「世界一子どもが幸せな国」オランダから学ぶ 日常の中の“多様性&フレキシビリティ”
海外の子ども・生き方がわかる! 世界の子育て01「オランダ」前編 親から子へ幸せの連鎖の理由
2021.06.25
女性の就業率30%台から70%超まで伸ばした 国を挙げての働き方改革
フレキシビリティは、オランダ人の働き方にも色濃く表れています。
1950~80年代のオランダは、女性の就業率が32~37%とヨーロッパの中で、もっとも低い国の1つでした。
「オランダは、女性の社会進出がヨーロッパの中で早い国とは言えず、1980年代まで、結婚したら家庭に入る女性が多く存在しました。しかし、1982年に『ワッセナー合意』が取り決められ、社会に変化が生まれました」(ペータス全権公使)。
「ワッセナー合意」とは、失業率の悪化に直面したオランダで、労働組合と政府、経営者の代表が話し合い、取り決められた協定です。
●労働組合は、賃金上昇の抑制
●政府は、社会保障給付を抑える一方で、減税の実施
●経営者は、ワークシェアリングを導入して雇用を確保
上記3点を柱とし、事態の打開を目指しました。
その後、「オランダモデル」と呼ばれる働き方改革も推進した結果、フルタイム(週5日勤務)で働く人と、パートタイム(週35時間 以下の勤務)で働く人の待遇格差を禁止する法律が定められる等、労働環境が大きく変わったそうです。
「まず、国民の働き方への考え方が激変しました。
働き方改革では、女性を中心にパートタイム労働者が急増。最近は、女性労働者の約75%がパートタイムだとのデータもあり、女性の就業率も73.9%(2020年、15~65歳を対象にした、オランダ中央統計局による調査)という結果が出ています」(ペータス全権公使)。
社会の多様性とフレキシビリティが親から子へ幸せの連鎖を生む
働き方改革が進んだ結果、男女ともに週3~4日勤務の労働者が増え、現在ではその勤務体制が国民の主流だといいます。
「特に子育て中の共働き夫婦は、週4日もしくは週3日勤務を選び、平日に休む人が多いです。オランダの小学校は水曜日の午後が休みなので、水曜日を休みにして、子どもと過ごす時間を作っているのでしょう。
コロナ禍以前から、テレワークも普及しています」(ペータス全権公使)
労働者に寄り添った法の制定や、フレキシブルに働ける環境の整備で、出産後の離職者の割合が減少し、1997年に25%だったのが、2005年には11%になったというデータもあります。
労働者がフレキシブルな働き方ができる一方で、子どもや家族と過ごす時間が充実しているために、パートタイムからフルタイムへ戻る労働者の減少、世帯収入の低下等、課題はないのでしょうか?
「週3~4日勤務を選ぶ人は男女問わず、子育てのためだとか、夫婦そろってフルタイムで働かなくても経済的に十分だとか、理由はいろいろですが、いずれにしても働く人が自ら選んだことです。
ただ、誤解していただきたくないのは、働く側と同じく雇用側にも権利があります。働く側もしっかりと成果を残し、雇用側から求められる人材であることが必須です。競争社会であることには、変わりありません」(ペータス全権公使)。
「子どもが世界一幸せな国」との評価は誇らしいけれど、正直なところ、国民はあまり意識していないかもと笑うペータス全権公使。それでも客観的に、オランダが「子どもが世界一幸せな国」と言われる理由をこう分析します。
「オランダは、『ワークライフバランス世界一』とも言われています。
雇用側との交渉や、仕事の結果を残す努力は個々で必要ですが、働く人が労働時間を選べることや同一労働同一条件の実現、男女問わず多様な働き方が認められていることが、その評価につながっているんだと思います 。
大人(親)が幸せだから、子どもも幸せなのではないでしょうか」(ペータス全権公使)。
家族優先の人もいるし、キャリア志向の人もいる。その多様性を認め合いながら、個々の幸せを見つけよう。オランダ国民の根底には、そういった意識が強く根づいているようです。
自分らしくいられる環境づくり、自分の幸せを実現しようとしている親の姿に、子どもは居心地のよさを感じるのかもしれません。
次回は、LGBTQ先進国であるオランダらしい教育や、オランダにはクリスマスが2回来る!? という噂に迫ります。
※「世界の子育て オランダ編」の記事は全2回。次回は21年7月2日9:00〜公開です(公開日時までリンクは無効)。
第2回「オランダの性教育は5歳から! 「LGBTQ先進国」の多様性・個人の尊重」とは?
阿部 真奈美
ライター。1976年生まれ、宮城県在住。旅情報誌やグルメ記事、インタビュー記事を中心に執筆。 韓国への留学経験を生かし、最近はゲームのシナリオ翻訳も手がける。好物はトウモロコシ。
ライター。1976年生まれ、宮城県在住。旅情報誌やグルメ記事、インタビュー記事を中心に執筆。 韓国への留学経験を生かし、最近はゲームのシナリオ翻訳も手がける。好物はトウモロコシ。