【日本版DBS】「こども性暴力防止法」認定マークがある塾でも危険? 小児性犯罪者は「9割が初犯」という現実[専門家が監修]

加害者臨床の専門家・斉藤章佳先生インタビュー #1「親が知っておきたい制度の限界」 (3/3) 1ページ目に戻る

西川口榎本クリニック副院長:斉藤 章佳

加害者臨床から見た日本版DBSのメリット

日本版DBSでは、性犯罪歴の照会に加え、不適切行為の「見える化」も行われます。

SNSでの個人的なやりとりや、不必要な身体的接触、1対1での車による送迎などが具体例として示され、判断があいまいになりやすかった行為に一定の基準が示されました。

小児性加害者の治療に長年携わり、加害者側の心理や行動パターンを熟知してきた斉藤章佳先生は、制度のメリットを加害者臨床の視点からこう話します。

「性加害者の治療プログラムにおける認知行動療法では、再犯を防ぐためには、まず第一にリスクの高い環境・状況に近づかないことがとても重要なんです。

子どもの集まる場所や、ひとりで遊んでいる子どもの姿を目にすること自体が再犯のトリガーとなる人も多いので。

そうした意味で、過去に性犯罪歴があると入り口の段階で子どもに関わる仕事を選べなくなるという日本版DBSは、治療プログラムを受けている当事者にとっては、理にかなった制度だというヒアリング結果が出ています」(斉藤先生)

日本版DBSで認定事業者となるには、性犯罪歴の確認のほか、研修体制や相談窓口の整備などいくつかの基準が設けられている。  出典:「こども性暴力防止法認定事業者マーク発表会」(こども家庭庁)
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初犯はふせげない&対象は3割のみ

一方で、日本版DBSでチェックできるのは、「すでに摘発され、前科がある者に限られる」という現実もあります。この点は、親としてぜひ知っておきたい重要なポイントです。

「性犯罪の摘発事例を見ると、約9割が初犯です。まずは初犯をどう防ぐかを考えるべきで、そのうえで再犯防止について考えていく。この辺り、日本ではまだまだ議論が必要です。

本来いちばん重要な、最初の加害をどう防ぐかという点について、日本版DBSでは対応できないからです」(斉藤先生)

イギリスのDBSでは、有罪判決が出ていなくても、警察や周囲の情報提供をもとにリスクが高いと判断されれば、子どもや脆弱な立場にある人に関わる仕事への就業を制限する仕組みが運用されています。

斉藤先生は、加害者側の職業選択についても指摘します。

「私が加害者臨床で対応した小児性加害者のうち、学校や保育、塾など、子どもに関わる仕事をしていた人は全体の3割ほどです。残りの7割は、そうした現場とはまったく無関係な場所で加害行為に及んでいます」(斉藤先生)

つまり、日本版DBSがカバーしているのは、性被害全体のごく一部にすぎないということになります。多くの性加害は、前科のない「初犯」のかたちで起き、しかもその大半は、学校や保育、塾の現場の外で起きている。

そう考えると、日本版DBSだけで子どもを守りきることは難しいという現実が、よりはっきりと見えてきます。

「性加害に関するアンテナや感度を、親御さんはもっと高めてほしい。子どもは、基本的に大人が守らなければならない存在です。制度だけでなく、社会全体で守っていくという意識がより必要です」(斉藤先生)

制度に期待することと、制度に安住しすぎないこと。その両方を意識しながら、私たち自身が子どもを守る主体であり続ける必要があるのだと再認識させられます。

では、制度ではすくい取れない場所で、いま実際にどのような被害が起きているのでしょうか。次回は、斉藤先生が向き合ってきた具体的な事例をもとに、「見えにくい被害」の実態を掘り下げていきます。

取材・文/稲葉美映子

斉藤章佳先生が共著の漫画『10代のための「性と加害」を学ぶ本』(時事通信出版局)。性加害の入り口や背景から、子どもが自分も他人も大切にしながらよりよく生きる「包括的性教育」を漫画でやさしく解き明かす。

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斉藤 章佳
さいとう あきよし

斉藤 章佳

Akiyoshi Saito
西川口榎本クリニック副院長、精神保健福祉士、社会福祉士

専門は加害者臨床で、25年以上にわたりアルコール依存症を中心にギャンブル・薬物・摂食障害・性犯罪・児童虐待・DV・クレプトマニアなどさまざまなアディクション(依存症)問題に携わる。 現在まで治療に関わった性犯罪者の数は3500人以上、小児性犯罪者は300人以上。プログラム・ディレクターとして、性加害者の家族支援も含めた包括的な地域トリートメントに関する実践・研究・啓発活動に取り組んでいる。 著書に『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)、『「小児性愛」という病─それは、愛ではない─』(ブックマン社)、『盗撮をやめられない男たち』(扶桑社)、『子どもへの性加害 性的グルーミングとは何か』(幻冬舎新書)、『夫が痴漢で逮捕されました 性犯罪と「加害者家族」』(朝日新書)、共著に漫画『10代のための「性と加害」を学ぶ本』(時事通信出版局)などがある。

専門は加害者臨床で、25年以上にわたりアルコール依存症を中心にギャンブル・薬物・摂食障害・性犯罪・児童虐待・DV・クレプトマニアなどさまざまなアディクション(依存症)問題に携わる。 現在まで治療に関わった性犯罪者の数は3500人以上、小児性犯罪者は300人以上。プログラム・ディレクターとして、性加害者の家族支援も含めた包括的な地域トリートメントに関する実践・研究・啓発活動に取り組んでいる。 著書に『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)、『「小児性愛」という病─それは、愛ではない─』(ブックマン社)、『盗撮をやめられない男たち』(扶桑社)、『子どもへの性加害 性的グルーミングとは何か』(幻冬舎新書)、『夫が痴漢で逮捕されました 性犯罪と「加害者家族」』(朝日新書)、共著に漫画『10代のための「性と加害」を学ぶ本』(時事通信出版局)などがある。

稲葉 美映子
いなば みおこ

稲葉 美映子

ライター

フリーランスの編集者・ライターとして旅、働き方、ライフスタイル、育児ものを中心に、書籍、雑誌、WEBで活動中。保育園児の5歳・1歳の息子あり。趣味は、どこでも一人旅。ポルトガルとインドが好き。息子たちとバックパックを背負って旅することが今の夢。

フリーランスの編集者・ライターとして旅、働き方、ライフスタイル、育児ものを中心に、書籍、雑誌、WEBで活動中。保育園児の5歳・1歳の息子あり。趣味は、どこでも一人旅。ポルトガルとインドが好き。息子たちとバックパックを背負って旅することが今の夢。