「一時一事の原則」に本当になっているか?
──「一時一事の原則」で落ち着いて伝えればよいということですね。ほかにも気をつけることがあるでしょうか。
小嶋先生:「一時一事の原則」は、「当たり前のこと」のように見えますが、もう一歩、踏み込んで考えてみたいと思います。
「一時一事」に見えて、実はそうはなっていない、という指示を大人が出しているケースが、けっこうあります。「指示の意味がひとつに絞られている」必要があるのに、そうなっていない場合があるのです。具体的には以下のとおりです。
① 複数の指示が隠れている
冬のある日のこと。ADHD(注意欠如・多動症)がある「サクラさん」が学校に到着しました。担任の先生が声をかけます。
「カバンを置いて準備をしようね」
この事例では、「カバンを置いて準備をしようね」という指示が微妙でした。「準備」という言葉のなかに、「コートを脱いで、カバンの中身を出して、机のなかに入れて……」という、隠れたままの指示(隠れ指示)があったのです。
指示がワンフレーズなら、何でも一時一事になる、というわけではありません。「2つ以上の内容が隠れている指示」は、一時一事ではなくなってしまうのです。
② 最後の言葉やフレーズが残る
算数の授業が始まりました。今日のサクラさんは、授業にしっかり集中できています。ノートを開いてエンピツを持ち、先生の指示を待っています。この授業で先生は、足し算を教えるため、児童に次のように伝えました。
「式がわかりましたね。ノートに書きましょう。13+2ですね」
先生は、「13+2という式をノートに書きましょう」と言いたかったのです。
そこで先に「(式を)ノートに書きましょう」と伝えました。さらにその直後、指示をより明確にしたいと考えたのです。だから「13 +2ですね」と言い足したんですね。これは、配慮としては悪くないですし、一時一事の原則どおりにも見えるでしょう。
ところが、ワーキングメモリが弱い発達障害の子には、「最後の言葉やフレーズが残りやすい」という特性があります。サクラさんの場合、先に言われた「ノートに書きましょう」という指示の記憶が「13+2」という指示で塗り替えられてしまったため、何をすればいいかわからなくなってしまいました。だから、「先生! 何をすればいいですか?」となってしまうわけです。
以上2つの事例と似たようなことが、家でも学校でもしばしば起こっています。一時一事で伝えたつもりなのに、子どもが理解してくれないときは、自分がどんなフレーズで伝えようとしたか、少し振り返ってみましょう。
──今回は、発達特性のある子どもへの「声かけ」のコツを小嶋悠紀先生に教えていただきました。次回は、小嶋先生に「ほめ方」に関するスキルを教えていただき、現場で効果があった「ほめ方」をご紹介します。
取材・文/佐々木 奈々子
小嶋 悠紀(こじま ゆうき)
1982年生まれ、株式会社RIDGE SPECIAL EDUCATION WORKS代表取締役、発達支援コンサルタント、元・小学校教諭。信州大学教育学部在学中に発達障害がある人を支援する団体を立ち上げ、代表を務める。卒業後は長野県内で教員を務めながら、特別支援教育の技術などをテーマに全国で講演を実施。県の保育士等キャリアアップ研修や、幼稚園・小学校・中学校・高等学校・特別支援学校の養護教諭むけの研修なども担当する。直接の指導や支援会議への参加を通じてこれまで2000人をこえる子どもの支援に関わり、センサリーツール「ふみおくん」の開発にも携わった。おもな著作に『発達障がいの子供を教えてほめるトレーニングBOOK』『小嶋悠紀の特別支援教育 究極の指導システム1』(教育技術研究所)など。2023年3月9日に新著『発達障害・グレーゾーンの子がグーンと伸びた 声かけ・接し方大全 イライラ・不安・パニックを減らす100のスキル』(講談社)が刊行。
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小嶋 悠紀
1982年生まれ、株式会社RIDGE SPECIAL EDUCATION WORKS代表取締役、発達支援コンサルタント、元・小学校教諭。信州大学教育学部在学中に発達障害がある人を支援する団体を立ち上げ、代表を務める。卒業後は長野県内で教員を務めながら、特別支援教育の技術などをテーマに全国で講演を実施。県の保育士等キャリアアップ研修や、幼稚園・小学校・中学校・高等学校・特別支援学校の養護教諭むけの研修なども担当する。直接の指導や支援会議への参加を通じてこれまで2000人をこえる子どもの支援に関わり、センサリーツール「ふみおくん」の開発にも携わった。おもな著作に『発達障がいの子供を教えてほめるトレーニングBOOK』『小嶋悠紀の特別支援教育 究極の指導システム1』(教育技術研究所)など。2023年3月9日に『発達障害・グレーゾーンの子がグーンと伸びた 声かけ・接し方大全 イライラ・不安・パニックを減らす100のスキル』(講談社)を刊行。
1982年生まれ、株式会社RIDGE SPECIAL EDUCATION WORKS代表取締役、発達支援コンサルタント、元・小学校教諭。信州大学教育学部在学中に発達障害がある人を支援する団体を立ち上げ、代表を務める。卒業後は長野県内で教員を務めながら、特別支援教育の技術などをテーマに全国で講演を実施。県の保育士等キャリアアップ研修や、幼稚園・小学校・中学校・高等学校・特別支援学校の養護教諭むけの研修なども担当する。直接の指導や支援会議への参加を通じてこれまで2000人をこえる子どもの支援に関わり、センサリーツール「ふみおくん」の開発にも携わった。おもな著作に『発達障がいの子供を教えてほめるトレーニングBOOK』『小嶋悠紀の特別支援教育 究極の指導システム1』(教育技術研究所)など。2023年3月9日に『発達障害・グレーゾーンの子がグーンと伸びた 声かけ・接し方大全 イライラ・不安・パニックを減らす100のスキル』(講談社)を刊行。