誰もが胸を張って生きていける社会へ 自閉症の息子のニーズを追い求めた先に見えてきたもの

GAKUが自閉症アーティストになるまで #3 アイムの放課後等デイサービス「エジソン高津」

好きを見つけたら変わることができる

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がっちゃんの創作活動をサポートするCoco(ココ)さんは、がっちゃんの初めての展示会のことを思い出して、こう話します。

Cocoさん:展示会の初日のレセプションで、お客さんに自分の絵を披露したときのがっちゃんの顔は一生忘れることができません。彼はきっと、今まで褒められるよりも、𠮟られて、注意されて怒られて……っていう経験が圧倒的に多かったんですよね。でも、自分が描いた絵をみんなに見てもらって「すごいね、すごいね」って褒められた。そこで、彼の自己肯定感というか、生きていく自信がグッとついたんじゃないかなと思うんです。本人も、「僕はこれでいける」って感じたと思います。

自閉症や知的障害の子たちも、上手く言語化できないだけで、きっとたくさんの不安を抱えているはず、とCocoさん。

Cocoさん:私が出会ったときの16歳のがっちゃんは、成長期でもあり、「大きくなったら僕は一体どうなっちゃうの」って不安定な時期だった。でも、絵を描くことを知り、それが自分の生きる軸になっていくのがわかり、最近は落ち着いた知的な顔になってきたんです。人って、好きな気持ちがあって自信がつけば変わるんだなと思いましたね。

だから、できないことばかりをリストアップしたって仕方がない。こちら側が環境を変えることで「できないこと」への対応をしていけばいいだけなんですから。

GAKU初期のころの作品。「エジソンのハッピーなスタッフが、ハッピーな環境を生み出し、そんな中から、GAKUの絵は生まれる」と典雅さん。  撮影:葛西亜理紗

「好きなことを続けて、強いところを伸ばして感性に変える」というのが、典雅さんのアイムの生徒たちへの願いでもあります。

典雅さん:絵という生きる武器を見つけたがっちゃんのように、それぞれが言葉やコミュニケーションの代わりとしての手段を見つけられたらと思っています。

障害があるなしに関わらず、自分のアイデンティティーは、自分で作っていくもの。自閉症というフレームがなくても、彼の絵を気に入って買ってくれる人が世界にたくさんいたし、がっちゃんは絵を通して、自分のアイデンティティーを見つけることができた。一人一人にそれができたら、社会の中でのポジショニングが明確になるでしょう。

アイムの本社にて。コラボレーションしたバッグが一面に並びます。  撮影:コクリコ

がっちゃんの成長に合わせて一生涯のインフラを作る

がっちゃんやアイムの子どもたちには、将来があります。障がいを持った彼らがこれから先の長い人生をどう過ごすのかは、福祉の世界でもあまり踏み込んだ議論がされてきませんでした。

典雅さんの次の課題は、自分たち親が亡くなった後も、がっちゃんが生活に困らない仕組み作りです。障害者を持つ家族にとって、自分が亡くなった後の生活やお金の心配はつきもの。典雅さんは、親亡き後の障害者の「お金の管理」をワンストップで受け付ける、アイムパートナーズという仕組みを作りました。

典雅さん:これからどれだけがっちゃんのために貯金をしたとしても、彼がお金を引き出して自分で使うことはできない。だから、大事なのは仕組み作りだと思ったんです。

さらに次のフェーズの話をすると、がっちゃんはこのままだと普通のグループホームには入れないことがわかりました。彼の面倒を誰が見るのか、何人で見るのか。現状の福祉が定める単価だとかなり難しい。

それでも、いかに新しい理想的な仕組みをとることができるのかを今考えています。自閉症児が大人になっても、家に引きこもることなく、楽しく生活を続けられるインフラを生涯を通して作っていきたいと思っています。

屈託なく笑うがっちゃんのキュートな笑顔。みんなに愛されるのも、がっちゃんの才能のひとつです。  撮影:葛西亜理紗

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自閉症のがっちゃんのニーズを満たし続ける活動が、同じ境遇にある自閉症児とその家族のニーズを満たすことにつながると信じる、典雅さん。常に新しい視点を持ち、「どうやったら楽しめるのか」を考えて、閉じこもりがちな福祉の世界を明るくこじ開けていく佐藤親子の生き方からは、学ぶことが多くあります。

障害を持った子が、自分の世界に閉じこもることなく、それぞれ好きなことをして胸を張れる社会になることを願っています。

取材・文/遠藤るりこ
協力/アップルシードエージェンシー

自閉症アーティスト・GAKUくん連載は全3回。
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3年ぶりとなるGAKUの個展が開催決定!
2024年1月19日(金)~28日(日)、二子玉川ライズホールにて。
440平米の広大な空間に原画120枚を展示予定。

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さとう のりまさ

佐藤 典雅

Sato Norimasa
株式会社アイム代表

株式会社アイム代表。BSジャパン、ヤフージャパン、東京ガールズコレクション、キットソンのプロデューサーを経て、自閉症である息子のために福祉事業に参入。神奈川県川崎市で発達障害の児童たちの生涯のインフラ構築をテーマに活動、放課後等デイサービスやグループホームを運営している。著書に『療育なんかいらない!』(小学館)、『GAKU,Paint! 自閉症の息子が奇跡を起こすまで』(CCCメディアハウス)がある。 2001年生まれの長男・佐藤楽音(GAKU)は、自閉症アーティスト。 株式会社アイム:http://imhappy.jp https://bygaku.com/

株式会社アイム代表。BSジャパン、ヤフージャパン、東京ガールズコレクション、キットソンのプロデューサーを経て、自閉症である息子のために福祉事業に参入。神奈川県川崎市で発達障害の児童たちの生涯のインフラ構築をテーマに活動、放課後等デイサービスやグループホームを運営している。著書に『療育なんかいらない!』(小学館)、『GAKU,Paint! 自閉症の息子が奇跡を起こすまで』(CCCメディアハウス)がある。 2001年生まれの長男・佐藤楽音(GAKU)は、自閉症アーティスト。 株式会社アイム:http://imhappy.jp https://bygaku.com/

ココ

Coco

アートディレクター

アートディレクター。パリコレ参加メゾンのデザイナーとして30年以上ファッション業界で活躍。身内に障害者がいたことから、セカンドキャリアとして障害に関わる仕事を望み、アイムに入社。 自閉症アーティスト・GAKUと出会い、GAKUのアート活動をサポートする。 https://bygaku.com/

アートディレクター。パリコレ参加メゾンのデザイナーとして30年以上ファッション業界で活躍。身内に障害者がいたことから、セカンドキャリアとして障害に関わる仕事を望み、アイムに入社。 自閉症アーティスト・GAKUと出会い、GAKUのアート活動をサポートする。 https://bygaku.com/

えんどう るりこ

遠藤 るりこ

ライター

ライター/編集者。東京都世田谷区在住、三兄弟の母。子育てメディアにて、妊娠・出産・子育て・子どもを取り巻く社会問題についての取材・執筆を行っている。歌人・河野裕子さんの「しつかりと 飯を食はせて 陽にあてし ふとんにくるみて寝かす仕合せ」という一首が、子育てのモットー。 https://lit.link/ruricoe

ライター/編集者。東京都世田谷区在住、三兄弟の母。子育てメディアにて、妊娠・出産・子育て・子どもを取り巻く社会問題についての取材・執筆を行っている。歌人・河野裕子さんの「しつかりと 飯を食はせて 陽にあてし ふとんにくるみて寝かす仕合せ」という一首が、子育てのモットー。 https://lit.link/ruricoe