0歳から貧困・虐待でグレた末に国立大合格 「大人全員死ね」だった僕を支えたGTO

ひとり親限定トークアプリ「ペアチル」#2~開発までの歩み~

一般社団法人ペアチル代表理事:南 翔伍

5歳のころの南翔伍さん。0歳から虐待を受け、幼少期の写真で笑っているのは数少なく貴重だという。  写真提供:南翔伍

ひとり親の孤独解消を目指して、ひとり親(または過去にひとり親だった方)限定のトークアプリ「ペアチル」が、2023年6月にリリース。DL数は同年12月で2000を超えています。

親子の年齢や住まいなどの基本情報と、利用者が自由に設定できる“境遇タグ”をもとに、似た境遇のひとり親同士をマッチング。相談や雑談、励まし合いからグチり合いまで気軽にできると評判です。

この「ペアチル」を開発したのは、自身も貧困母子家庭の出身という一般社団法人ペアチル代表理事の南翔伍(みなみ・しょうご)さん。

父から暴力を受け続け、非行に走ったどん底の日々から“グレートティーチャー南”を目指して国立大へ、そして起業と「ペアチル」開発までの道のりを伺いました。

※2回目/全3回(#1を読む

●南 翔伍(みなみ・しょうご)PROFILE
一般社団法人ペアチル代表理事。山梨大学教育人間科学部生活社会教育コース卒業。小・中学、高校、特別支援学校の教員免許を取得。IT企業、発達障害者の就労支援、養育費未払い問題の解決に取り組む事業に携わったのち、2022年に一般社団法人ペアチル設立。自身の経験とテクノロジーを掛け合わせて、ひとり親が抱える問題の解決に挑む。

話を聞いた一般社団法人ペアチル代表理事の南翔伍さん。  Zoom取材にて

0歳から虐待を受け続け小2から非行

「僕はいわゆる貧困家庭に生まれ、0歳のころから母と一緒に、父から暴言・暴力を受けていました。僕が何か話してもすぐボコボコにされるので、父には何も言えずおびえる日々。母は必死に守ってくれて、励まし合いながら、ギリギリ生きていたような感じです」(南さん)

南さんの両親は、南さんが2歳のときに離婚したものの、4歳でよりを戻し再婚したと言います。けれども南さんが16歳のとき再び離婚し、南さんは母親に引き取られました。

母親からは愛情を受けている実感がありましたが、日々父親からの暴力を受けるうちに「こんな家に生きていても」「人生どうなってもいい」と考えるようになり、小学2年生ごろから非行に走るようになります。「早めにこじらせてしまいましたね」と笑う南さん。

「ただただ消耗するような日々のなかで、万引きや喧嘩で味わうスリルが唯一、生きていると思える感覚でした。お天道様に顔向けできないこともたくさんしました。

でも、どんな悪さをしても母は『若いからしゃーない』と怒らなかった。母は元レディースの総長なので、僕がやっていたことなんておままごとに見えていたのかもしれません」(南さん)

「とても強い母だった」としながらも、夜、ひとり泣いている姿を見ることもあり、「無理をさせているとずっと感じていた」と南さん。

何かしてあげたいけれど、何もできていない──。当時のくやしさを晴らし、母親への恩返しをしたい。そして過去の母親のような状況にあるひとり親の力になりたいという強い思いが「ペアチル」の根っこにはあります。

血のにじむような努力で「俺はGTMになる」

中学に入っても非行の道を進み続ける南さん。ろくに授業も出ず「成績は最悪」でしたが、なんと最後はオール5で中学を卒業。さらに中学・高校ともに生徒会長をつとめ、国立大学へ進学します。

大きなターニングポイントは中学3年生のとき。2つの出来事がきっかけでした。1つめは、三者面談です。

「僕の身内では、地元でもっとも偏差値の低い定時制高校に進学し、中退して鉄筋屋をやるパターンが多いのですが、中3のときに、その高校にすら行けないと担任から告げられました。

さすがの母も顔面蒼白。これまで見たことのない、魂の抜けたような母の顔を見て、『もうこれ以上、迷惑かけられない』と強く思ったんです」(南さん)

2つめは、南さんの“人生のバイブル”となった学園漫画『GTO』(ジーティーオー/著:藤沢とおる/講談社)との出会いです。

「主人公である元暴走族の高校教師・鬼塚の姿に、『こんなにかっこいい大人がいるのか』と衝撃を受けました。当時は、『大人全員死ね』と思っていましたから。

こういう大人になりたいと思える姿を見つけられたことが、生きる希望につながった。グレート ティーチャー オニヅカこと鬼塚を目標に、『俺はグレートティーチャー南になる!』と、教師になる夢を見つけ、それからは必死に勉強しましたね」(南さん)

「つまんなかったらテメーで楽しくすりゃーいい」

鬼塚の名言を受けて、自分次第でこの日々は、未来は変わるのかもしれないと思えたという南さん。

独学で猛勉強を開始したものの、途中、あまりに辛すぎて何度も逃げ出しては母と親友に励まされながら、「まさに、血のにじむような努力をした」と当時を振り返ります。

こうした努力が結実し、無事、公立の進学校へ入学。16歳のときには両親の離婚が成立し、妹と母親と3人での生活がスタートします。

母親の月収は12~13万円とギリギリの生活でしたが、「すごく幸せだった」と南さんは言います。

高校でも、「GTM(グレートティーチャー南)」を目指して一直線。経済的な理由から予備校には行かず、母親が「頑張って買ってくれた」参考書と、学校の教科書だけで猛勉強し、大学受験を突破。

国立大の山梨大学教育人間科学部生活社会教育コースへと進学するのです。

7歳のころの南さんと妹。南さんには6歳下の妹がいる。  写真提供:南翔伍

ゴールは先生ではなかった──ITの世界へ

大学在学中は、授業のサポート等を行う教育ボランティアをはじめ、貧困世帯の子ども向け学習支援や、知的障害・発達障害の子どもが通う放課後等デイサービスで働くなど精力的に活動。不登校・虐待などに悩む中高生と、お寺で語り合ったりする任意団体「心友(しんゆう)」も立ち上げました。

そんな南さんですが、大学3年生時に、卒業後の進路を「教員」から、急きょ「就活」へ切り替えます。

「理由は2つあって、1つ目は、『先生とは、叶えたい夢の手段の一つだった』と気がついたこと。

『学校からはみ出した子どもたちの力になりたい』と一貫して活動していくなかで、彼らには、障害や親子関係、貧困などの問題が複雑に絡み合っていることがわかりました。同時に、それらを解決するためには、学校の先生では限界があると考えたんです。

2つ目は、(GTOと同じ)社会科の教員免許をとったにもかかわらず、教科書のことしか教えられないという怖さを感じていたことです。社会に出ていない僕が、いったい子どもたちのどんな力になれるのだろうかと」(南さん)

こうして東京・渋谷のITベンチャー企業に就職した南さん。なぜいきなり「IT」なのか。それは、「日本全体の社会問題を解決するためには、対面で出会わなくても支援できるモデルが必要だ」と考えたから。

これまでの活動では“目の前にいる子どもたち”の問題に取り組んできましたが、「出会えていない子どもたちを助けるためには、どうすればいいのか」という新たな問いも生まれていました。その解決策として見えてきたのが「IT」だったのです。

ひとり親家庭の親子がハッピーでいるために「ペアチル」を開発

IT企業ではデジタルマーケティングのアナリストに従事し、その後いくつかの会社や事業を経験。そして2020年に入社した会社で、養育費未払い問題の解決に取り組んだ経験が「ペアチル」構想のきっかけとなります。

「養育費未払い問題に取り組むなかで、養育費以外の困りごとについて、実に多くの声が届きました。こんなにもたくさんの問題があるんだと驚きました」(南さん)

また、大学での活動を通して得た気づきも大きく関わっています。

「僕らが提供する『居場所』に子どもたちが来て、笑顔になって帰っても、家庭内がゴタゴタしていれば子どもは再び心が乱れ、また『居場所』へ戻ってくる。そんなままならないサイクルをいつも見てきました。

子どもが幸せになるためには、家の中が一番居心地のいい場所であること。そのために、まずは親の幸福度をあげなくてはいけないと思ったんです。

実際、父と母が離婚してからの母子家庭の時代、貧困だったけど僕はとてもハッピーでした。それは、母から無償の愛を感じていたし、何より母がハッピーだったから。

こうした理由と、僕自身の母親への思いから、ひとり親が抱える問題にフォーカスした『ペアチル』の開発を決めました」(南さん)

貧困、虐待、非行、ひとり親家庭といった自身の原体験とテクノロジーを掛け合わせて、ひとり親が抱える問題の解決を目指した南さん。

「ペアチル」はリリースから半年で2000DLを超え、トークアプリとしてだけでなく、会員限定で日用品などを格安で販売するネットショップを展開するなど、ひとり親家庭を支えるアプリとして今も進化中です。

次回は、「孤独だった人生が明るくなってきた」などの声が届いている「ペアチル」の、具体的な機能について紹介します。

取材・文/稲葉美映子

※ペアチルの記事は全3回(公開日までリンク無効)
#1
#3

●関連サイト
一般社団法人ペアチル
・X(旧Twitter) @parchil_org
・LINE ペアチル
・Instagram ペアチル【公式】ひとり親限定トークアプリ
・note ペアチル_ひとり親限定のトークアプリ運営
・Facebook 一般社団法人ペアチル

みなみ しょうご

南 翔伍

Syogo Minami
一般社団法人ペアチル代表理事

一般社団法人ペアチル代表理事。山梨大学教育人間科学部生活社会教育コース卒業。小・中学、高校、特別支援学校の教員免許を取得。大学在学中から子どもの貧困や障害に関するNPO法人などで精力的に活動。大学3年時には任意団体「心友」を立ち上げ、「人には話しづらい深刻な悩みを抱えた」中高生向けにお寺で語り合う活動を実施。卒業後はIT企業でデジタルマーケティングのアナリストに従事。 発達障害のある大人への就労支援や養育費未払い問題の解決に取り組む事業に携わったのち、2022年に一般社団法人ペアチル設立。貧困・虐待・非行・ひとり親……と自身の経験とテクノロジーを掛け合わせて、ひとり親が抱える問題の解決に挑む。 ・南 翔伍Facebook ・X(旧Twitter) @minami_shiroInc ・note 南翔伍/ひとり親限定のトークアプリ「ペアチル」開発 ・一般社団法人ペアチル公式HP ・Facebook 一般社団法人ペアチル

一般社団法人ペアチル代表理事。山梨大学教育人間科学部生活社会教育コース卒業。小・中学、高校、特別支援学校の教員免許を取得。大学在学中から子どもの貧困や障害に関するNPO法人などで精力的に活動。大学3年時には任意団体「心友」を立ち上げ、「人には話しづらい深刻な悩みを抱えた」中高生向けにお寺で語り合う活動を実施。卒業後はIT企業でデジタルマーケティングのアナリストに従事。 発達障害のある大人への就労支援や養育費未払い問題の解決に取り組む事業に携わったのち、2022年に一般社団法人ペアチル設立。貧困・虐待・非行・ひとり親……と自身の経験とテクノロジーを掛け合わせて、ひとり親が抱える問題の解決に挑む。 ・南 翔伍Facebook ・X(旧Twitter) @minami_shiroInc ・note 南翔伍/ひとり親限定のトークアプリ「ペアチル」開発 ・一般社団法人ペアチル公式HP ・Facebook 一般社団法人ペアチル

いなば みおこ

稲葉 美映子

ライター

フリーランスの編集者・ライターとして旅、働き方、ライフスタイル、育児ものを中心に、書籍、雑誌、WEBで活動中。保育園児の5歳・1歳の息子あり。趣味は、どこでも一人旅。ポルトガルとインドが好き。息子たちとバックパックを背負って旅することが今の夢。

フリーランスの編集者・ライターとして旅、働き方、ライフスタイル、育児ものを中心に、書籍、雑誌、WEBで活動中。保育園児の5歳・1歳の息子あり。趣味は、どこでも一人旅。ポルトガルとインドが好き。息子たちとバックパックを背負って旅することが今の夢。