「無痛分娩」体験者の肉声…「出産の痛み無くていい」社会はいつ来る?

無痛分娩を希望する時の大事なポイント

髙崎 順子

今の日本で実際に無痛分娩で出産した人々は

この記事のため、コクリコ編集部では近年無痛分娩で出産した女性たちにヒアリングを行いました。その大半が、無痛分娩を選んで「満足している」と回答。

千葉県在住の石出未来さんは「痛みの軽減があったおかげで、落ち着いて出産ができました」と語ります。

「実は途中で麻酔が切れ、激しい痛みがありました。それを思い出すと、とてもじゃないけれど最後まで正気で耐えられたと思えません。赤ちゃんが少しずつ出てくるたびに、お腹がぐうっと圧迫される感覚は、無痛分娩でないとはっきり覚えていられなかったと思います」

大阪府在住の山崎由希子さんは、第一子出産の際の陣痛と出産の痛みが強すぎた経験から、第二子の出産では無痛分娩を選びました。

「1人目の産後に、なかなか体力が戻らず苦労したこともあります。2人目の出産では、上の子のお世話などを考慮して、できるだけ体力を温存しておきたいと。無痛分娩の間は精神的に落ち着いて過ごせて、陣痛に対してもしっかりいきめて、産まれる瞬間を感じられて感動しました。1人目のときは痛みが強すぎて半分パニックになり、ほとんど覚えていられなかったので……」

産後の体調も1人目の出産のときと全く違い、体力や気力が十分残っていたと、山崎さんは実感しています。

無痛分娩を希望する際の注意点は?

現在、出産費用をカバーするための「出産育児一時金」の増額が政府内で議論されています。今の日本は、以前に比べて少しずつ、無痛分娩が選びやすくなっている、と言えそうです。

無痛分娩に関心がある人には、まず公開されている情報をよく見てほしい、と田辺先生は言います。

「産科麻酔のプロである麻酔科医が働いている施設なら、ぜひお任せするとよいかと思います。そして産科医にも、驚くほど麻酔の上手な先生方がいらっしゃる。無痛分娩の麻酔は特殊なので、情報を多く調べてほしいです」

また出産を控えた家族には、陣痛の痛みを理解して、産む人の不安や恐怖に寄り添ってほしい、とも。

「家族の方にはどうか、出産の痛みを自分ごととして考えてほしい。『鼻の穴からスイカがまるごと出てくるようなもの』という例えがありますが、陣痛はそんな強烈な痛みが一瞬ではなく、時間が経つほど強くなって10時間以上続きます。そして産む本人には、『無事に産めるかどうか』の不安もあることを、忘れずにいてあげてください」

麻酔があってもなくても、どちらもお産

インタビューの最後に田辺先生は、「無痛でも自然でも、どちらも等しく出産です」と語ってくれました。

「無痛分娩と自然分娩は、二項対立で考えるべきものではありません。出産が安全に終わるかどうかは結果論で、無痛分娩にも自然分娩にもリスクはあり、そのリスクは比べられるものではない。

そしてどんな出産であっても、助産師をはじめとした医療従事者は全力でサポートします。無痛でも自然でも、お産の際にはどうぞ、安心して助産師を頼ってくださいね」


産む施設が多様で、文化的に痛みに価値をつけてきた背景がある、日本のお産。地域や家庭の事情によって選択の幅は大きく変わり、「希望する人は、誰もができる」という状況になるのは、まだしばらく先でしょう。

産む本人の希望が一番に考えられ、国内のどこであっても安全安心なお産ができるように。まずは「お産の痛み」について、社会全体で見つめ直すべきときが来ているのではないでしょうか。

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たかさき じゅんこ

髙崎 順子

Junko Takasaki
ライター

1974年東京生まれ。東京大学文学部卒業後、都内の出版社勤務を経て渡仏。書籍や新聞雑誌、ウェブなど幅広い日本語メディアで、フランスの文化・社会を題材に寄稿している。著書に『フランスはどう少子化を克服したか』(新潮新書)、『パリのごちそう』(主婦と生活社)、『休暇のマネジメント 28連休を実現するための仕組みと働き方』(KADOKAWA)などがある。得意分野は子育て環境。

1974年東京生まれ。東京大学文学部卒業後、都内の出版社勤務を経て渡仏。書籍や新聞雑誌、ウェブなど幅広い日本語メディアで、フランスの文化・社会を題材に寄稿している。著書に『フランスはどう少子化を克服したか』(新潮新書)、『パリのごちそう』(主婦と生活社)、『休暇のマネジメント 28連休を実現するための仕組みと働き方』(KADOKAWA)などがある。得意分野は子育て環境。