あらゆる子どもたちが交ざり合う「インクルーシブ公園」を最大限楽しむための心得

シリーズ「インクルーシブ公園」最新事情#1‐2 TOKYO PLAY代表・嶋村仁志氏インタビュー ~これからの公園の在り方~

一般社団法人TOKYO PLAY代表:嶋村 仁志

都立砧(きぬた)公園内「みんなのひろば」(東京都世田谷区)に設置された人気の回転遊具「ぐるぐるマウンテン」。乗り場全体が背もたれの形になっていて、体を支える力が弱い子ももたれて座れます。イキイキとした子どもたちの表情が印象的。  ⒸTOKYO PLAY

2020年、都立砧(きぬた)公園(東京都世田谷区)に「みんなのひろば」がオープンしたのを皮切りに、全国に広がりつつあるインクルーシブ公園。この先、設置を検討している自治体も多いといいます。

後編は、子どもが豊かに遊べる社会実現を目指す一般社団法人TOKYO PLAY代表で、子どもの遊ぶ環境づくりの専門家である嶋村仁志さんに、インクルーシブ公園の必要性、これからの公園の在り方について伺います。

※全2回の後編(前編を読む)

嶋村仁志(しまむら・ひとし)PROFILE
一般社団法人TOKYO PLAY代表、一般社団法人日本プレイワーク協会代表、NPO法人日本冒険遊び場づくり協会理事、IPA日本支部運営委員、大妻女子大学非常勤講師。

一般社団法人TOKYO PLAYの代表・嶋村仁志さん。IPA(International Play Association・子どもの遊ぶ権利のための国際協会)東アジア副代表を務めたこともあり、海外とのつながりも強い。  Zoom取材より

さまざまな声を聞き生かすことでよい公園に

近年、都内を中心に数を増やしている「インクルーシブ公園」。

体を支える力が弱い子でも楽しめるいす型ブランコ、車いすや歩行器のまま上がれるスロープ付きのすべり台といった、ユニバーサルデザインの遊具を設置するなど、すべての子どもが一緒に遊べる公園として注目されています。

インクルーシブ公園の普及で、子どもの遊び方や公園の在り方はどのように変わっていくのでしょうか。

都立初のインクルーシブ公園・砧(きぬた)公園内「みんなのひろば」(東京都世田谷区)の運営にも携わる一般社団法人TOKYO PLAYの代表・嶋村仁志(しまむら・ひとし)さんにお話を伺います。

──都内を中心にインクルーシブ公園が増えていますが、どのような背景があるのでしょうか。

嶋村仁志さん(以下、嶋村さん) 2006年にバリアフリー法が施行されてから、公園にもスロープや多機能トイレなどのユニバーサルデザインを取り入れる動きがありました。

けれど「遊具をユニバーサルデザインに」という動きはかなり限定的だったと思います。

その後、2016年に施行された障害者差別解消法(※1)によって、「合理的配慮」という言葉が使われるようになりました。
※1「障害者差別解消法」=障がいによる差別を解消し、誰もが分け隔てなく共生する社会の実現を目的に制定された法律

一般的に浸透しているとまでは言えませんが、インクルーシブが大切なんだという流れが、日本でも広がり始めたのだと思います。

そこに、オリンピックを機としたダイバーシティの大きなうねり、同じくして東京都がインクルーシブ公園の整備を始めたことが大きかったのかなと。

でも、前回にお話ししたとおり、設備や遊具といったハード面を整えるだけではインクルーシブ公園にはなりません。むしろソフト面の整備のほうが、非常に大事なのです。

そこで、私たちTOKYO PLAYが大切にしているのが、①「公園を作る前」②「作っている途中」③「作ってから」の3つです。

①「公園を作る前」②「作っている途中」が大切なのは、地域の住民や利用する子どもたちなど、多様な背景を持つ人々の声を聞き、聞いたことを公園づくりに生かすため。まずは「みんなで作った公園だ」と感じられる仕組みが必要です。

③「作ってから」は、実際に遊びに来ている人にヒアリングして改善したり、インクルーシブ公園の存在を知らない人に周知したりといったプロセスのこと。

完成したら終わりではなく、そこからみんなで公園を“作り続けること”が重要なのです。

──ヒアリングをする中で気づいたことはありますか。

嶋村さん 砧公園「みんなのひろば」に来ていた親子へのヒアリングで「子どもが障がいのある子と遊ぶ機会はあるか」と聞いたところ、72%の人が「ない」と答えています。

また、大人に対して「身近で障がいのある人と直接関わる機会はあるか」と聞いたところ、59%の人が「ない」と答えました。

※出典=『公園のこと みんなの声からはじめよう!』(発行:(公財)東京都公園協会/制作:一般社団法人TOKYO PLAY)

嶋村さん 触れ合う機会がないと相手のことがわからず、どうすればいいのか不安になり、関わるのをやめようという悪循環が生まれがちです。

すべての人にとって心地よい公園にするには、障がいを持つ子どもの親御さんの思いを、みんなで理解しあうことが不可欠ではないでしょうか。

もちろん障がいの有無だけではなく、人種や国籍、年齢、ジェンダーなども同じ。

それには、インクルーシブへの知識が深いコーディネーターやプレイワーカーを配置して、声掛けをするなど、みんなで遊べるようにフォローする体制が重要になってきます。

ただ、コーディネーターやプレイワーカーは「係員」ではないですし、公園に来る人も「お客さん」ではありません。“みんなで作る”“遊びに参加する”といった意識が必要だと思います。

インクルーシブ公園を整備しても、ソフト面の強化に力を入れている自治体はまだ少ないので、今後はそこが大きな課題ですね。

ヒアリング調査では、子どもと実際に遊びながら関係を育むことも。「親子の日頃の過ごし方も聞きながら、“この場が良くなるように一緒に考える仲間”として関わることを大切にしています」と嶋村さん。  ⒸTOKYO PLAY
調査した声をまとめ、園内でポスターの展示や冊子の配布を実施。コロナ禍で実際に対話する機会が設けられない分、来園者同士の声をそれぞれに届けたといいます。  ⒸTOKYO PLAY
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