コロナ禍の子どもの体力低下に効く! 運動遊びプログラム「JUMP‐JAM」3つの特徴

「JUMP‐JAM」監修者 千葉工業大学創造工学部・引原有輝教授 #2~遊びが子どもを変える理由~

千葉工業大学創造工学部教授:引原 有輝

「すべての子どもに体を動かす楽しさを」という思いから開発された「JUMP‐JAM」。  写真提供:一般財団法人児童健全育成推進財団

前回(#1)で触れたとおり、今、子どもたちの体力・運動能力の低下が問題となっています。

そんな子どもたちの状況を考慮して、全国の児童館を支援する一般財団法人児童健全育成推進財団と世界的スポーツブランドであるナイキがパートナーシップを組み、独自の運動遊びプログラム「JUMP‐JAM(ジャンジャン)」が開発されました。

自由な遊びとスポーツの要素を組み合わせたゲームには、体力の向上はもちろん、精神的な成長にもつながるさまざまな工夫や仕掛けがいっぱい。

引き続き、「JUMP‐JAM」を監修した、千葉工業大学創造工学部の引原有輝教授に、その魅力を伺います。

※全3回の2回目(#1を読む)

引原有輝(ひきはら・ゆうき)PROFILE
千葉工業大学創造工学部教育センター/創造工学研究科デザイン科学専攻教授。博士(体育科学)。東京都教育庁主導の統一体力テスト分析委員会委員。LEGO®SERIOUS PLAYトレーニング修了認定ファシリテータ。

千葉工業大学創造工学部の引原有輝教授。専門分野は発育発達学、健康体力学、行動科学。  写真提供:引原有輝

東京都内の児童館132ヵ所で実施中

「JUMP‐JAM(ジャンジャン)」は、現代の子どもたちの運動不足が問題となる中、「運動をすることが好きでも嫌いでも、得意でも不得意でもたくさんの子どもに、もっと身体を動かすことの楽しさを知ってもらいたい」というコンセプトから開発された、遊びとスポーツが融合したプログラムです。

千葉工業大学創造工学部の引原有輝(ひきはら・ゆうき)教授監修のもと児童館職員とともに62のゲームを考案。現在(2022年11月)、東京都内の児童館132ヵ所で、無料で実施されています。

対象は基本的には小学生ですが、乳幼児向けまたは中高生向けにアレンジするなど各児童館によって実施状況はさまざま。

いずれも、「JUMP‐JAM」専門のトレーニングを受けた児童館職員が実施しています。

ここ3年はコロナ禍で児童館等のイベント自粛が相次いだにもかかわらず、これまで延べ6万3000人もの子どもたちが参加。

2021年には、厚生労働省・スポーツ庁主催の「第10回 健康寿命をのばそう!アワード」の生活習慣病予防分野において「スポーツ庁長官 優秀賞 団体部門」を受賞しました。

「日本にはジャンケンや鬼ごっこなど、さまざまな伝承遊びや地域ごとの遊びがあるので、それらをベースに、実施する場所や子どもの年齢、人数、運動強度などを考慮して、まずは30種ほどのゲームを作りました。

次の段階では、小学校高学年以降も十分に楽しめるよう意識して、少し複雑なルールのゲームを作ってみたり。千葉工業大学の学生といっしょに、実践を交えながら開発していきました」(引原教授)

特徴① アレンジのしやすさ

「JUMP‐JAM」には、ジャンケンをして勝ったら次の塁へと進める「ジャンケンベースボール」や、丸いパネルを自分のチームの色にひっくり返す「リバーシ」など、多種多様なゲームがズラリ。

ルールのアレンジがしやすいことも特筆すべき点です。

「『JUMP‐JAM』の大きな特徴の一つは、子どもたち自身が遊び方を自由にアレンジ・工夫できるように、ルールを極力シンプルに作っていることです。

ルールどおりに遊んだあとは、いろいろなゲームを合体させて自分たちで新しいゲームを作ってみたり、『ルールでは走るとあるけれど歩いてみよう』などと〝味変〟したっていい。

冷蔵庫にあるものだけで作る〝名もなき料理〟ってあるでしょう。本来遊びも一緒で、ルールも何もないところから自分たちで考えて、いつの間にか〝名もなき遊び〟へと発展していくものなんです。

ところが今は、デジタルゲームなどの受動的な遊びに慣れすぎてしまい、自ら外遊びを展開できない子どもが目立ちます。『JUMP‐JAM』のゲームを素材にして、子どもたち自身が面白いと思う遊びをどんどん作っていってほしい。

能動的に遊ぶことは、主体性や創造力、コミュニケーション能力など子どもに必要なさまざまな力を育みます」(引原教授)

実施している児童館は「JUMP‐JAM」HPでぜひチェックを。  写真:一般財団法人児童健全育成推進財団

特徴② 勝ち負けにこだわらない

ゲームには、勝ち負けがつきもの。「勝ちたい」「負けたくない」という気持ちは、子どもが成長するうえで大切な感情の一つですが、スポーツのように過度に競技性を追求してしまうと自己否定につながることもあると引原教授は言います。

「スポーツだとスキルや能力のある選手やチームがたいてい勝ちますが、遊びは運の要素が強いため、誰もが勝ったり負けたりします。

ですので、『JUMP‐JAM』は勝ち負けにはこだわりません。しかし、誤解しないでほしいのは、勝ち負けはあるということ。なぜなら、子どもから、それをとったらつまらなくなるからです。

私は子どもたちと遊ぶときに、例えば『今日の朝食はパンかご飯か』でチーム分けをします。もし人数が均等にならなかったとしても、『少人数で勝てたらうれしくない?』などと言ってそのまま遊びますね。これも運の要素です。

負けると悔しくて泣く子ももちろんいますが、『自分はダメなんだ』と自己肯定感が下がることはない。たいていが「またやる!」と言って立ち直り、次の遊びが始まると笑顔で参加しています」(引原教授)

「JUMP‐JAM」のゲームを一部ご紹介!

【コーディネーションジャンケン】
相手とジャンケンをして、勝ったら「勝ったー!」とバンザイ、負けたら「負けたー!」としゃがんで床にタッチ、あいこなら「あいこー!」と言ってハイタッチをする。スキップやジャンプなど、動きを変えても◎。

【ふえるふえる手つなぎおに】
おにを1人決め、おににつかまった人はおにと手をつなぐ。おにが4人になったら2人ずつに分かれるなどして残る全員をつかまえる。どんどん増える鬼から、誰が逃げ続けられるかを競う。

【ケンケン相撲】
腕を前で組み、手は使わない。ケンケンをしながらぶつかり合ったり、よけたりしながら相手を土俵の外に出したほうが勝ち。

【戦国合戦三つ巴】
3チームに分かれ、配られたボール2個と各自つけたしっぽを奪い合い、自陣に持ち帰ることができたチームが勝ち。ボールやしっぽの奪い方に少し複雑なルールが課せられているため、とくに小学校高学年以降に人気がある。

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