オードリー・タンが教えた 若者と社会を力づける<たったひとつの冴えたやり方>

石崎洋司×大原扁理(対談)

生活費は7割! 大学卒の平均初任給約8万円

石崎洋司さん(写真撮影/森清 講談社)

石崎 大原さんは台湾では外国人となりますが、生活しやすかったですか?

大原 日本に対する一般的な国民感情もすごく良くて、地下鉄でも日本語のアナウンスがあるし、観光地だと日本語のメニューもある。日本語ができる人も多い。

でも、それは、わたしが日本人だから住みやすいという話で、外国人一般にとって住みやすいかどうかは別ですよね。

ただ、3年半の滞在中、外国人だからという理由や、性的マイノリティーだからという理由で差別されたと感じたことは、一度もないです。

石崎 台湾ではどこにお住まいだったんですか?

大崎 台北郊外の淡水というところに住んでいました。観光地として有名なんですけど、わたしが住んでいたのは大学の近くの学生街で、若い人たちの多いところです。

大学の近くなら学生用の安いアパートがあるのではないかという仮説だったのですが、当たっていて、家賃は1万5千円ぐらいでした。激安でしたね。

淡水の夕景(写真提供/大原扁理)

石崎 安いですね。台湾は日本の7割程度の生活費といわれていますが、家賃が高いと聞きますけど。

大原 台北はそうですね。都市の問題って世界で共通していて、不動産が住む目的でなく、投機目的で買われるようになると値段が上がって若者が住めなくなる。

生活費が7割としても、大卒の平均初任給が8万円ぐらいですから、ちょっと少ないですよね。

わたしと同じ世代の台北市内に住む台湾人たちは、1人では暮らしていけないということで、ほぼ実家暮らしです。

石崎 わたしはスペインが好きで良く訪れるのですが、若者は、ほぼ実家暮らし。経済上の理由で、若者が家から出られないのは、世界で共通する問題ですね。

台湾のゲイパレード 日本のゲイパレード

石崎 大原さんにお伺いしたいと思っていたのは、台湾での同性婚の法制化のことです。

わたしの世代だと、日本の方が先に、「家族」とか、「家」という考え方が崩れていったという実感があります。

日本の方がずいぶん先にいっていて、台湾の方にはまだそういう古い考えが残っていると。

それが今、台湾の方が、社会的にも制度的にも、はるか先にいっているというのは、どういうことなんだろうと、ずっと不思議だったんです。 

大原 なぜなんでしょうね。私が実感したのは、台湾にいった2016年から年々、ゲイパレードの参加者が万単位で増えていった、ということですね。

台湾のゲイパレード(写真提供/大原扁理)

大原 あまりゲイパレードに参加するほうではないのですが、2019年に同性婚が法制化されて、記念だと思って参加したんです。

日本のゲイパレードとちがうのは、みんなが入り混じって、一緒に歩いたり、警備の警官とも話したりしていて、だれが当事者で、だれがそうじゃないかわからない。これはいいなと思いました。

石崎 スペインもいち早く同性婚を認めた国ですけど、同じですね。

ただゲイパレードで、マイノリティーとしての存在をアピールしないといけない段階では、ある程度分かれてしまうのはしょうがないかもしれないですね。

大原 わたしが日本のゲイパレードに参加したのは、台湾に行く前なので、今は変わってるかもしれないですけど。

台湾でも同性愛とか、性的マイノリティーが認められるようになったのは、ごく最近の話なんです。

台湾の性的マイノリティーにとって、おそらく中国もそうですけど、日本の新宿二丁目が避難場所だった時代があったんです。そう考えると多様性を認めるスピードが速い気がします。

石崎 そうですよね。やはり日本の方が先行していた時代が長かったですよね。台湾の人は、変化を受け入れるのに抵抗が少ないのかな。

大原 台湾の人は、生活の表面的なところではいち早く、変化を受け入れる人たちだと思います。わたしには90歳代の友人がいますが、スマホを何の抵抗もなく使いこなしています。

でも家族と結びついているところに関しては、ちょっと保守的だなと思うところがあるんですよね。

わたしの友だちのゲイみんなが家族にカミングアウトしているかって言ったら、してない人も多いですよ。もちろんオープンにしている人もいますけどね。

わたしの印象では、制度が先に進んで、市民がいつでも利用できるように待っているという感じがします。

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