【給食トラブル】子どもの「食物アレルギー対応」 学校ができること・できないこと 管理栄養士と現役教師が解説

令和の給食最前線 #5 ~給食トラブル・前編~

子どもたちの給食の時間。トラブルが起きた場合、現場ではどのような対応が取られているのでしょうか?  写真:milatas/イメージマート

「教師にとっては、給食時間の見守りも業務の一環。今の時代はアレルギーも多いので、給食の時間は本当に気が抜けません」

そう話すのは、東京学芸大学附属世田谷小学校の現役教師・通称ぬまっち先生こと、沼田晶弘先生。楽しい給食時間であっても、担任の先生は子どもたちの安全を守るべく目を光らせています。

都内の公立小学校で働く管理栄養士・松丸奨先生も、「アレルギーは本当にたくさんあります。子どもたちに絶対何かあってはいけない。給食で最も気をつかっているところです」と話します。

今回は、食物アレルギーを持つ子どもたちに給食現場はどう対応しているのか、お二人に伺いました。

(給食連載全6回の5回目。#1#2#3#4

松丸奨(まつまる・すすむ)
1983年千葉県生まれ。東京都文京区の公立小学校で管理栄養士として勤務。2013年、実際に提供されている給食の献立を競う「全国学校給食甲子園」(第8回)で、男性栄養士として初の優勝を果たす。日本テレビ系「世界一受けたい授業」などメディア出演多数。

沼田 晶弘(ぬまた・あきひろ)
1975年東京都生まれ。国立大学法人東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。
東京学芸大学教育学部卒業後、アメリカ・インディアナ州立ボールステイト大学大学院にて修士課程を修了。2006年から現職。子どもの自主性を引き出す斬新でユニークな授業が数多くのメディアで話題に。

「除去食」「代替食」「対応しない」 学校の食物アレルギー対応

2012年12月、東京都調布市で小学校5年生の児童が、粉チーズ入りのじゃがいもチヂミを食べてアナフィラキシーショックを起こし、亡くなってしまうという事故がありました。

この悲しい事故をきっかけに、アレルギー対策はより徹底された現場の対応が求められるようになりました。

「一般的にアレルギーがある児童への対応は、『除去食』『代替食』『アレルギーには対応しない』の3種類です。現在、全国の小中学校の多くで取られているのが、除去食の対応ではないでしょうか」(松丸先生)

除去食に次いで多い対応としては、代わりのメニューを学校側で用意する「代替食」です。除去した食材の代わりに別の食材を加えたり、調理法を変えたりして栄養を調整して子どもへ提供します。

「代替食は、除去食よりもきめ細やかな対応が必要となります。現場では、安全が最優先されるべきですが、子どもたちの安全を最優先で考えるなら、除去食がベターかなと思いますね」(松丸先生)

ぬまっち先生の学校では、献立にアレルギー食材が入っている場合は、家庭から別メニューを持ってくるというイレギュラーな対応も。

「わが校では、『除去』や『代替』などの特別な対応はしていません。アレルギーがあるメニューは食べないでもらい、給食の量が足りなくなるようなら家庭から代わりのおかずを持ってきてもらう、という対応をとっています。

受け持ちのクラスには、魚アレルギーの子がいるのですが、ボラのフライの日は、代わりにチキンカツを持ってきていましたね」(ぬまっち先生)

「アレルギー面談」 で管理栄養士と緻密なコミュニケーション

アレルギーへの対応は、保護者とコミュニケーションを密に図ることが求められます。これは、管理栄養士の役割です。

「一年に1度、保護者とアレルギーについての面談をします。丁寧にヒアリングして、その子への対応を考える。そして給食室、管理職、担任の先生、学校の中で、アレルギーの情報を共有します」(松丸先生)

アレルギーへの対応は、「二者択一でお願いしている」と松丸先生は話します。

「『これぐらいなら食べられる』という程度があるじゃないですか。子どもごとに細かな対応はしきれないので、『食べられるか、食べられないのか』のどちらかで判断をお願いしています」(松丸先生)

アレルギーのある子どもたちには、献立表が全校に配布される数日前に、先に献立表を渡します。該当する食品に印をつけ、保護者と情報を共有します。

実際にアレルギー事故を起こしたことはないとしながらも「ヒヤッとしたことは何度もある」と松丸先生。

「昔は食べられなかったけれど、今は食べて大丈夫という食材でも、子どもが『僕、この食材のアレルギーがある』なんて改めて言い出すと、現場は騒然! どこにもそんなこと書いてないし、伝達もされていないですから、子どもには食べるのを待ってもらい、急いで保護者へ連絡を取ります。担任の先生も給食室も大慌てです」(松丸先生)

子どもの勘違いや、ちょっとした発言による現場の混乱は少なくない、と沼田先生も言います。

「ただ苦手なだけの食材なのか、アレルギーなのか、大人にとったら全然違うじゃないですか。でも、子どもは混同していることがある。牛乳なんかは勘違いが多くて、『昔飲んで吐いちゃって苦手だから、飲めない』なんて言い出す子もいるんですよ」(ぬまっち先生)

「アレルギーと食の嗜好は別物、ということも教えていかなければいけないですね」(ぬまっち先生)。  撮影:日下部真紀

保護者や学校間での情報共有はもちろんのこと、子ども自身もきちんと自分のアレルギー品目を把握して、いざというときに誰かに正確な情報を伝えられるようにしておくことが大事です。

ビワで100人以上がアレルギー反応

ルールに則った対策と、きめ細やかな対応をしていても、避けられないトラブルがあります。

2024年6月、山梨県富士吉田市の教育委員会は、小中学校の給食で提供されたビワが原因とみられるアレルギーで、計126人の子どもがのどや目のかゆみなどの症状を訴えたと発表。市内の11校、約3500人にビワを提供したところ、3人が病院に搬送され、1人が入院する事態になりました。

しかし、ビワは、アレルギーの指定品目として登録されていませんでした。こういったところに、食物アレルギーの怖さがあります。

「アレルギーには、本当にいろいろな種類や症状があります。最近だと、花粉症などと複雑に絡み合って、症状が出る場合も。時期や体調によって、突然症状を訴える子もいます。一人一人の子どもを観察して、先生たちが細かく体調管理しないといけない。大変な時代だなと感じています」(松丸先生)

ぬまっち先生も、毎食の「いただきます」の前には、アレルギー表の確認を怠りません。

「クラスにアレルギー対応が必要な子がたくさんいると大変です。担任はもちろん毎食チェックしますし、アレルギーを持っている子は自分でもしっかり意識を持ってもらう。そして、クラスの仲間たちが『誰が、何を食べられないのか』をきちんと知っておくことも大事だと思います」(ぬまっち先生)

アレルギー対応食は、お皿やお盆の色を変えて提供するのが一般的。しかし一方で、「目立ちたくない、いじめにつながるのではないかという理由で、違う食器を使うことをあまり好まない保護者もいる」と松丸先生。

でも、何より最優先なのは、子どもの命を守ることです。アレルギーが特別な疾患ではなくなってきている現代、みんなが互いに理解を深められ、気を付けられるとよいでしょう。

“給食で初めて食べる”を少なくする

アレルギーに対して、家庭でできることはないのでしょうか。

「一般的な食材は、ご家庭で一度食べておいてほしいですね。例えば日常あまり見かける機会がないマンゴスチンは食べなくてもいいけれど、メロンは食べておいてほしいですし、ブラジリアンナッツは食べなくていいけれど、アーモンドとピーナッツは食べておいてほしい。

一般的な食材をどこまで指すのか難しいところではありますが、普段からいろいろな食材をご家庭でも登場させてもらえるといいかなと思います」(松丸先生)

珍しい食材は使っていないが、子どもたちが喜ぶ変わった献立は考えたいところ。写真はピタパンカレー。  写真提供:松丸奨

ぬまっち先生も「今の子どもたちは、給食で初めて向き合う食材や献立が多い」と話します。

「保護者の方も忙しくて、毎食ご飯を作るのが大変というのはよくわかります。でも、実感として、アレルギーを持つ子どもたちは年々増えてきている。給食で初めて口にするものが多い、というのは少し怖いですよね」(ぬまっち先生)

1ヵ月の献立を確認して、子どもが食べたことのないものがあれば予習しておくのもいいかもしれません。毎日の給食を楽しく、そして安全にするために、家庭にいる私たちにもできることがあるのではないでしょうか。

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次回6回目は、給食時間に想定されるさまざまなトラブルや、令和の時代に出てきた給食への課題などについて、引き続き、松丸先生に伺います。

取材・文/遠藤るりこ

令和の給食連載は全6回。
1回目2回目3回目4回目6回目を読む
(※6回目は2024年7月20日公開。公開日までリンク無効)

『子どもがすくすく育つ 日本一の給食レシピ』著:松丸奨(講談社)
『もう「反抗期」で悩まない! 親も子どももラクになる“ぬまっち流”思考法』著:沼田晶弘(集英社)
まつまる すすむ

松丸 奨

Susumu Matsumaru
管理栄養士・栄養教諭

1983年千葉県生まれ。東京都文京区の小学校で管理栄養士として勤務。2013年、実際に提供されている給食の献立を競う「全国学校給食甲子園」(第8回)で、男性栄養士として初の優勝を果たす。 フジテレビ系ドラマ『Chef~三ツ星の給食~』(2016年)では、給食の監修・調理指導を担当。台湾、フィリピンなど海外でも食育指導を行なう。日本テレビ系「世界一受けたい授業」やTBSラジオ「安住紳一郎の日曜天国」などメディア出演多数。 主な著書に『給食の謎 日本人の食生活の礎を探る』(幻冬舎新書) 、『給食が教えてくれたこと 「最高の献立」を作る、ぼくは学校栄養士』(くもん出版) 、『日本一の給食メシ 栄養満点3ステップ簡単レシピ100』(光文社)、『子どもがすくすく育つ 日本一の給食レシピ』(講談社) 。 公式ブログ『小学校栄養士 松丸奨のブログ』 Instagram @matsumaru.susumu Xアカウント @matsumarurecipe

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1983年千葉県生まれ。東京都文京区の小学校で管理栄養士として勤務。2013年、実際に提供されている給食の献立を競う「全国学校給食甲子園」(第8回)で、男性栄養士として初の優勝を果たす。 フジテレビ系ドラマ『Chef~三ツ星の給食~』(2016年)では、給食の監修・調理指導を担当。台湾、フィリピンなど海外でも食育指導を行なう。日本テレビ系「世界一受けたい授業」やTBSラジオ「安住紳一郎の日曜天国」などメディア出演多数。 主な著書に『給食の謎 日本人の食生活の礎を探る』(幻冬舎新書) 、『給食が教えてくれたこと 「最高の献立」を作る、ぼくは学校栄養士』(くもん出版) 、『日本一の給食メシ 栄養満点3ステップ簡単レシピ100』(光文社)、『子どもがすくすく育つ 日本一の給食レシピ』(講談社) 。 公式ブログ『小学校栄養士 松丸奨のブログ』 Instagram @matsumaru.susumu Xアカウント @matsumarurecipe

ぬまた あきひろ

沼田 晶弘

Akihiro Numata
東京学芸大学附属世田谷小学校教諭

1975年東京都生まれ。国立大学法人東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。 東京学芸大学教育学部卒業後、アメリカ・インディアナ州立ボールステイト大学大学院にて修士課程を修了。2006年から現職。子どもの自主性を引き出す斬新でユニークな授業が数多くのメディアで話題に。 主な著書に『「変」なクラスが世界を変える!』(中央公論新社)、『もう「反抗期」で悩まない! 親も子どももラクになる“ぬまっち流”思考法』(集英社)など。 Instagram @numatch16 X @88834 公式note https://note.com/numatch16

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1975年東京都生まれ。国立大学法人東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。 東京学芸大学教育学部卒業後、アメリカ・インディアナ州立ボールステイト大学大学院にて修士課程を修了。2006年から現職。子どもの自主性を引き出す斬新でユニークな授業が数多くのメディアで話題に。 主な著書に『「変」なクラスが世界を変える!』(中央公論新社)、『もう「反抗期」で悩まない! 親も子どももラクになる“ぬまっち流”思考法』(集英社)など。 Instagram @numatch16 X @88834 公式note https://note.com/numatch16

えんどう るりこ

遠藤 るりこ

ライター

ライター/編集者。東京都世田谷区在住、三兄弟の母。子育てメディアにて、妊娠・出産・子育て・子どもを取り巻く社会問題についての取材・執筆を行っている。歌人・河野裕子さんの「しつかりと 飯を食はせて 陽にあてし ふとんにくるみて寝かす仕合せ」という一首が、子育てのモットー。 https://lit.link/ruricoe

ライター/編集者。東京都世田谷区在住、三兄弟の母。子育てメディアにて、妊娠・出産・子育て・子どもを取り巻く社会問題についての取材・執筆を行っている。歌人・河野裕子さんの「しつかりと 飯を食はせて 陽にあてし ふとんにくるみて寝かす仕合せ」という一首が、子育てのモットー。 https://lit.link/ruricoe