「発達障害」の子どもと親 「療育」の具体例・受ける施設・どんな変化?
児童精神科医・三木崇弘先生が語る「発達障害の子どもと保護者への支援」 #2 「療育」とは? どんなところ?
2024.01.05
児童精神科医:三木 崇弘
連載中の人気漫画『リエゾン』の監修者であり、児童精神科医・三木崇弘先生が解説する「発達障害の子どもと保護者への支援」。1回目では、子どもの発達に不安を感じたときの相談先や、相談をする意義を伺いました。
2回目では、「療育」とは何か、通うことで親子にどのような変化をもたらすのかについてお話しいただきます。
(全3回の2回目。1回目を読む)
三木崇弘(みき・たかひろ)
児童精神科医。国立成育医療研究センターこころの診療部で6年間勤務の後、2019年フリーランスに。以降、クリニック専門外来、公立小学校スクールカウンセラー、児童相談所、保健所、児童養護施設などで活動。2023年4月より地元・姫路へ戻り、児童精神科医として多忙な日々を送る。「モーニング」連載中の漫画『リエゾン─こどものこころ診療所─』監修。
療育は「発達を整える援助」
「療育」という言葉を初めて聞いたお母さん、お父さんは、「どこで誰とどんなことをするのか」、パッと思いつかないですよね。
大まかにいうと療育とは、「発達の援助」です。遅れていたり、ばらついていたりする発達を整えていくイメージですね。
厚生労働省の「児童発達支援ガイドライン」では、児童発達支援を次のように定義しています。
児童発達支援は、障害のある子どもに対し、身体的・精神的機能の適正な発達を促し、日常生活及び社会生活を円滑に営めるようにするために行う、それぞれの障害の特性に応じた福祉的、心理的、教育的及び医療的な援助である
僕はこれが「療育」だと考えていいと思います。
療育は「生活を円滑にするため」に
上にもあるように、療育の大きな目的は「日常生活及び社会生活を円滑に営めるようにする」ことです。つまり、本人自身の発達の仕方では年齢相応の日常生活や社会生活に必要な能力が追い付かない場合に、発達を促進させることを目指します。
ここで大切なのは、発達を促進させるために手先や言語のトレーニングをするのですが、生活を円滑に営むためには必ずしもその能力そのものを実現することにこだわらなくても良いということです。
たとえば、お箸で食事が摂れるようになってほしい年ごろだとして、しかし真の目的は「道具を使って綺麗に食べる」ことです。そのために必要なことは、具体的にはお箸をうまく使うことですが、それ以上に「きれいに食べるために道具を使ってどうにかすることは大事だ」と思えるようになることでしょう。
つまり、子どもの総合的な育ちのために必要なのが、スキルトレーニングを超えたところにある療育だとも言えます。
療育はそれぞれの子どもの発達に合わせて
発達障害を持つ子どもたちはそれぞれ、発達の遅れや能力のばらつき具合が違います。ですから、子どもたち全員に同じ療育はできません。
療育を始めるときには、まず「その子どもは今何ができていて何ができないのか」「何に困っているか」「どう解決していきたいのか」を考えて、個別の支援計画を練っていきます。基本的にはその子が苦手な部分を伸ばすための、オーダーメイドの療育を提供していきます。
もちろん「自閉スペクトラム症の子どもにはこれとこれをするといい」といった大まかな目安はあるので、診断がついていれば、その子に合った療育をするためのヒントになります。
1回目で「診断名はサポートに必要なものとお話ししたのは、こういうことです。
療育の例
療育を始めるにあたって、最初に計画は練りますが、実際には療育を進めながら子どもの様子を見ながら、調整を加えていきます。初めは「1日に3つのことをやろうとしていたけれど、今はまだ難しいからひとつだけにしよう」など、その子が無理なく取り組めるものに変更しながら取り組んでいきます。
では、実際にどのようなことをするのかというと、子どもの困りごとに合わせてさまざまなタイプがあります。今回は3つほど例をあげて紹介していきますね。
①【ソーシャルスキルトレーニング(SST)】
対人関係を円滑にし、集団生活を営むためのスキルを養うトレーニングです。
たとえば、友達が使っているおもちゃを、自分も使いたいときにはどう行動したらよいのかを「知らない」子がいます。「知って」→「できる」ようにするのがソーシャルスキルトレーニングです。
ソーシャルスキルトレーニングを進めるときには、まずストーリーや先生の実演で良い例と悪い例を学ぶなどしてから、次に子どもが実際にやってみます。良かった点や改善するとよい点などを伝えていくことで、同じような行動ができるようになっていきます。
②【感覚遊び】
普段あまり意識していない人が多いかもしれませんが、私たちは視覚や触覚などのさまざまな感覚を脳で整理し、それに応じて適切に身体を反応させて対応しています。この能力を「感覚統合」といいます。
発達障害の子どもの中には、「感覚統合」がうまくいっていない子がいます。その子たちは、たとえば触れられた感覚を適切に処理できず過敏に感じ取ってしんどくなったり、空間認識と自分の体の位置がうまく統合できないため、飛んできたボールをキャッチできなかったりします。
そこで、トンネル遊びや跳躍遊び、粘土遊びなど、子どもの興味や発達に合わせた感覚遊びを通して、感覚統合を促していきます。
③【ビジョントレーニング】
文字の読み書きに困難を感じている子どものなかには、文字を見るための「見る」ことと、「目の動き」の連動がうまくできていないケースがあります。この「見る力」が関係している場合は、眼球運動のトレーニングで困り事が解決することがあります。
この3つ以外にも、さまざまな療育の手法があります。あとは、個別で療育を受けるか、集団の中で療育を受けるかの違いもあります。