
【子どもの口のケガ】抜けた・折れた・飲み込んだ! 症状別「応急処置」とは? 〔小児歯科専門医指導医〕がわかりやすく解説
子どもの口のケガ〔宮新美智世先生〕#2
2025.08.13
日本外傷歯学会副理事長:宮新 美智世

「子どもの口トラブル」連載2回目。今回は、「歯が抜けた」「折れた」「誤って飲み込んだ」「唇を切った」など、起こりやすいトラブルのとき、家庭ではどのように応急処置をすればよいでしょうか。
日本外傷歯学会副理事長の宮新美智世先生にお聞きしました。
(全3回の2回目。1回目を読む。3回目を読む。※公開時よりリンク有効)
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【永久歯が抜けた】水洗いは厳禁! ラップ保存で細胞を守る
──子どもの口のケガで、歯をぶつけて永久歯が抜け落ちてしまった場合、保護者としては「もう元に戻らないかもしれない」という強い不安を感じます。まず、どのような行動を取ればよいでしょうか?
宮新美智世先生(以下、宮新先生):歯が抜けてしまうと「もう戻らないかも」という不安が大きいのはわかります。ただし、永久歯の場合、1時間以内に歯科で植え直してもらうと、永久歯は元に戻せる可能性が高いです。時間が経つほど不利になるので、早めの受診が大切です。
ただし、受診前にやらない方がよいのは、水道水で抜けた歯を洗うことです。
水道水は塩素を含み、浸透圧が低いので、歯の根の周囲にある「歯根膜(しこんまく)」という組織の細胞を殺してしまう可能性があります。
私たちの歯は、血液や体液などの一定の環境で「生きている組織」です。水道水にさらすと、この大切な細胞がダメージを受けてしまうのです。
また、歯根膜は乾燥にも弱いため、抜けた歯は乾かさないように注意が必要です。
具体的には以下になります。
1.抜けた歯はそのままの状態で保管。血がついていてもそのままで。水で洗わない。
2.乾燥を防ぐためにラップで包む。
3.歯科医院に連絡し、できるだけ早く向かう。1時間以内が理想的。
「歯の汚れを取らなければ」と、つい保護者の方は心配されるかと思いますが、よい治り方を目指すためには、歯科受診を急ぎ、歯科で安全な洗浄を行ってもらうのが最良です。
なお、どうしても洗いたいものが付着してしまった場合は、生理食塩水を使うのが望ましく、数分以内の処置であれば歯根膜への影響も少ないとされています。
市販の生理食塩水が手元にないときは、熱湯500mlに食塩小さじ1を溶かし、体温程度まで冷ましたものでも代用できます。また、水道水は10分以上沸騰させることで塩素を除去できますが、あくまでも応急的な対応にとどめ、受診を急ぎましょう。