「おさる」を30年描く童話作家 今度の「おさる」は「他者の受け入れ」 子どもが多様性を受け入れるには「好奇心」が必要

いとうひろしさん『おさるのしま』刊行記念インタビュー

ライター:山口 真央

答えの出ないことを考えるのが大好き

「おさる」シリーズの7作目に描かれた『おさるのもり』。
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──「おさる」シリーズは、かわいいおさるのイラストとシンプルな文章で、児童文学が初めての子どもでも読みやすい作品です。なのに、大人が読んでも楽しめる深みがあります。

いとう:「おさる」シリーズでは、その時の「自分」の関心事を中心とした作品をたくさん書いてきました。

『おさるのもり』では「今はどこにあるのかわからないけれど、どこかに絶対ある大切なものと、それを思う時のモヤモヤした気持ち」についてテーマに書きました。木に登れなかったおさるが、蛇に驚いたきっかけで登れるようになります。でも、きっかけになった蛇はどこかへ行ってしまい、会うことができません。

私たちの人生でも、ある期間に影響を受けた人が、今はどこにいるかわからないこと、ありますよね。そのきっかけは重大なことのようで、意外と流動的で、摑みどころのないもの。

どこにあるのかわからないけれど、思い出につながる物や人、場所、それを思う気持ちの大切さを描いたのですが、この本の感想文で賞をとった小学生が書いていたのは、「きっかけが大事」という内容でした。それでもいいと思うんです。

僕はこういった答えが出ないことを、ああでもない、こうでもないと考えるのが大好き。そうしてたどり着いた「いいな」と思う考え方や価値観を、なるべく丁寧に書くようにしています。

夕日を見て綺麗と思うのはなぜ?

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