岸壁幼魚採集家としてさまざまな活動をしている“令和のお魚王子”こと、鈴木香里武(すずき・かりぶ)さん。
これまでのインタビューでは、子ども時代の話やご両親・恩師とのエピソード、ご自身の仕事観などを伺いました。
最終回となる4回目は、【実践編】として、香里武さんが本業である岸壁幼魚採集の楽しみ方をレクチャー。春・夏に出会える幼魚の魅力についてもお話しいただきます。
鈴木香里武(すずき・かりぶ)PROFILE
岸壁幼魚採集家、「株式会社カリブ・コラボレーション」代表取締役社長、「幼魚水族館」館長。子どものころから魚に親しみ、学習院大学大学院で観賞魚の印象や癒やし効果を研究した後、現在は北里大学大学院で稚魚の生活史を研究。メディアやイベントへの出演、執筆をはじめ、海や魚の魅力を伝えるさまざまな活動を行っている。
漁港は幼魚に出会える絶好のスポット
鈴木香里武さん(以下、香里武さん) 岸壁幼魚採集の舞台は、漁港です。海の中には入らず、“足もとの海”を覗いて幼魚を探し、タモ網ですくって観察する。言ってみれば、壮大な金魚すくいのような作業です。
漁港に限らず、幼魚はどこにでもいるのですが、とにかく体が小さいので、海中に潜ったとしても、よほど慣れている人じゃないと見つけられません。
漁港は一見、人工的に見えますが、長い年月をかけて生きものが住みつき、自然が上書きされたような不思議な環境です。潮や風に流されてきた幼魚がたまりやすい構造ですし、外海が荒れていても穏やかで、隠れ家もエサとなるプランクトンも豊富。漁港は、まさに“幼魚パラダイス”なのです。
まれに住みつく幼魚もいますが、基本は一期一会。流されて、たまたま入ってきた幼魚しか漁港にはいません。だからこそ、毎日違う幼魚に出会える。広大な海の入り口が、足もとにあるのです。
──ロマンがありますね! 海を覗けば、幼魚は見えるのでしょうか?
香里武さん 見えることは見えるのですが、幼魚はほとんどの場合、敵に見つからないように何かに擬態しています。
枯れ葉になったり、岩になったり、はたまた透明になったり……。見破れるようになるまで、僕は20年かかりました(笑)。
初心者の場合は、まず流れ藻(も)を見つけるとよいと思います。流れ藻は夏が近づくと増えてくるのですが、もともとは海中の岩から生えていた海藻がちぎれて、海面に浮かんだもの。幼魚にとって、絶好の隠れ家になります。
流れ藻の端を下からタモ網ですくい、ゆすってみると、タツノオトシゴの幼魚が出てくることも。いちばん手っ取り早い方法です。
1~2時間ほど海を覗いて目が慣れてくると「あ、あれは魚だな」と、だんだんと違和感でわかるようになります。魚を探そうと目を凝らしても、簡単には見つかりません。
「自分だったら、あの下に隠れるな」「今、尾ひれが見えたような……」などの直感を大事にすると、案外見つかるかもしれませんね。
──幼魚をすくった後は、どのようにするのがおすすめですか?
香里武さん 海水魚、特にデリケートな幼魚は飼育がとても難しく、水槽などの設備や電気代もかかるため、「飼ってみよう」とは軽々しく言えません。
観察ケースを持っているなら観察ケースに入れ、写真と映像を撮って記録し、観察を終えたら、漁港に戻すのがよいと思います。なるべく幼魚にダメージを与えないように、注意しながら観察しましょう。
岸壁幼魚採集の基本道具とは
「岸壁幼魚採集は、必要な道具がシンプルで手軽に始められるのも魅力」と、香里武さん。基本の道具とその選び方をガイドしてもらいました。
〈基本道具1:タモ網〉
「魚をすくう袋状の網で、柄が付いたものをタモ網といいます。最初の1本なら、長さ2メートル程度がいいでしょう。一般的な釣り用の網だと幼魚はすり抜けてしまうので、網目の細かいものを選びます。
また、枠の一辺が平らで、金属コーティングされていることがポイント。コンクリートや岩場のデコボコがあっても丈夫で破れにくく、長く使えます」(香里武さん)
〈基本道具2:水くみバケツ〉
「漁港は海面まで距離があることも多く、あると便利なのが、ロープ付きの水くみバケツ。漁港の高さを気にせず、簡単に海水を引っ張り上げられます。
ロープに一定の間隔で結び目を付けておくと、引き上げるときのすべり止めになって便利です。もちろん、すくった幼魚の観察に使っても」(香里武さん)
〈基本道具3:柄杓〉
「最近活躍しているのが、僕の背丈(182cm)ほどある巨大な柄杓(ひしゃく)。
幼魚をタモ網ですくうとき、どうしても数秒間は空気に触れさせてしまいがちですが、一瞬でも水からあげると弱ってしまうデリケートな幼魚も。水ごとすくえる柄杓があると便利です」(香里武さん)