朝ドラ「おかえりモネ」おじいちゃんのモデル畠山重篤さんってどんな人?

モネとカナヨの木

小鮒 由起子

NHK朝の連続テレビ小説『おかえりモネ』が佳境を迎えています。

藤竜也演じるモネのおじいちゃんの龍己さんが、幼いモネを山に連れてゆき、一緒に落葉広葉樹の苗木を植えるシーンが繰り返し回想されます。

「山と海はつながっているんだよ」という言葉とともに……。

モネのおじいちゃんのモデル

モネのおじいちゃんには、モデルがいます。

1989年、宮城県気仙沼で豊かな海を守るために漁師が山に木を植える「森は海の恋人」運動を始めた牡蠣漁師・畠山重篤さんです。

山に漁師のシンボル・大漁旗を翻らせた植樹祭には、川の流域に住む人々も加わり、10年後、汚れに汚れていた海は見事に青い海になりました。

今では「森は海の恋人」植樹祭には、全国から大勢の参加者がやってきます。

畠山重篤さん。「カキじいさん」と呼ばれる 写真:NPO法人森は海の恋人
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▲森は海の恋人事務局 Facebook

そして、畠山さんの暮らす海があるのは「舞根」。「もうね」と読みます。主人公の名前のモネは、「舞根」から取ったにちがいないと、畠山さんは思っているようです。

「おかえり舞根」――ドラマ同様、3.11の大津波では、舞根も大きな被害を受けました。カキの養殖筏も養殖場も流されました。集落の家の大部分も流されました。

そんな中、「美しい故郷は必ず蘇る」と復興を牽引したのが畠山さんです。大震災から10年、故郷舞根の今の景色がこれです。

舞根。山・川・湿地・汽水湖・海が一望できるミクロコスモス

「カナヨちゃん」がやってきた

この舞根の写真を撮ったのは、絵本作家のスギヤマカナヨさん。

2000年刊の『漁師さんの森づくり』(畠山重篤:著、スギヤマカナヨ :絵)以来、畠山さんの子ども向けの本におけるパートナーです。毎年6月に開催される「森は海の恋人植樹祭」には家族で参加しています。

植樹するスギヤマカナヨさん(左)

『漁師さんの森づくり』は、日本エッセイストクラブ賞の受賞歴もある畠山さんが初めて書いた児童書でした。100種類以上登場する生き物を正確に愛らしく描ける方を、と抜擢されたのがスギヤマさんでした。

畠山さんは「絵描きさんには是非、現地を見てほしい」とおっしゃいます。ところがその時、スギヤマさんには赤ちゃんが生まれたばかりでした。

そこでなんと、ご夫君と赤ちゃん同伴で取材に行ったのです。畠山さんにも初のお孫さんが生まれたところで、ふたりの女の子の赤ちゃんが舞根で出会いました。

ママが取材している間は、畠山家の母屋でパパと畠山さんのお母様が赤ちゃんをみていてくれました。お母様が「パパさん、抱っこがお上手」と微笑まれました。こうして気がつくと、畠山さんはスギヤマさんを「カナヨちゃん」と呼ぶようになっていたのです。

取材の甲斐あって、この本は今に至るまでコンスタントに版を重ねるロングセラーになっています。

「本」を越えて――みんなみんなつながっている

2008年、「森は海の恋人」20周年にオマージュとして製作された『山に木を植えました』(スギヤマカナヨ :作、畠山重篤:監修)。

森と海をつなぐ、驚くべき自然のメカニズム。幼少の読者をふまえながらも最新の科学の知見を折り込み、大人も魅了する美しい絵本です。

そして、この絵本はまたしてもカナヨさんの二人目の赤ちゃんとともに生まれました。今度は東京の畠山さんの定宿のホテルのカフェで打ち合わせ。カナヨさんがゲラを見ている間、畠山さんが坊やを抱っこしてあやしていました。

その坊やも大きくなって、畠山さんのお孫さんと木造船で遊ぶ。毎年の植樹祭で気仙沼に家族で訪れるのは里帰りのよう

『山に木を植えました』の刊行時、上の娘さんは小学生になっており、娘さんの小学校でこの本のワークショップが行われました。全学年参加、体育館中を使って山から海までの世界を作り上げるというダイナミックなものです。

畠山さんも駆けつけてお話をしました。様々なところで講演の多い畠山さんですが、アートとのジョイントは初めてだったはずです。カナヨさんもこの頃から、本を読むだけに留めるのでなく、アイディア満載の授業やワークショップで子どもたちに届ける活動に、精力的に取り組むようになり、それは全国に広がっていきます。

次の時代を生きる子どもたちに、希望を伝えたい――二人の想いは自然に響きあっていくようでした。

東日本大震災が起きたとき、畠山さんを迎えた小学校の全校児童がカナヨさんと共に作った大漁旗。畠山さんに届けられ、森は海の恋人植樹祭の会場で翻った。

オドロキ モモノキ カナヨの木

漁師が山に木を植えるということは、人の心に木を植えることでもありました――2018年、『人の心に木を植える「森は海の恋人」30年』が刊行されました。東日本大震災を越えて新たに紡がれるいのちの物語です。

そして、今年2021年10月、スギヤマカナヨさんがデビュー30周年を迎えました。

10月6日より神保町のブックハウスカフェで記念原画展&イベントが開催されています。第2週には畠山さんとの仕事の原画も展観され、畠山さんを迎えての対談もあります。

数多くの講演やイベント積み重ねているお二人ですが、なんと二人の対談は今回が初めて。思いがけない秘話が飛び出しそうです。見逃し配信もありますので、ぜひお聞き逃しなく!

原画展&イベントの情報を見る

関連書

漁師さんの森づくり -森は海の恋人-
(畠山重篤:著 スギヤマカナヨ:絵)
著者・畠山氏の活動は小・中学校の多くの教科書に収められ天声人語などの有力紙コラムやNHK、TBS、NTVなどにも何度も取り上げられている。全国の小・中学校への講演活動、子どもたちを海に招いての「体験学習」も続けており受け入れた人数は5000人を超える。いうなれば、「森と海の親善大使」である。
第50回小学館出版文化賞・第48回産経児童出版文化賞JR賞受賞
山に木を植えました
(スギヤマ カナヨ:作 畠山重篤:監修)
森と海、人と自然のつながりが一冊の絵本に 豊かな海を守るために、漁師さんたちが植林活動を初めて今年で20年。山に木を植えるということは、人々の心に木を植えるということでもありましたーー-。
人の心に木を植える 「森は海の恋人」30年
(畠山重篤:著 スギヤマカナヨ:絵)
「森は海の恋人」の合言葉をかかげて、気仙沼のカキ漁師・畠山重篤さんたちが植林運動を始めて30年。その間、東日本大震災が発生し、「千年に一度」と言われる大津波に襲われました。すべてが流され、海は死んだかに見えました。しかし、まもなくして海に魚たちがもどってきました。それは山に木を植えつづけ、海に流れこんでいる川と背景の森林の環境を整えたゆえの成果だったのです--。

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こぶな ゆきこ

小鮒 由起子

書籍編集者

書籍編集者。『学校の怪談』シリーズ(常光徹)によってフリーランスで書籍編集をスタート。講談社での仕事に畠山重篤氏の一連の著作の他、『完訳クラシック グリム童話』(池田香代子訳)、『編集者の学校』(講談社Web現代編)、『宇宙においでよ!』(野口聡一・林公代)、『野口雨情伝』(野口不二子)など。2019年にこぶな書店設立。

書籍編集者。『学校の怪談』シリーズ(常光徹)によってフリーランスで書籍編集をスタート。講談社での仕事に畠山重篤氏の一連の著作の他、『完訳クラシック グリム童話』(池田香代子訳)、『編集者の学校』(講談社Web現代編)、『宇宙においでよ!』(野口聡一・林公代)、『野口雨情伝』(野口不二子)など。2019年にこぶな書店設立。