【不登校という選択】 小中学生・不登校35万人時代 子ども・親・学校はどこへ向かうの? 有識者・著名人が徹底的に考えた
【不登校】2024年 大きな反響を呼んだ記事8選をハイライトで
2024.12.28
実は小島さん自身も過去にSNSで非難され、つらかった経験があります。以前、アニメの吹き替えに抜擢されたとき、SNSで「小島よしおなんか使うな!」と書かれ、反対の署名運動まで起きました。
いい気持ちはしなかったものの、そのときは完全にスルーし、結果的にスルーして良かったと語ります。
「僕が応戦していたら、自分の拳も相手の拳も傷つくし、相手は拳のおろしどころがわからなくなったかもしれない。(中略)自分を守るためにも。戦わないっていう戦い方もあると、僕は思います」
SNSで苦しむ子どもたちには、まず自分自身を守ることを最優先に、と語ります。「スルーしても何も変わらない場合は、まわりの大人にも相談して作戦を考えましょう」(小島さん)。
2024年2月に1児のパパとなった小島さん、もし将来、わが子が「学校に行きたくない」と言ったらどうする? という問いにも真剣に語ってくれました。
➡注目記事➡ 小島よしお「非難するSNSとは戦わない わが子に『芸人やめて』と言われたらまず謝る」
6)今こそ学校教育の変革期
認定NPO法人「フリースペースたまりば」理事長の西野博之さんは、1980年代から学校に行けない子どもたち約2000人をサポートし続けた、いわば不登校のプロフェッショナルです。
この40年で不登校に対する風当たりや制度は大きく変わりました。「喜ばしい変化もあった」と前置きしつつも、「不登校30万人時代の今こそ、日本の教育システムの変革期」と西野さんは語ります。
ではどう変わればいいのか、それは学校に行かない子どもたちの声にたくさんのヒントがありました。
「一人一人の『好き』が生かされないのが、学校で続く今の学びの形です。(中略)人は何のために学ぶのかといえば、幸せになるために学ぶのですから。子どもの『命』を社会の真ん中に置いて、教育システムを考え直す必要がある。子ども自身が学びたいことを学びたいときに、学びたいように学べる社会に、変わる必要がある」(西野さん)
まだまだ課題はたくさんあるものの、西野さんはこれからも「大丈夫のタネ」を、社会にまき続けていくと言います。
「大丈夫のタネ」をまくとは、学校に行けずに苦しんでいる子どもには「なんとかなる。“だいじょうぶ”だよ」と伝え続け、学校に行けない我が子を不安に思う親たちには、「僕がまき続ける『大丈夫のタネ』をしっかり受け取り、大事に育ててくださいね」と繰り返し伝えること。
西野さんの「我が子が学校に行かないことを不安に思い悲しむのはもうやめにしましょう」というメッセージをしっかり心に刻んでおきたいです。
➡詳しくはこちら➡ 不登校の子どもたち 1980年代から2000人に寄り添った専門家が説く「根本原因」と将来の姿
7)YouTuber葉一さんの「学校行きたくない」を救った母
勉強指導をする教育系YouTube番組「とある男が授業をしてみた」で、チャンネル登録者数209万人(2024年12月現在)という絶大な人気を誇る葉一さん。実は中学のころ、イジメられて苦しんだ経験があります。
どうにもつらくて「学校を休みたい」と伝えた日、葉一さんは母親の“普通すぎる”接し方にとても救われたと言います。
「母親に『休みたい』と言うと、何も聞かずに『わかった』と休ませてくれました。母もパートが休みだったら、「じゃあ、ご飯食べに行こうか」と言ってくれたりして。学校が普通じゃなかったから、家は普通だったことが私にはとっても幸せでした」
そのとき母親が葉一さんのイジメに気づいていたかどうかは定かではないそうです。それでも家が普通で心地のよい居場所であり続けたことが、当時の葉一少年を大きく救ったのでしょう。
親は学校に行かない子どもを家でどう見守ればいいのか、「学校に行きたくない」と言われたらどう受けとめるべきかを伺いました。
「まずはSOSを受け止めてあげてください。学校が苦しい場所になっているのに、家まで苦しい場所になったら逃げ場がなくなります。高校に入ってからは、人間関係もリセットされて楽しい学校生活を送りました。つらい毎日を送っている子どもたちも、今がずっと続くわけじゃないことは忘れないでほしい」(葉一さん)
子どもとの会話の糸口が見えなくとも、腫れ物のように接する必要はないとも。
「親側も接し方に悩むと思いますが、そこはまず大人側が『普通に接する』という姿勢を見せてあげてください。(中略)不登校の子どもに対して、親が最優先ですべきなのは𠮟咤激励でも悩む姿を見せることでもありません。家の中を安心して過ごせる『普通の場所』にすることです。そうすれば、子どものエネルギーが徐々に充電され、自分の意思と力で行動できるようになっていきます」(葉一さん)
➡注目記事➡教育系YouTuber葉一 「イジメ」に苦しんだ中学時代を救った母親の“普通すぎる”態度
8)「学校に行かない選択」は勇敢な一歩
全国の学校を訪問し、授業や部活など“生の学校現場”を見続けている教育ジャーナリストのおおたとしまささん。これまで不登校に悩む親も多く取材してきました。
学校の良い面も悪い面も熟知しているおおたさんは「学校へ行かない」選択をした子は、自分自身を守る“勇敢な第一歩”を踏み出したと言います。そんな子どもがまず最初にやっておくべきことは、親をあきらめさせること。
なぜならば、親は「学校に行かせなきゃ」という強迫観念を捨てることで、初めて子どもと向き合えるし、さらに親も次の一歩を踏み出すことができるからです。
「今のキミは、キミにしかできない貴重な経験をしている。キミにしか見えない風景を見ている。それはいつか必ず役に立つ。キミの大きな武器になってくれる。(中略)不登校になったからといって、キミはキミのままだ。何もあきらめなくていい。幸せになる方法は無限にある」
と今悩んでいる子どもたちへ力強いエールを送ります。また子どもの不登校で戸惑う親には、「できることはほとんどありません。子どもが骨折したときに、親が骨をくっつけてあげられないのと同じ」とバッサリ。
かといって子どもをほうっておけというわけでもありません。学校へいけなくなった子どもは、広い意味で傷ついた状態にあり、エネルギーが空っぽで元気がない。まずはゆっくり休んでエネルギーを回復させるのが最優先で、そのときに欠かせないのが「お父さんやお母さんは、今までと変わらずに自分のことをそのまま見ていてくれる」という安心感が必要だと言います。
中学受験に関する著書も多数のおおたさんですが、中学受験も不登校も「親は結局、待つことしかできない」とも。
待つだけとは親にとってつらくもどかしい時間かもしれません。そんなときは「親の会」のようなところとつながって、同じ境遇の親と話すことで、気持ちがラクになる、心の余裕を作る意味では大きな意味があるともアドバイスしています。
また、子どもを見守る姿勢は正面から見るのでなく、横顔を見るぐらいがちょうどいいとヒントをくれました。
「横顔はちょっと油断しているので、その子のありのままの内面が映し出されます。この子なりに必死に戦ってる様子は真正面からだと見えてこないんですよね」
親もオロオロと動揺していい、でも、悩みはしても悲観する必要はないと言いきります。
「学校に行こうが行くまいが、あなたの子どもが素晴らしい存在であり、未来に無限の可能性が広がっていることには、まったく変わりないんですから」(おおたさん)
➡注目記事➡ 不登校のキミへ…「親にあきらめてもらうことが大切」 教育ジャーナリスト・おおたとしまさの助言
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いかがでしたか。当たり前のことですが、不登校の子どもの数だけ「学校へ行けない」理由があり、原因も立ち直り方も、元気になる時期もさまざま。「これをやれば絶対大丈夫!」といった正解はありません。たくさんの有識者や著名人のメッセージを紹介しましたが、今悩んでいる子どもと親へ、この話の中のひとかけらでも何か響くものがあればと願っています。
最後に不登校の取材で多くの方々が口をそろえて言っていたのが、「不登校の経験は決してマイナスにならない」ということ。子どもはもちろん、親にとってもです。
不登校をなげく時代はもう終わりつつあるとも強く感じます。学校に行けないわが子のことで、不安や怒り、悲しみにおそわれる日、これらの記事をふと読み返してみると、新たなヒントが見つかるかもしれません。
文/谷崎八重