘に良い食事は、発酵食などを取り入れた和食です。しょうゆや味噌、納豆や漬物類など、日本人が昔から食べているものを食べことが腸にもとても良いのです。
なるべく便秘にならないような食生活をして、腸の本来の力をキープする。
それが腸内フローラ(第2回)のバランスを整えることにつながっていきます」(中野先生)
1~2歳までにできた腸内フローラは何十年も持つ!
「腸内細菌を専門としている医師たちの間では、1~2歳までにできた腸内フローラは、何十年かは持つと言われています。
しかしこれは、腸の菌を培養して調べる方法でデータを取った結果から言われていること。最近の分子生物学的解析手法を用いた腸内フローラの検査法では、まだきちんとしたデータは出ていません。
ただ、小さいころから“腸活”をしていれば、しばらくは良い環境のまま成長できるであろうとは言われています。
そもそも、ほとんどの赤ちゃんは、母乳や粉ミルクという腸に良いものを摂っているので、腸内環境は整っているんです。
ですので、なるべく小さな頃から悪い菌が増えすぎないように気をつけるなど、腸内環境のバランスを崩さないようにすることが何よりも大切です」(中野先生)
リラックスする入浴も便秘に効果的
「子どもの一番の“腸活”は、便秘をさせないことです」と、中野先生。そのためには、「日常生活でリラックスさせることが大切」と言います。
「緊張度の高い神経質なお子さんは、特に便秘になりやすいです。
そんなお子さんへのおすすめは入浴。入浴はリラックス効果が高く、入っていると便意をもよおしやすくなります。
赤ちゃんのとき、お風呂でうんちをされた経験を持つ親御さんも多いのではないでしょうか。これはつい、気持ちが良くてうんちをしてしまうんです。
さらにお母さん、お父さんと一緒にお風呂に入ると、スキンシップにもなり、よりリラックス効果が期待できます。
それと、便秘には“のの字マッサージ”が良いと聞いたことがある親御さんも多いと思います。
実はマッサージの効果というよりも、スキンシップの効果のほうが大きいんです。なぜなら、親御さんがお子さんのお腹に手を当てることによって、副交感神経の働きをよくしてくれるから。
“マッサージしなくちゃ”と思わなくても、ボディタッチをしたり、優しく抱っこしてあげたりすることで、緊張を和らげることも快便へとつながっています」(中野先生)
快眠、快食が快便へとつながる
生活習慣で気を付けるポイントは、何よりもよく寝て、よく遊んで、よく食べること。
快眠、快食が快便につながっていくと言います。
「昼間たくさん遊んで、夜はぐっすり眠る。日中一生懸命遊べば、夕飯の頃にはもう眠くなってしまい、ご飯を食べながら寝てしまう子もいますよね。
働いている親御さんは難しい場合もあるかもしれませんが、やはり早寝早起きは腸活にとても大事です。早めに夕飯を食べ、お風呂に入り、夜8時か9時くらいには寝る習慣をつけるように心がけてください。
お父さんの帰宅が遅い場合は、夕飯は別々にして。まずは子どもの生活を優先してあげてください。大人の時間に合わせて生活することは、発達途中の子どもの腸内環境には良くないんです。
きちんと治療すれば、便秘は必ず治ります。ただ、治療のタイミングを逃してしまうと治りにくくなってしまう。そのために、お母さん、お父さんがお子さんの便秘に早めに気づき、すぐに対処してあげることが大切です。
身体の発達も腸の発達も一人一人違うように、便秘の原因も症状も治り方も一人一人違います。
“ただの便秘だから”、と軽く考えず、お子さんの様子を見て適切な治療をしてあげてほしいと思います」(中野先生)
中野先生は日本トイレ研究所と、子どもの便秘についてのとてもわかりやすいYouTube動画を公開されています。ぜひ参考にしてみてください。
【小児外科医に聞く!赤ちゃんの便秘①】便秘のうんちってどんな色?【オンライン日本トイレ研究所】
取材・文/石本真樹
中野 美和子
慶応義塾大学病院、国立小児病院(現・国立成育医療研究センター)さいたま市立病院小児外科部長(現在は非常勤)を経て、現在、神戸学園理事・神戸動植物環境専門学校校長。 吉川小児科「排便外来」担当。医学博士、小児外科学会指導医。 「排便外来」を開設し、先天性の疾患、先天性疾患で手術を受けた後の長期フォローだけではなく、一般の子どもの難治性便秘、便通異常、便失禁の治療も行っている。 鎖肛の会顧問。日本トイレ研究所アドバイザー。 近著に『赤ちゃんからはじまる便秘問題〈第3版・改訂増補〉』(言叢社)。
慶応義塾大学病院、国立小児病院(現・国立成育医療研究センター)さいたま市立病院小児外科部長(現在は非常勤)を経て、現在、神戸学園理事・神戸動植物環境専門学校校長。 吉川小児科「排便外来」担当。医学博士、小児外科学会指導医。 「排便外来」を開設し、先天性の疾患、先天性疾患で手術を受けた後の長期フォローだけではなく、一般の子どもの難治性便秘、便通異常、便失禁の治療も行っている。 鎖肛の会顧問。日本トイレ研究所アドバイザー。 近著に『赤ちゃんからはじまる便秘問題〈第3版・改訂増補〉』(言叢社)。