元「不登校児」が作った「分身ロボット」が学校に行けない子や寝たきりの孤独を救う

シリーズ「不登校のキミとその親へ」#2‐4 ロボット開発者・吉藤オリィ氏~ロボットの開発の理由~

ロボットコミュニケーター:吉藤 オリィ

吉藤オリィ氏(左)が開発した分身ロボットOriHime(右)。衣装を着せたり個性的な演出も楽しい。「分身ロボットカフェ DAWN ver.β」(東京・日本橋)にて  写真:日下部真紀

世界的に注目されているロボットミュニケーター・吉藤オリィさんは、小・中学校の約3年半、学校へ行けなかった元不登校児です。

不登校時代、孤独に苦しんだ経験も踏まえ、分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」を開発。今では「OriHime」と触れ合えるカフェもオープンし、世界中から多くの人が訪れています。

彼が「OriHime」を開発し続けてきた背景と、今、不登校に思うことを聞きました。

※4回目/全4回(#1#2#3を読む)

吉藤 オリィPROFILE
1987年奈良県生まれ。株式会社オリィ研究所共同創設者代表取締役 所長。ロボットコミュニケーター。分身ロボット開発者。小学5年から中学2年まで不登校。2022年、コンピューター界のアカデミー賞と言われる世界的な賞「アルスエレクトロニカ ゴールデンニカ」ほか、受賞多数。「孤独の解消」を人生のテーマに、分身ロボット「OriHime」を開発・普及に務める。趣味は折り紙。

「分身ロボットカフェ」が可能にしたこと

私の肩書は「ロボットコミュニケーター」です。ロボットでコミュニケーションの課題を解決する人という意味を込めて、21歳のときに勝手に作った私の職業です。

早稲田大学で「オリィ研究室」(現在の株式会社オリィ研究所の前身)を立ち上げて、分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」の開発に悪戦苦闘していたころです。

その後、無事に完成した「OriHime」は、何度も改良を重ねて、今の外見と機能を持つようになりました。病院や介護施設、一般家庭など、さまざまな場所やさまざまな人に愛用されて、距離や障害や常識を乗り越えるために活躍しています。

何度かの期間限定開催を経て、2021年6月には東京・日本橋に常設の「分身ロボットカフェ DAWN ver.β(ドーン バージョンベータ)」をオープンしました。随時、全国各地で期間限定キャラバンも開催しています。

日本だけじゃなく、世界中からたくさんのお客さんが訪れて、「OriHime」を通じて離れた場所にいる“パイロット”(OriHime操縦者)の接客を受けています。

パイロットには、障害でベッドから起き上がれなかったり、家族の介護があって外に出られなかったりなど、いろんな人がいます。今までなら「自分には接客の仕事は無理」と我慢しなければならなかったけど、「OriHime」を使ってそれが可能になった。

テクノロジーの恩恵を受けられるのは、パイロットの側だけじゃありません。「えっ、オーストラリアから話してるんですか!」「はい、こちらは夏です」なんて、距離と状況のギャップから会話が広がってお客さんも楽しめます。画面を通じて「こんな写真撮ってるんです」「こんなアクセサリー作ってるんです」なんて話にもなる。

大きな特徴だと思うのが、お客さんと「障害を持った当事者」が気軽に話せること。日ごろ、当事者と接する機会はあまりなくても、「OriHime」を通じて「どういう障害なんですか?」「脊椎の3番目が損傷していて」といった会話が自然に交わされたりする。実際に話すことで、今までのイメージや固定観念を打ち破ることができます。

パイロットの中には特別支援学校に通う高校生もいます。体に障害があるが、憧れていた接客の仕事ができて、生き生きと活躍してくれている。リアルに人と話すのが苦手という昔の私みたいな子もいて、だけどコミュニケーションを拒絶してるわけじゃない。

「OriHime」という一種の着ぐるみをまとうことで、すんなり話せるんですよね。

自分がまた孤独にならないために「OriHime」を作った

私自身、不登校をしていたころに、もし「OriHime」があったら、きっと使っていたと思う。

クラスで文化祭で何か発表する準備とかしていて、学校には行けないけど、モノ作りは大好きだったのでそこには参加したいという気持ちはありました。でも参加できなかった。

不登校の子どもがクラスの友達とコミュニケーションを取るためにも、「OriHime」をどんどん活用してほしいですね。実際、試験的に導入してくれている学校も出てきました。

そうやって友達とつながれば、当時の私のように自宅で孤独な思いをしなくてもいい。相手の目を見て話せなくても「OriHime」を通せば話せる子は、きっと多いんじゃないかな。

そもそも私は、世のため人のために活動しているわけではありません。孤独の解消をしたいというのも、そのテーマに自分が興味があるからだし、こんな変わった性格をしている自分が将来も孤独になりたくないからです。もちろん、結果的に誰かの役に立てればそれはとても嬉しいことだけど。

誰だって、ある日いきなり事故に遭って寝たきりになるかもしれない。歳を取れば動けなくなる可能性は大いにある。だから私は、今障害を持っている人たちは、寝たきりの先輩だと思っています。

自分は今、こうして自分の足でこの場所に来ている。動けない人の本当のつらさはわからないかもしれない。でも、動けない人や、不登校だったころの自分と同じ孤独を感じている人たちと一緒に研究をすることで、将来の自分がもう1回、天井を眺め続けるような生活を送らずに済むことにつながるのではないかと思っています。

「OriHime」にはカメラ・マイク・スピーカーが搭載されていて、どこにいても、スマホやPC、タブレット等で簡単に遠隔操作できる。  写真:日下部真紀
「分身ロボットカフェ DAWN ver.β」では、バリスタ研修を受けたパイロットが、ロボット「OriHime&NEXTAGE」を遠隔操作。目の前で好みに応じたコーヒーを入れてくれる。  写真:日下部真紀

寝たきりの親友・番田雄太が教えてくれたこと

「OriHime」が今の形に進化したことと、カフェを始めることになったのは、相棒で親友だった番田雄太という男の存在が大きく関わっています。

彼は4歳のときに交通事故に遭って、首から下をまったく動かせなくなりました。それから20年、岩手県盛岡市の病院で、ベッドの上で寝たきりで過ごしていたんです。

でも彼は、あきらめなかった。あごに付けたペンマウスでパソコンを操作して、NPO法人や有名人に片っ端からメールやSNS経由でメッセージを送って、コンタクトを取ろうとしました。送った相手の数は、なんと6000人以上。そのうちの1通が私のところに届いた。熱いメッセージに打たれて、すぐに会いに行ったんです。

私たちはすぐに意気投合しました。彼にはものすごい生命力を感じたし、人として尊敬していた。彼といることで生きる力をもらえたんです。ポケットマネーで私の秘書にもなってもらいました。私がやりたいことに必要な人材だと思ったからです。

言ってみれば彼は、「OriHime」にとって究極のユーザーですよね。手を付けて動かせるようにするというのは彼のアイディアです。おかげで「OriHime」の可能性が一気に広がりました。

自分が行きたいところに行ったり会いたい人に会ったりするだけでなく、不特定多数の人との交流をしてみたいという彼の希望が、カフェを開くという発想につながったんです。

講演もずいぶんやりました。最初は私とペアだったけど、やがて番田ひとりで行くことも増えました。しかし残念ながら、番田は2017年9月に28歳で旅立ってしまいます。

彼は寝たきりでもここまでやれるんだ、ここまで変われるんだということを身をもって示してくれました。今もきっと、私たちを見守ってくれていると思います。

「誰だって自分にしかできないことがある」と言ってしまうと、なんだか陳腐に聞こえるでしょうか。でも、障害があるとかないとかは関係なく、それは確実に言えます。

番田がやったことは、番田だからできたのかもしれない。彼と同じことをする必要はありません。自分がやりたいこと、やっていて楽しいことをやればいい。

探し続けて、そして世の中に発信してください。それが、いつのまにか誰かの道につながる事もある。私や番田もそうでした。

世の中は激しく移り変わっています。世の中が変われば変わるほど、あなたのミライの可能性はどんどん広がっていく。

かつて苦しんでいた子どもの一人として、今苦しんでいるあなたを応援しています。いっしょに楽しい世の中を作りましょう。


取材・文/石原壮一郎

サステナブル(続ける)をテーマに、オリィさんの開発した「OriHime」、魚を逃がす漁師、しあわせを運ぶチョコレートなど、ノンフィクションストーリー3本を記した『世界でいちばん優しいロボット』(岩貞るみこ/講談社)
オリィさんの大人気講義「これからの時代に知っておくべき考え方」を書籍化した『ミライの武器 「夢中になれる」を見つける授業』(吉藤オリィ/サンクチュアリ出版)

★京都に期間限定で分身ロボットカフェが登場!【2023年12/6(水)〜】

「OriHime」と実際に触れ合える「分身ロボットカフェDAWN ver.β 」が、京都・河原町御池に期間限定(2023年12/6水〜20水)でオープン。リアルで「OriHime」を見て触れてみるチャンスだ!
詳細はこちら

【関連サイト】
オリィ研究所公式HP
分身ロボットカフェ「DAWN」Ver.β公式HP
・X(旧Twitter)オリィ研究所@人類の孤独を解消する 
@OryLaboratory
・X(旧Twitter) 分身ロボットカフェ『DAWNver.β』 
@DAWNcafe2021
・X(旧Twitter) 吉藤オリィ@分身ロボット 
@origamicat

よしふじ おりぃ

吉藤 オリィ

Ory Yoshifuji
ロボットコミュニケーター

1987年奈良県生まれ。株式会社オリィ研究所共同創設者代表取締役 所長。ロボットコミュニケーター。分身ロボット開発者。 小学5年から中学2年まで不登校。高校時代に電動車椅子の新機構の発明に関わり、2004年の高校生科学技術チャレンジ(JSEC)で文部科学大臣賞を受賞。翌2005年にアメリカで開催されたインテル国際学生科学技術フェア(ISEF)に日本代表として出場し、グランドアワード3位受賞。2022年、コンピューター界のアカデミー賞と言われる世界的な賞「アルスエレクトロニカ ゴールデンニカ」ほか、受賞多数。 「孤独の解消」を人生のテーマと定め、高専で人工知能を学んだ後、早稲田大学にて自身の研究室を立ち上げる。その後、対孤独用分身コミュニケーションロボット「OriHime」を開発。株式会社オリィ研究所を設立し、「OriHime」のほか、ALS等の難病患者向け意思伝達装置「OriHime eye」、車椅子アプリ「WheeLog!」、分身ロボットカフェなどを開発提供。 2016年には「Forbes誌が選ぶアジアの30歳未満の30人」に選出。「第24回文化庁メディア芸術祭」エンターテインメント部門ソーシャルインパクト賞(2021)、「グッドデザイン賞2021」グッドデザイン大賞(2021)、「アルス・エレクトロニカフェスティバル」ゴールデン・ニカ賞(2022)などを受賞。趣味は折り紙。 著作に『「孤独」は消せる。』(サンマーク出版)、『サイボーグ時代』(きずな出版)、『ミライの武器 「夢中になれる」を見つける授業』(サンクチュアリ出版)など。 オリィ研究所公式HP  X(旧Twitter):吉藤オリィ@分身ロボット @origamicat

1987年奈良県生まれ。株式会社オリィ研究所共同創設者代表取締役 所長。ロボットコミュニケーター。分身ロボット開発者。 小学5年から中学2年まで不登校。高校時代に電動車椅子の新機構の発明に関わり、2004年の高校生科学技術チャレンジ(JSEC)で文部科学大臣賞を受賞。翌2005年にアメリカで開催されたインテル国際学生科学技術フェア(ISEF)に日本代表として出場し、グランドアワード3位受賞。2022年、コンピューター界のアカデミー賞と言われる世界的な賞「アルスエレクトロニカ ゴールデンニカ」ほか、受賞多数。 「孤独の解消」を人生のテーマと定め、高専で人工知能を学んだ後、早稲田大学にて自身の研究室を立ち上げる。その後、対孤独用分身コミュニケーションロボット「OriHime」を開発。株式会社オリィ研究所を設立し、「OriHime」のほか、ALS等の難病患者向け意思伝達装置「OriHime eye」、車椅子アプリ「WheeLog!」、分身ロボットカフェなどを開発提供。 2016年には「Forbes誌が選ぶアジアの30歳未満の30人」に選出。「第24回文化庁メディア芸術祭」エンターテインメント部門ソーシャルインパクト賞(2021)、「グッドデザイン賞2021」グッドデザイン大賞(2021)、「アルス・エレクトロニカフェスティバル」ゴールデン・ニカ賞(2022)などを受賞。趣味は折り紙。 著作に『「孤独」は消せる。』(サンマーク出版)、『サイボーグ時代』(きずな出版)、『ミライの武器 「夢中になれる」を見つける授業』(サンクチュアリ出版)など。 オリィ研究所公式HP  X(旧Twitter):吉藤オリィ@分身ロボット @origamicat

いしはら そういちろう

石原 壮一郎

コラムニスト

コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。以来、数多くの著作や各種メディアでの発信を通して、大人としてのコミュニケーションのあり方や、その重要性と素晴らしさと実践的な知恵を日本に根付かせている。女児(2019年生まれ)の現役ジイジ。 おもな著書に『大人力検定』『コミュマスター養成ドリル』『大人の超ネットマナー講座』『昭和だョ!全員集合』『大人の言葉の選び方』など。故郷の名物を応援する「伊勢うどん大使」「松阪市ブランド大使」も務める。ホンネをやわらげる言い換えフレーズ652本を集めた『【超実用】好感度UPの言い方・伝え方』も大好評。 林家木久扇がバカの素晴らしさを伝える『バカのすすめ』(ダイヤモンド社)では構成を担当。2023年1月には、さまざまな角度のモヤモヤがスッとラクになる108もの提言を記した著書『無理をしない快感 「ラクにしてOK」のキーワード108』(KADOKAWA)が発売。 2023年5月発売の最新刊『失礼な一言』(新潮新書)では、日常会話からメール、LINE、SNSまで、さまざまな局面で知っておきたい言葉のレッドラインを石原壮一郎氏がレクチャー。 写真:いしはらなつか

コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。以来、数多くの著作や各種メディアでの発信を通して、大人としてのコミュニケーションのあり方や、その重要性と素晴らしさと実践的な知恵を日本に根付かせている。女児(2019年生まれ)の現役ジイジ。 おもな著書に『大人力検定』『コミュマスター養成ドリル』『大人の超ネットマナー講座』『昭和だョ!全員集合』『大人の言葉の選び方』など。故郷の名物を応援する「伊勢うどん大使」「松阪市ブランド大使」も務める。ホンネをやわらげる言い換えフレーズ652本を集めた『【超実用】好感度UPの言い方・伝え方』も大好評。 林家木久扇がバカの素晴らしさを伝える『バカのすすめ』(ダイヤモンド社)では構成を担当。2023年1月には、さまざまな角度のモヤモヤがスッとラクになる108もの提言を記した著書『無理をしない快感 「ラクにしてOK」のキーワード108』(KADOKAWA)が発売。 2023年5月発売の最新刊『失礼な一言』(新潮新書)では、日常会話からメール、LINE、SNSまで、さまざまな局面で知っておきたい言葉のレッドラインを石原壮一郎氏がレクチャー。 写真:いしはらなつか