子育て世代 肩こり解消のポイント「肩甲骨周りのファシア」を専門医が解説

30秒でできる「ファシアゆるゆる体操」 ファシアをゆるめて肩こり解消! #前編

木下 千寿

つらい肩こりの原因と解消するコツを解説。肩こりに効く「ファシアゆるゆる体操」を紹介します(写真:アフロ)

長時間のデスクワークや日常的なパソコン、スマートフォンの使用などで、“肩こり”の症状に悩まされている人は少なくありません。さらに子育て世代は、子どもの授乳や抱っこ、おんぶといった動作をすることも多く、肩こりが常態化しているケースも……。

ガンコな肩こりを解消するには、どうすればいいのか。東京医科大学整形外科准教授の遠藤健司先生に、肩こりが起こる理由や、効果的な解消法を聞きました。

【遠藤健司(えんどう・けんじ)東京医科大学整形外科准教授。日本脊椎脊髄病学会脊椎脊髄外科指導医、日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医。自身が肩こりに苦しんだ経験から、「肩甲骨はがし」ストレッチを開発。日本テレビ「世界一受けたい授業」NHK「あさイチ」などメディア出演多数】

首を30度かたむける=5歳児を1人おぶった状態!

肩こりは近年、女性の愁訴(※)第1位、男性の愁訴第2位になっていて、年齢が上がるに従い、肩こりを訴える人の割合も増えています。(※自覚的な訴えのこと)

私たちの生活に欠かせなくなった、パソコンやスマートフォンも、重度の肩こりを招く原因になっています。

というのも、人間の頭の重さは体重の約10%を占めているのですが、たとえば画面を見るために頭の角度が30度前傾すると、まっすぐ立っている状態の約3倍の負荷が首や肩にかかります。

「これは5歳児を一人、おぶった状態と同じぐらいの負荷。ずっとその姿勢でいれば、身体に大きな影響を及ぼすことは、お分かりいただけるでしょう」(遠藤先生)

首を30度かたむける=5歳児を一人、おぶった状態と同じぐらいの負荷がかかっている。

女性は男性に比べて首が長く、筋肉量が男性に比べて少ないので、肩こりが起こりやすいという側面もあります。

台所仕事をはじめ、家事は前かがみで行う作業が多いのですが、長時間、前かがみの姿勢で腕を使った作業をすると、肩甲骨が広がったままの状態で固まるため血流が悪くなって、筋肉が正しく動かずこわばります。

長時間のデスクワークやスマホ操作も同じく、肩甲骨が“不動化”しやすい悪姿勢です。

疲労の蓄積が痛みにつながる

「肩甲骨の不動化により血行障害が起きると、疲労物質が蓄積されて痛みが出ます。これが慢性化すると、脳が痛みを感じやすくなります。2の痛みを、8~9に感じるようになるわけです」

遠藤健司先生

「その不快感が脳に記憶され、脳内のセロトニン分泌が低下して交感神経の過緊張が起こり、自律神経の乱れがさまざまな症状として表れる。これが肩こりのシステムです」

筋肉が硬くなった状態=肩こりではなく、痛みを強く感じる状態(疼痛感作)が肩こり。病気ではないため病院で何科にかかればいいのか分からず、困る方が多いのです。

首を支える筋肉の85%以上は、肩甲骨に集中しています。つまり肩甲骨を動かせば、首を支えている筋肉のほとんどを動かすことができ、肩こり解消に繫がります。

「ファシア」をゆるめるのがコツ

肩甲骨を動かすにあたって、ポイントとなるのが「ファシア」。ファシアとは、私たちの身体の臓器や骨、血管、筋肉などを覆う、全身に張り巡らされた組織のことで、みかんで例えると、皮と実の間にある白いヒゲと実を包む膜です。

ファシアは本来ゆるゆるな組織で、その“遊び”があるからこそ、身体を自在に動かすことができます。ファシアにはコラーゲンと水分が多く含まれており、それがゆるさを生み出していますが、身体の不動化で血流が悪くなるとファシアがむくみます。

ファシアがむくむと、筋肉の滑走性が悪くなり、こわばった状態に。つまり肩こりの最大の原因は、肩甲骨周りの筋肉を覆う、「ファシアの硬さ」なのです。

ファシアのゆるみが失われるのは、血行不良が原因。その血行不良を招く要因は、筋肉の不動化のほか、ストレスによる「自律神経の不調」も挙げられます。

血行不良はファシアのゆるみを失う原因に。筋肉の不動化や自律神経の不調も要因となる(写真:アフロ)

血流をコントロールする自律神経が乱れれば、血行が悪くなるのも自明の理。また、子育て世代は自分のことだけでなく、子どもの問題や家族の問題などいろいろな悩み、不安を抱えているため、自律神経の不調をきたしやすいのです。

「自律神経の不調」は、イライラや不眠、冷え性、めまい、頭痛といったかたちで表れます。これらの諸症状は、肩こりと連動しているのです。

強く揉むのはNG モミモミ中毒に注意

では、ファシアをゆるめるにはどうすればよいでしょうか?

「肩こり解消のために揉んだり、マッサージ店に行ったりする方もいると思います。マッサージは筋肉を収縮させ、血流を上げるもので、人の手に委ねることでリラックスできますが、反面、傷んでいる筋肉を揉むことで、余計に傷めてしまう恐れもあります。筋肉が修復過程で繊維化し、しこりのようなものができてしまうのです」

また最初は、軽く揉まれるだけで気持ちよかったはずが、次第に強度を上げないと満足できなくなってしまうのは、筋肉が繊維化し“モミモミ中毒”になっている状態。

本当にほぐしたい「身体の深い部位の筋肉」は骨についています。なので、バランスボールなどを使って、自分で「骨を動かしてほぐす」ことこそ有効です。

「ファシアゆるゆる体操」

そこでご紹介するのが、「ファシアゆるゆる体操」です。まずは、現在の自分のファシアゆるゆる度をチェックしてみましょう。

①頭、背中、お尻、かかとを壁につけて立ちます。

①頭、背中、お尻、かかとを壁につけて立ちます。

②腕を真っ直ぐに伸ばし、手の甲を上に向けながら、ゆっくり腕を上げていきます。腕が上がらなくなったり、肩に違和感が生じたりしたらストップ。肩の位置を基準(0度)として、腕が上がった角度を確認しましょう。

肩の位置を基準(0度)として、腕が上がった角度を確認しましょう。

0度~45度……かなり硬い
45度~60度……やや硬い
60度以上……問題なし

30秒でできる! ファシアゆるゆる体操

① 背筋を伸ばし、手は軽く握ります。両ひじをクッと体の前に入れて、肩より少し上の高さまでじょじょに上げていきます。

① 背筋を伸ばし、手は軽く握ります。両ひじをクッと体の前に入れて、肩より少し上の高さまでじょじょに上げていきます。

②「1、2、3、4、5」のカウントに合わせて両ひじを後ろにゆっくり引いていき、肩甲骨をギュッと寄せます。

②「1、2、3、4、5」のカウントに合わせて両ひじを後ろにゆっくり引いていき、肩甲骨をギュッと寄せます。

③ 肩甲骨を寄せた状態のまま、ひじをゆっくり下げていきます。ひじを完全に下ろしたら、そのまま腕を伸ばして脱力し、ひと呼吸入れましょう。

③肩甲骨を寄せた状態のまま、ひじをゆっくり下げていきます。ひじを完全に下ろしたら、そのまま腕を伸ばして脱力し、ひと呼吸入れましょう。

④ ①~③を3~5セット行います。

「コルチゾール」がカギ! 朝と夕方に体操を

ファシアゆるゆる体操を行うおすすめの時間帯は、朝と夕方。

人間の身体は抗炎症、抗浮腫作用のあるコルチゾールというステロイドホルモンが自然分泌されるようになっているのですが、朝と夕方はコルチゾールが体内に不足している状態です。そのタイミングでファシアゆるゆる体操をやると、循環が促されてファシアのむくみが解消されます。

いかがでしたか? 肩こりにお悩みの方は、ぜひ「ファシアゆるゆる体操」にトライしてみましょう!

【「ファシアをゆるめて肩こり解消!」は前後編。前編では肩こりの原因と解消するコツを解説。肩こりに効く「ファシアゆるゆる体操」を紹介します。後編では、子どもの肩こりチェック・親子でできる肩こり解消法を解説。「かかと落とし体操」と「ゴロゴロ体操」を紹介します】

取材・文/木下千寿
撮  影/神谷美寛
イラスト/山口陽菜

えんどう けんじ

遠藤 健司

Kenji Endo
東京医科大学整形外科准教授

1988年東京医科大学卒業。1992年米国ロックフェラー大学ポスドクとして留学(神経生理学を専攻)。1995年東京医科大学茨城医療センター整形外科医長を経て、2007年 東京医科大学整形外科講師、2019年准教授。 厚生労働省 特定疾患対策研究事業OPLL研究班、自賠責保険顧問医、日本脊椎脊髄病 学会社会保険システム等検討委員会委員長、日本運動器疼痛学会評議員、日本腰痛学会 評議員を務める。 腰部脊柱管狭窄症、頚椎後縦靭帯骨化症、脊椎内視鏡手術、脊椎腫瘍、首下がり、骨粗鬆症、脊髄神経生理、椎間板、筋線維、ファシアの研究に取り組む。 専門領域:脊椎脊髄外科、脊椎内視鏡手術、骨粗しょう症手術(セメント注入など)、脊椎脊髄腫瘍手術、顕微鏡使用頸椎、腰椎手術、慢性疼痛など 認定資格:日本専門医機構認定整形外科専門医、日本整形外科学会脊椎脊髄病医、日本脊椎脊髄病学会指導医

1988年東京医科大学卒業。1992年米国ロックフェラー大学ポスドクとして留学(神経生理学を専攻)。1995年東京医科大学茨城医療センター整形外科医長を経て、2007年 東京医科大学整形外科講師、2019年准教授。 厚生労働省 特定疾患対策研究事業OPLL研究班、自賠責保険顧問医、日本脊椎脊髄病 学会社会保険システム等検討委員会委員長、日本運動器疼痛学会評議員、日本腰痛学会 評議員を務める。 腰部脊柱管狭窄症、頚椎後縦靭帯骨化症、脊椎内視鏡手術、脊椎腫瘍、首下がり、骨粗鬆症、脊髄神経生理、椎間板、筋線維、ファシアの研究に取り組む。 専門領域:脊椎脊髄外科、脊椎内視鏡手術、骨粗しょう症手術(セメント注入など)、脊椎脊髄腫瘍手術、顕微鏡使用頸椎、腰椎手術、慢性疼痛など 認定資格:日本専門医機構認定整形外科専門医、日本整形外科学会脊椎脊髄病医、日本脊椎脊髄病学会指導医

きのした ちず

木下 千寿

ライター

福岡県出身。大学卒業後、情報誌の編集アシスタントを経てフリーとなる。各種インタビューを中心に、ドラマや映画、舞台などのエンターテイメント、ライフスタイルをテーマに広く執筆。趣味は舞台鑑賞。

福岡県出身。大学卒業後、情報誌の編集アシスタントを経てフリーとなる。各種インタビューを中心に、ドラマや映画、舞台などのエンターテイメント、ライフスタイルをテーマに広く執筆。趣味は舞台鑑賞。