小学生の症例付き 「子どもが漢方薬をのんでくれない……」専門医が教える対処法

子どもに漢方薬を飲ませるときのアイデア 親子のための漢方医学レッスン #3

漢方薬の効果を最大限に引き出すコツ

漢方医学というと漢方薬が治療のメインと考えがちですが、草鹿砥先生は薬よりももっと重要なことがあるといいます。それが漢方薬の効果を最大限に引き出します。

「『心身一如(しんしんいちにょ)』(#1を読む)という哲学と同じくらい、漢方医学では『養生(ようじょう)』という考え方が重要です。

漢方医学でいう養生とは、食事や運動など、生活上の注意を守って過ごすことです。漢方医学は漢方薬がメインと捉えている方が多いのですが、養生は漢方薬の効果を最大限に引き出すための鍵であり、むしろこちらのほうが漢方医学にとっては大切だといえるでしょう。

例えば、水様性の下痢が続いているので体を温めるような漢方薬を処方された場合、子どもがアイスが好きだからといって毎食後、それを食べさせていたら漢方薬は効きません。

これは漢方薬を利用する大人にもいえることで、冷えを指摘されたり自覚していたりするのであれば、冷えに対して生活に工夫を凝らすことが大切です。つまりこれが養生です。

体を温める漢方薬を処方されたのなら、冷たい食べ物や飲み物を控えて温野菜やシチュー、鍋を食べるといったことから、温かいお風呂に長く浸かるといったことまで、ひとつでもふたつでも温かくする工夫を取り入れましょう。

そして体を冷やす原因をひとつでも排除していきましょう。この工夫が漢方薬の効果を最大限に引き出します。

西洋医学の薬は病気そのものをターゲットにしていますが、漢方医学の漢方薬は、病気と闘う体の抗病力(こうびょうりょく)を引き出すための処方です」(草鹿砥先生)

漢方医学では「未病(みびょう)」といって、なんとなくの不調から本当の病気に発症しないように、予防あるいは次に起こる病態を予想して未然に防止しよう、という考えがあります。

この拠り所となるのが、病気と闘える体=抗病力であり、抗病力を導くベースが養生です。

漢方医学は漢方薬がメインではなく、むしろその効果を最大限に引き出すための「養生」が重要です。 写真:アフロ

小学生の実例! 漢方医学で対応した病気の初診から終わりまで

ここまで漢方医学の特徴や漢方薬周辺のことを解説してきましたが(#1#2を読む)、診療のプロセスも具体的に知りたいところ。草鹿砥先生が対応した実際の例を紹介します。

ある女の子の症例
患者:小学校低学年の女児

来院の理由:腹痛(反復性)、発症は2ヵ月前から

初診から終診までの期間:約2週間に1回、計8回の診療。所要期間は4ヵ月

これはコロナ禍で経験した低学年の女の子の症例です。その子は、腹痛があるといって親御さんと一緒に来院されました。

最初の問診で腹痛の詳しい状況を聞いてみると、朝になると腹痛が起こるけれど夕方くらいからは痛みも治り、普通にご飯も食べられて睡眠も十分に取れるとのことでした。しかも、休日には腹痛が起こらないとも話してくれました。

西洋医学的診察では早急に検査や高次医療機関の紹介は必要なさそうだったので、親御さんに漢方医学的アプローチを提案し、ご了解をいただいたので漢方医学での診療を始めました。

心身一如で考え方のもとで女の子を診ていくと、女の子の不安がその顔貌とたたずまいからありありと伝わってきました。初診時から彼女の学校生活に何かしらの問題が潜んでいると感じました。

しかし、最初からその不安は何に起因するのか? などの疑問を掘り下げてしまうと態度を硬化させる子どももいます。そのため当初は、「お腹が痛い」にクローズアップして対処することにしました。

処方したのは小建中湯(しょうけんちゅうとう)(#2を読む)です。腹痛などの腹部症状に頻用される漢方薬ですが、その甘い味が精神的ストレスも和らげてくれます。

腹痛の本当の理由を聞いたのは、約2週間に1度の診療を3~4回重ねたタイミングです。子どもの口から、毎日マスクをしているので、友達や先生の表情が見えなくて不安になり、学校に行くのが苦痛だ、楽しくないと話してくれました。

漢方医学の治療としてはその後も小建中湯を処方しつつ、彼女の不安を取り除く会話(セッション)を続けました。その結果、自分の症状がなぜ現れたのか、そしてなぜ反復したのかを本人と親御さんが充分に理解したことで、徐々に腹痛症状が気にならなくなってきました。

初診から4ヵ月後の診察時に、彼女に笑顔が戻っていました。診察室での会話にもぎこちなさは消え、親御さんと微笑んでいます。

これをみて私から「漢方薬まだ続けていたほうが安心?」と問いかけたところ、「もういいかも」と即答されました。親御さんからも「一緒に頑張っていけそうです」という心強い言葉も返ってきたので、めでたくクリニック受診から卒業していきました。

漢方医学は子どもの心の問題にもアプローチしてくれる

漢方医学は心身一如の哲学のもと、養生と漢方薬で子どもの心の問題からくる病気にも向き合ってくれます。とはいえ、心の問題に焦りは禁物です。

前述の例のように、漢方医学に通じている医師は何度もセッションを重ねたのちにようやく子どもに近づきます。背景にいじめなど、精神的に大きなストレスを抱えている場合はさらに慎重に取り組んでいきます。

草鹿砥先生は心の問題に関しては、漢方薬でサポートはしていくものの、親子の会話なども子どもの症状を改善に導くエッセンスだとアドバイスします。それは養生のひとつであり、包括的に不調を改善に導く漢方医学の強みともいえるでしょう。

子育てでつまずいたとき、漢方医学というツールを知っておくことは大変有効です。

病気そのものだけでなく、心の問題へもアプローチすることができますから、子どもの様子で不安を抱いたり、別の角度から症状に向き合ってみたいと思ったりした場合は、漢方医学を選択してみるのも手でしょう。

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草鹿砥 宗隆(くさかど むねたか)
小菅医院・横浜朱雀漢方医学センター勤務、現副院長。日本小児科学会専門医。日本東洋医学会漢方専門医・指導医。日本小児科医会(子どもの心相談医)、日本小児内分泌学会、日本小児東洋医学会所属。山梨医科大学小児科学講座、聖マリアンナ医科大学小児科学講座を経て、2007年から現職。東邦大学医療センター佐倉病院漢方診療科客員講師、2022年4月から横浜市金沢区の青木こどもクリニック、はまかぜこどもクリニックの非常勤医師として小児科診療に携る。5施設の保育園嘱託医。

【主な共著や監修書】
『こども漢方』(源草社)


取材・文/梶原知恵

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くさかど むねたか

草鹿砥 宗隆

Munetaka Kusakado
小児科医・漢方専門医

小菅医院・横浜朱雀漢方医学センター勤務、現副院長。日本小児科学会専門医。日本東洋医学会漢方専門医・指導医。日本小児科医会(子どもの心相談医)、日本小児内分泌学会、日本小児東洋医学会所属。 山梨医科大学小児科学講座、聖マリアンナ医科大学小児科学講座を経て、2007年から現職。東邦大学医療センター佐倉病院漢方診療科客員講師、2022年4月から横浜市金沢区の青木こどもクリニック、はまかぜこどもクリニックの非常勤医師として小児科診療に携る。5施設の保育園嘱託医。 【主な共著や監修書】 『こども漢方』(源草社)

小菅医院・横浜朱雀漢方医学センター勤務、現副院長。日本小児科学会専門医。日本東洋医学会漢方専門医・指導医。日本小児科医会(子どもの心相談医)、日本小児内分泌学会、日本小児東洋医学会所属。 山梨医科大学小児科学講座、聖マリアンナ医科大学小児科学講座を経て、2007年から現職。東邦大学医療センター佐倉病院漢方診療科客員講師、2022年4月から横浜市金沢区の青木こどもクリニック、はまかぜこどもクリニックの非常勤医師として小児科診療に携る。5施設の保育園嘱託医。 【主な共著や監修書】 『こども漢方』(源草社)

かじわら ちえ

梶原 知恵

KAJIWARA CHIE
企画・編集・ライター

大学で児童文学を学ぶ。出版・広告・WEB制作の総合編集プロダクション、金融経済メディア、外資系IT企業のパートナー会社勤務を経て現在に。そのなかで書籍、雑誌、企業誌、フリーペーパー、Webコンテンツといった、さまざまな媒体を経験する。 現在は育児・教育からエンタメ、医療、料理、冠婚葬祭、金融、ITシステム情報まで、各媒体の企画・編集・執筆をワンストップで手がけている。趣味は観劇。特技は長唄。着付け師でもある。

大学で児童文学を学ぶ。出版・広告・WEB制作の総合編集プロダクション、金融経済メディア、外資系IT企業のパートナー会社勤務を経て現在に。そのなかで書籍、雑誌、企業誌、フリーペーパー、Webコンテンツといった、さまざまな媒体を経験する。 現在は育児・教育からエンタメ、医療、料理、冠婚葬祭、金融、ITシステム情報まで、各媒体の企画・編集・執筆をワンストップで手がけている。趣味は観劇。特技は長唄。着付け師でもある。